アベノミクスに的確な批判と対案を

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金融資本主義を地域の協同労働で乗り越えよう

京都大学名誉教授/大阪労働学校・アソシエ学長 本山 美彦さんインタビュー

 安倍政権が5年目を迎え、いまだに高い支持率を維持。強行採決を連発できる独裁状態が強まっている。それは経済政策「アベノミクス」への世論の高い期待から始まった。だが「異次元の金融緩和」などが、実際の雇用は何も生み出さないことが明らかになってきている。それでも幻想がなくなったとは言いがたく、支持率も高いままだ。
 本紙ではその理由を経済学者の本山美彦さんに伺った。本山さんは「人心を掌握するために練られた経済政策であり、的確な批判と対案が不足している」と指摘する。あらためてアベノミクスとは何だったのか。なぜ幻想をふりまくことができたのか。政権は次に何を狙っており、私たちはそれとは違う未来をどう創れば良いのか。本山さんは縦横無尽に展開した。                    (文責・編集部)


本山さんが学長を務める大阪労働学校アソシエでは、市民受講生を募集中。
【連絡先】
大阪府大阪市西区川口2-4-2(JR大阪環状線「野田」駅徒歩20分、地下鉄中央線・千日前線「阿波座」駅徒歩10分)
電話:06-6583-5555 メール:ols-associe.or.jp

米国経済を助けただけ金融オンリーの経済政策

 安倍政権の高支持率を支えてきたのは経済政策「アベノミクス」への幻想です。それは、批判する側にも歴史的視点からの批判や対案が不足していることが影響していると思います。「アベノミクス」は単なる言葉遊びにすぎません。金融中心主義の経済政策を表す言葉が無かったために作られた造語です。しかし経済と人心を支配するためにそれなりに練られた経済政策であり、「カネをバラまいているだけだ」などの情緒的批判では足りません。まずそれが登場した背景を考えます。
 戦後の東西冷戦時代は、西側諸国でケインズ式の社会福祉政策が重視されました。通貨を厳密に管理しながら、積極的な財政政策で各種産業を政府主導下で支えてきたものです。
 しかし、70年代にベトナム戦争費用の激増に苦しんだ米国は、ドルを金に結びつける固定相場制の重荷を脱ぎ去り、変動相場制へと移行しました。これ以降、「財政より通貨が重要である」を掲げる「マネタリスト」たちが世論を引っ張るようになり、通貨量の伸びを経済成長率以下に抑え、規制緩和を進めました。
 しかし、2008年にサブプライムローンのバブルが弾け、リーマン・ブラザーズが経営破綻。世界の銀行が次々倒産します。低金利政策がバブルを生み、バブルが破裂して金融機関が倒産したのに、米国は金融機関を救済すべく異例の金融緩和に踏み切り、公的資金も注ぎ込みます。
 その口実に「インフレ・ターゲット論」が用いられました。「物価下落という『デフレ』効果のために企業業績が上がらず、経済の先行きを憂う消費者が物を買い控えることで、経済はさらに落ち込んでいる。適度に消費者物価を高めて企業業績を回復させることが大事で、通貨をどんどん発行すれば物価が上がり、デフレを脱却できるはずだ」というものです。
 この日本版が、「アベノミクス」三本の矢の「第一の矢」、4年前に打ち出された「異次元の金融緩和」でした。

経済停滞時金融操作は効果なし

 しかし、企業が雇用を増やさないのは、社会全体の経済上の心理が縮小しているからで、通貨を増やしても企業投資は増えません。消費者物価は依然としてマイナスであり、第一の矢は完全に失敗しました。「2本目の矢」=補正予算による「景気対策」も、国債発行が増えただけで不発でした。国の長期債務の対国内総生産比は、4年前の143%から今は156%にまで増えてしまいました。「3本目の矢」の産業政策も、かけ声だけで全く何もしません。
 つまり金融、なかでも通貨増発は柔らかいヒモと同じで、ヒモは引っ張れても押すことはできません。実体経済は馬であり、経済の主役である企業が投資に踏み切らない限り、つまり馬が自己の意志で動こうとしない限り、引っ張っても効果はありません。経済の停滞時は、金融は効果がないのです。
 しかしこの金融緩和の結果、国債売買に海外勢が大挙参入しました。14年10月から16年8月まで44カ月連続で、毎月10兆円を超える買い越しを行いました。海外勢の国債保有率は10%、満期1年未満に限定すると49%にも達しました。しかもメガバンクが国債を担保に米ドルを借り、郵貯もドル買入に参入したので、「ドル余り」に苦しむ米国企業が最も得をしています。短期国債は完全に外国人に支配されている状況です。
 つまり、アベノミクスとは、米国のドル支配がもたなくなった時に、日本のなけなしの国債を担保として差し出し助けただけの政策でした。その本当の怖さは、野党もわかっていないのではないか。その怖さを指摘しないと、アベノミクス批判は情緒的に留まるのです。

