【対談】ポスト資本主義見据えた 左派の戦略とは?縮小研究会 代表 松久 寛 vs 薔薇マークキャンペーン 松尾 匡

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反緊縮経済政策と脱成長縮小社会をめぐって

参院選では、山本太郎氏の主張と候補者が大きな話題となった。消費税廃止、奨学金徳政令など、れいわ新党の経済政策の柱となっていたのが、「薔薇マークキャンペーン」の「反緊縮」政策だ。  

人民新聞でも松尾匡さんのインタビューなどを通して「反緊縮」経済政策について紹介してきたが、「反緊縮」は、欧米左派の共通の財政政策になっており、日本でも反緊縮=薔薇マークキャンペーンの主張が受け入れられる素地は充分にあることを証明した。  

一方、環境問題・化石燃料の枯渇を考えると、長期的には経済活動の縮小も必要だろう。反緊縮と縮小社会は、表面的には真逆の方向だが、長期的な戦略としての「縮小社会」と、当面の課題=貧困対策としての「反緊縮」は両立しうるのではないか? 

そんな問題意識で、対談を企画した。  

対談では、(1)縮小社会のなかで失業問題をどう解決するのか?、(2)環境負荷なき経済成長は可能か?、(3)国家の役割とは?なども話し合ってもらった。(文責・編集部)

深刻な貧困問題に焦点当てた れいわ新選組への大衆的注目 松尾

松尾:先の衆院選で宮城県の石垣のりこさんが、「消費税はいらない」と主張して物議を醸しました。消費税凍結にとどまらず税率下げを訴え、東北他県にも影響を与えました。同候補が現職有力候補を破って当選したことは、薔薇マークキャンペーンの主張が一定受け入れられたと思っています。「消費税を下げる。廃止する」という主張がタブーでなくなり、政治の世界でも語られるようになったことは、大きな変化です。  

新自由主義の蔓延で貧困が広がり、特にロスジェネ・貧困家庭では生活崩壊まで進んでいます。この深刻な問題に山本太郎氏の党が、初めて焦点を当て、支持を集めました。東京五輪後、経済は土砂降りの状態になるでしょうから、消費税を下げろという有権者の声は高まるでしょう。大胆な財政出動要求も高まるでしょう。  

安倍政権は、そうした声に応える形で景気対策を打ち、衆院解散に打って出るかもわかりません。この景気対策に野党が反対すれば、選挙でボロ負けするのは明らかです。  

橋下が「反緊縮」掲げ 再登場する可能性

さらに橋下氏は頭のいい人ですから、「反緊縮」=景気対策を掲げて再登場する可能性もあります。かつて橋下氏は、緊縮財政派として支持を集めましたが、時代の空気を読んで、「反緊縮」に衣替えするのです。政府よりもさらに積極的な景気対策を要求し、維新や自民の一部を集めて新党を立ち上げて、右から政権を批判する形で政府批判票を集めることも十分予想されます。安倍首相にとって橋下氏は改憲の盟友ですから、大歓迎。自民が減っても、改憲勢力では国会を制圧することになりかねません。  

こうした事態に、左派、特に社民・新社はどうするのか? 「れいわ新選組」を右との共同に行かせず、左旋回させるにはどうするか? 考えておくべきだと思います。次の野党再編を見通す時に「反緊縮」に理解がないと、「れいわ新選組」は、右との共同にひっぱられるかも知れません。  

編:山本太郎氏との協力関係はいつ頃から?  

松尾:2016年、日曜討論で山本太郎氏が語る経済政策が私から見てまっとうな内容だったので、注目していました。その後山本氏から連絡があり、相談に乗るようになりました。ちょうどその頃、私たちは反緊縮を掲げた「人々のための経済政策研究会」を結成した頃で、山本氏はその講座のナレーターをして経済学を学びました。以降、協力関係にあります。

化石燃料からの脱却 待ったなし 経済成長持続は地球破滅への道 松久

松久:「反緊縮」で景気対策といっても、経済成長は永遠に続くものではありません。安く資源を買いたたき高い製品を売るという経済植民地は、資本の成長に不可欠ですが、現代では、そういう経済的フロンティアがなくなっています。経済活動の根幹である化石燃料も枯渇することが見えています。さらに、環境問題の制約もあります。これらの大状況のなかで、経済成長の持続は破滅への道です。次世代の持続のためには、資源消費を縮小すべきです。  

現代文明の根幹である化石燃料からの脱却は待ったなしですから、できるだけ早くシステムを変更して縮小経済に向かうべきだと考えています。  

人間は、1日2000キロ㌍で生命を維持できるのですが、日本人は現在、10万キロ㌍使っています。50倍ものエネルギー消費が可能なのは、良質・安価な化石燃料を大量消費しているからです。  

大量生産大量消費時代の終焉 2%の経済縮小は可能 松久

近代資本主義の発展のなかでは、使い捨てが推奨され、大量生産大量消費が成長の条件とされてきました。こうした経済思想が70年以降、社会を覆いつくしましたが、もう限界が見えています。  

人口減少は、人類のエネルギー消費を減少させるので、むしろ歓迎すべきことです。日本においては、省エネ技術による貢献も合わせると、毎年2%の省エネは技術的に可能ですし、意識改革でさらに縮小は可能です。このペースで化石燃料消費を減らせれば、何とか軟着陸できるのです。問題は、こうした事実を受け止め、私たちの意識を変化させることです。

編:「持続可能」ではなく、あえて「縮小」をいう理由は?