日本には特別な経済政策があるというナショナリズム

 では、なぜ人々を苦しめるだけの政策が支持を集めたのか。安倍政権が「日本会議」と強固な関係を持ち、ナショナリズムを煽っていることは広く知られています。かつて1980年代に、日本が世界経済を支配するかのような幻想が持たれました。アベノミクスはそれと同じく、「日本には何か特別な経済の力や経済政策がある」というナショナリズムの感情を煽っているのです。
 また、彼らが意図しただけでなく、私たちの奥底にも戦前の「日本バンザイ」「日本人は優れている」という意識も残り続けていると思います。「サムライジャパン」という言葉を恥ずかしげもなく使います。封建時代の名残りです。欧州で騎士と言ったら時代錯誤であり、「我々は騎士道精神に基づいて」などと宣誓で言うはずがありません。
 私たちは江戸からすぐに明治になったと思いがちですが、薩長同盟は明治直後からではなく、最初の10年間は公家の支配下にありました。たとえば神前結婚は大正天皇の結婚式からで、それまで結婚式は、家でやっていました。つまり、封建制は崩れても公家社会や薩長に引き継がれました。日本は市民革命を経験していないので、つい昔の幕藩体制に憧れてしまうのです。
 どんな国でも確かに外国との違いはありますが、外国より優れているということ自体がありえません。しかし、私たち日本の精神状況は、「違い」より「優れている」という方向と、「このナショナリズムを邪魔する奴は誰か」という排除の方向にもって行かれやすいのです。
 また、安倍首相は、小泉純一郎のような米国のポチそのものではない。米国は心を許してはいない。だけど、ナショナリズムをくすぐりながらも、米国と正面切って喧嘩にはならないように上手に立ち回っているのは確かです。
 田中角栄が70年代の石油ショックの時に独自外交を展開したために、米国の尻尾を踏んでロッキード裁判で追い落とされました。その轍を踏まないように角栄ばりに上手にやっているのが、安倍の人気の秘密だと思います。つまり、庶民より権力側のプロに「こいつは使える、ボロを出さないぞ」と人気があるのではないか。これは勝手な想像ですが、そうでなければ自民党の内部から「倒してみせる」という声が全く挙がらないのは不思議だからです。
 「高い支持率」も実態は怪しく、私など一度も調査を受けたことがありませんが、選挙のたびに直前に発表され誘導される。このように、マスコミも完全に抑えられました。

ITと右翼の結合狙う政財界希望は地域社会にある

 でも、今やアベノミクスは担保にすべき国債がなくなった。一方で国債の増発は、市民との約束でもう無理。手の打ちようがない。次にかろうじて考えられたのは、インターネットです。今は完全にアップルやグーグルの時代であり、日本のメーカーは下請けばかり。米国トランプの勝利にも、ツイッターの効果が表れました。
 「アメリカの強さはあのスマートフォンだ」として、日本でもスマホ的なインフラを作ろうと動く。そこで出てきたのが、マイナンバーです。これは、監視社会の問題だけでなく、米国に抑えられているネットのプラットフォームを日本でも作るために、全てが加入できるサーバーとしてのマイナンバーを企んだわけです。だから、マイナンバーのサーバーが日本のどこにあるのか誰も知りません。
 しかし、マイナンバー加入もいまいち伸びない。それでもネットによる支配は必要だから、次はAI=人工知能を出してきた。米国に負けた企業が全部手を上げて、AI関連に巨大なお金が注ぎ込まれています。政権は、アベノミクスの失敗を公的には認めず、なし崩し的になかったことにすると思います。
 そのため、今後は「ナショナリズムと結びついたネット社会の建設」が声を大にして出てくると思います。今は直接顔と顔の見える関係ではなく、ネットを通して相手の情報がパッと入ってくる。そこでよく使われる「シェア、拡散してください」という言葉が私は嫌いなのですが、それで人間関係を作る人が膨大にいます。
 右翼は、「それを左翼に握られてたまるか」ということで、早め早めに懸命にネット右翼を育てようとしてきたのだと思います。それが選挙のたびに顕在化して、(左翼は)知らず知らずのうちに占領されてしまっている。日本のインターネットは、左の声がほとんどなく、右の声ばかりです。こうして政財界が次の脱出口を探そうとする時に、切り札としてまたナショナリズムが出るのです。

庶民はファンドの餌食になるだけ

 ネット社会の中で、再び金融機関を救おうとして、IT技術を使った新たな金融サービス「FinTech(フィンテック)」を出しています。金融=「Finance」と、技術=「Technology」を組み合わせた造語です。次の闘いの場はそこになるでしょう。
 そもそも私たちは株をほとんど買っておらず、ファンドの餌食になっているだけです。ファンドにとって、株は上がれば良いのではなく、勾配がきついほど良い。私たち素人は「安く買って高く儲けた」と言うけど、プロは逆に「高く売って安く買い直し」ます。それができるのは、大きなファンドだけです。
 すると結局、立ち会いの場に人工知能を置き、一瞬でも早く情報を掴もうとします。何万回という取引が一瞬で成立し、その後に私たち素人が付いていって餌食になるのです。トランプの登場で日本の株は上げ下げを繰り返していますが、外国のプロはしてやったりとほくそ笑んでいるはずです。上がり下がりの急勾配があるほど良いからです。ニューヨークより日本の方が明らかに勾配がきついのは、ファンドの手が入っているからだ、と気づかなければなりません。

地域通貨で仕事は作れる

 金融に支配されたこの状況では、批判者側も、地域通貨を作っていく方向性が必要だと思います。つまり、雇用はやろうと思えば無限にある、問題は企業が儲からないだけです。老人の介護に一週間張り付いた時、地域の人たちは「ありがとうございます」とお金を渡し、そのお金でご飯を食べたらいいのです。儲からなくても雇用を増やすための地域のお金を一刻も早く作ることが必要で、そうすれば雇用は回復します。
 具体的事例はギリシャです。ただでさえ経済が苦しいのに、中東の難民たちはまずギリシャに逃げてきます。ユーロからも離脱させてもらえず、通貨・ドラクマの回復も難しい中で、やむにやまれず地域通貨を作って生き延びています。これをもっと勉強して、自分たちの地域で生きていく方法を創りましょう。
 庶民には「法貨」の発行権限はなく、銀行は儲からなかったら融資しない。ならば自分たちは儲からなくてもよいお金を作り、失業者を救済するのです。無限の需要が老人介護にはあるのだし、若い親が働いている時の子どもの面倒もみないといけないのですから。今はその給料が安いから人が集まらないのであり、地域通貨で給料を上げるしか解決策はないのです。

全てを社会化する社会主義を

 地域社会に根ざすことも重要です。私は、学長を務める「大阪労働学校・アソシエ」が建つ阿波座地区にある、自然発生的な市場「雑魚場」に注目しています。土佐藩がここに来て、「土佐堀」を掘り、ウナギやカツオを売って大きな資金源にしました。それに付いてきたのが三菱本社でした。
 また、賀川豊彦が参考にした、日本最初の大規模労働争議を起こした藤永田造船所は、ここ川口(かわぐち)から別れている川の下流にありました。賀川たちは、労働者の学校もこの辺りに作りました。阪神野田近辺にも後の労組の全国センターができていきました。大阪には部落解放運動の実践もあります。そうした過去は今や忘れられていますが、私たちはそれを考えながらここに「アソシエ」を作りました。
 私が大阪の前にいた福井にも、東大阪や八尾にも、まだ昔の顔の見える工業や農業が残っています。中小企業を活かすことが大事です。そして大企業でも、会社に対して、ボーナスの代わりに株を組合に渡せと要求し、組合が経営会議で発言力を持てるようにしておくことです。
 このように、アベノミクスを批判し、具体的に乗り越えていけば、希望が生まれるはずです。「金もうけは悪だ。貧しくてもみんなが飯を食べていける」として、金融中心の社会をひっくり返しましょう。そうして全てを社会化していくことが大事であり、その意味で「社会主義!」と言いましょう。そんな革命論議をやるべきです。
 前衛党を作って「打倒資本」と言うのはかっこいいですが、何十年も同じことを続けて、気がつけばみんな右にかすめ取られています。抽象的でなく具体的な地域社会、雇用、通貨を作っていくことが大切です。

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