松久:「持続可能」はさまざまです。企業にとって「持続可能」は、売り上げ増の持続です。政府は、GDP増の持続です。市民にとっては現状の持続です。気候変動を抑えるなど、環境の持続には、CO2排出量の減少、すなわち化石燃料の消費を止めねばなりません。このように、ニュアンスどころか方向性も違うのです。

雇用改善のための成長は必要 松尾

松尾:成長には、長期成長と短期成長があります。完全雇用が確保された状態でさらに経済成長を求める必要はない、と思っています。しかし、現在のように失業者や低賃金非正規労働が蔓延している状態を改善するための経済成長は、必要です。  

私が主張しているのは、雇用改善を目的とした経済成長です。高齢化社会を迎えて、介護労働や介護施設・器具生産を拡大する必要があります。社会に必要な労働が増えないで失業があふれる状態は、改善しなければなりません。  

生活が苦しい人は、安いものを買わざるを得ないのですが、激安品は往々にして環境負荷が高い方法で生産されています。環境負荷の低い生産物や方法が広がらない背景には、貧困があります。

誰もが生活できる賃金と雇用を  松久

松久:雇用も貧富も分配の問題です。戦後、日本の生産性は10倍になっているので、生活レベルを維持するには、10分の1の労働時間で足りることになります。一部の労働者が長時間働いているから、失業者が増えているのです。まず、労働時間を制限することです。  

自由競争のなかでは、資本家に対し労働者は、弱いので、賃金低下が起こります。だから、最低賃金をあげて、収入を分け合えば良いのです。非正規雇用が広がり4割になろうとしているので、実質賃金は下がり続けています。最賃引き上げとワークシェアリングで、誰もが生活できる仕事と賃金を保障すべきだと考えます。最賃が上がり非正規で暮らせるようになると、正規雇用の意味が変わってくると思います。  

高齢化についても「問題」とされていますが、年齢に関係なく、みんながそれぞれのやり方で何らかの生産や社会活動に参画すればよいと思います。年齢や国籍に関係なく同一労働同一賃金も必要です。

松尾:総人口に占める労働人口は、ほぼ5割で一定しています。最近5年は、主婦や高齢者が労働市場に参入して、増加すらしています。年金制度の破綻が騒がれていますが、75才以上の高齢者の比率も1/4で頭打ちとなる予測なので、年金制度が破綻することはほぼないと言えます。  

ただし、後期高齢者の増加は顕著なので、介護・医療関連で働く人は増加しなければなりません。日本の後期高齢者の1人あたりの社会サービスに就いている人数は、北欧に比べてかなり低いのが現状です。

どの分野に税金を投入するのか 最低賃金は高位同一化が原則 松尾

松久:「反緊縮」といっても、税金をどの分野に使うのか?が重要です。景気対策といっても、公共事業や軍事産業に使うのか、「ベーシックインカム」のように国民に直接支給するのかが大きな違いです。

松尾:小泉改革は、資本主義的ワークシェアリングの実施でした。正社員の長時間労働を非正規に分割したのですが、これによって貧困化が加速しました。したがって、同一労働同一賃金をいう場合は、低位同一化ではなく高位同一化を原則にしなければなりません。世代間対立も、中高年の賃金を下げる方向に行くと対立が高まります。どの分野に税金を使うのか? 

どちらの方向に同一化するのか? 極めて重要な違いです。  

欧米左派では、グリーンニューディールという経済政策が注目されています。代替エネルギーの開発・拡大に人とお金を使う、という考え方です。日本では、福島原発の廃炉作業に膨大なお金と労働力が必要です。「廃炉ニューディール」も必要な政策でしょう。  

完全雇用のための安定した成長は必要ですが、インフレになったら、法人税増税によって無駄な設備投資を抑えることはできます。無駄な設備投資を抑えて、介護・医療といった必要な経済分野に労働を配分し直すわけです。長期的に労働人口は増えないので、完全雇用を達成したら経済が拡大することはありませんから。  

また、設備投資の資金は、銀行の信用創造なので、これを政策的に抑えることもできます。具体的には預金準備率を高めたり、銀行の自己資本比率を高めることなどがその手法です。  

景気が悪くなった時には、高い法人税を維持したまま、設備投資への政府補助金を支出するのです。これで企業は積極的に設備投資を行うはずです。経済規模拡大のための投資ではなく、更新のための投資です。景気循環に応じたこうした政策誘導によって、省エネルギー・代替エネルギーの開発、さらには介護・医療分野など未来社会を見越した設備投資を誘導することができます。

弱肉強食を規制する国家の役割 財政出動による経済活動を誘導

編:いずれにしても、国家の役割は大きくなりますね。

松久:自由競争を放置すれば、弱肉強食になることは必然なので、国家による規制は必要です。労働時間をはじめとした労働規制や経済縮小に向けて主導性を発揮する役割も、求められます。 

松尾:国家主導の社会変革が、官僚制をはじめとしたさまざまな問題を生み出したことはたしかです。社会主義の失敗が宣伝され、一気に新自由主義に転換するのですが、そのスローガンは、「小さな政府」でした。これが正当化された理由は、官僚の恣意的采配が腐敗や利権を生み出しているので、官僚の権限を制限して公明正大な行政が求められたのでした。  

ところが、橋下さんたちは、財政的に小さな政府を主張して公務員バッシングをしながら、行政トップの権限を強化してトップダウンの行政を作りあげてきました。恣意的な采配は強化されたのです。こうして新たな利権集団が形成・強化されたのでした。  

環境基準や労働規制など、国家による資本の規制を強化し、財政出動によってよりよい社会に向けて経済活動を誘導をすることは、必要ですし、本来の国家の役割です。

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