パナマ文書 税務当局は徹底調査と課税を

金持ちの脱税には目をつぶる安倍政権

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TPP交渉差止・違憲訴訟の会副代表/弁護士
和田 聖仁さんインタビュー

 「租税回避地」とも訳されるタックスヘイブンの一端が暴露された。パナマ文書公開を前にして、金融取引の老舗=ロンドンでは、「税の公正を求めるグローバル同盟」のワークショップ、「腐敗対策サミット」が開催され、同文書は話題の中心となったという。「税の公正を・・・」に日本から参加した和田聖仁弁護士に、パナマ文書の意義とその影響について聞いた。同弁護士は、「パナマ文書を一過性の『ニュース』にせず、議論を重ねるべき」と語っている。

(文責・編集部)

暴露された不正は氷山の一角

編集部:パナマ文書で明らかになった日本企業・資産家の特徴は?

和田:楽天やファーストリテーリング(ユニクロ)など新興企業から、三井物産・三菱商事など旧財閥系列まで、経団連に名前を連ねる上場大企業が、タックスヘイブンを利用して税逃れをしている事実が明らかになりました。しかしパナマ文書は、オフショアービジネスのほんの一部であり、氷山の一角でしかありません。

 そもそも、企業の論理としては、株主の利益を極大化するために節税を考えるのは当然で、全ての企業が税逃れを模索していると考えても不思議ではありません。ましてやグローバルに展開する大企業や資産家なら、脱法手法を駆使するのは当然と言えます。

編:日本のリストには、政治家が含まれていませんでしたが…。

和田:どうやら日本の企業・資産家たちは、ケイマン諸島(イギリス領・西インド諸島)を利用しているようです。その意味でも、今回のリストは限定的と言えます。

編:今後の展開は?

和田:パナマ文書を暴露したICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)は、税務当局に対し、パナマ文書をもとに調査を進めるよう求めています。文書の提供者であるジョン・ドウ(John Doe、日本語で「名なしの権兵衛」=本名を明かしたくないときの仮名)氏は、「(同文書によって)数千件単位の刑事訴追が開始され得る」としたうえで、「捜査機関に協力したいと強く願っている」との声明を発しています。

 日本でも「公正な税制を求める市民連絡会」が、4月27日に「パナマ文書の徹底調査を求める声明」を出しました。税務当局に対し、税逃れを許さず、徹底調査と課税を要求するものです。

 他国を見ると、ドイツ司法省がICIJに対し、非公開とした情報の提供を求め、スイス警察は捜査を始めました。また、米国ウオーレン上院議員は、司法省に本件の調査を要求。下院が調査を始めており、ニューヨーク州規制部門も調査を始めています。これに比して日本政府はというと、菅官房長官が「日本企業への影響を含め軽はずみなコメントは控えたい」と発言。その消極姿勢は顕著です。

政治的意思で止められる

編:タックスヘイブンは、「違法」と言えるのでしょうか?

和田:タックスヘイブンを禁ずる国際法ないし国際慣習法は存在しません。さらに、各国税務当局が単独で納税者の海外所得を把握するのは困難であるのに加えて、何らかの方法で海外所得を探知したとしても、その所得が本国税法上の課税対象になるか、なるとしても直ちに課税対象になるか、という問題が生じます。

 ノルウェイ政府機関である経済・経営管理研究所(IREBA)は、タックスヘイブンについて次のように定義しています。㈰低課税または非課税地区である=「課税回避地」、㈪他国への課税上、情報提供が秘匿下に置かれている。バンキング秘匿法により法人の実質所有者の解明が困難で、監督制度も存在しない=「法人の匿名性」、㈫法人設立の容易性=「法人設立の匿名性」、です。

 次に、タックスヘイブンでの課税回避方法を説明します。
まず、1.法人は本国での利益をタックスヘイブン国所在の子会社に移すことで、本国での法人税額を低減(ないし削減)できます。
また、2.本国法人保有の知的財産権を含む無形資産を子会社に移すことによって、本国法人が子会社に無形資産の使用料を支払ったり、他社からの特許ライセンス収入を子会社に入金させることができます。こうして本社の利益を子会社に移し替えて、税逃れができます。
 また、3.負債・利子は税務上経費になるので、本社が借入利率の高い国で資金調達して利益移動に連動させれば、メリットが倍増します。

 こうした脱法手法に対して、タックスヘイブンの廃棄に向けて世界中の経済学者たちが、「広がる所得格差は税制のあり方と関連している」という意見書を300名の連名で発表しました。また、ジェフリー・サックス氏(コロンビア大)は、「腐敗対策サミットで英国、米国、EUが『タックスヘイブンはこれで打ち止めにする』と決断すれば、短期間のうちに画期的な変化が見込まれる」と述べています。つまり、政治的意思さえあれば、タックスヘイブンを利用した脱税行為は禁止できるということです。

金融取引の半分がタックスヘイブン経由

編:ロンドンで開催された「税の公正を求めるグローバル同盟」のワークショップ(4月)に参加したそうですが、どんな議論でしたか?

和田:同ネットワークは、タックスヘイブンの問題を追究しているNGOです。彼らは、2〜3000兆円(世界GDPの3割程度)の金がタックスヘイブンに埋蔵されており、金融取引の半分がこれを経由して取引されていると推計しています。今回のワークショップでも、パナマ文書を意識した発言が相次ぎ、ほとんどの報告者がこれに触れていました。
 直後にロンドンで開かれた「腐敗対策サミット」(5月12日)は、麻薬・武器・賭博などのブラックマネーの資金洗浄などを規制することが目的でしたが、ここでもパナマ文書は議論されています。タックスヘイブンは、リーマンショックをはじめさまざまな金融災害を引き起こしているのですが、日本では、議論も報道もされていません。今後、日本での議論を活性化させるためにも世界とのパイプをつなぎ、情報を提供していきたいと思っています。

編:日本政府の対応は?

和田:菅義偉官房長官のコメントは、「日本国政府としては調査しない」という趣旨と考えられます。しかし、麻生太郎財務大臣は、「疑惑が事実であるなら、課税の公平性を損なうことになるので問題だ」と懸念を示しています。また、国税当局は公開された法人や個人について、適正に納税しているか確認を進める方針だと伝えられており、星野次彦国税庁次長は、「(パナマ文書の)報道を関心を持って見ているし、課税上問題が認められれば、税務調査を行うことになると思う」「当然興味はあるし、調べる」と述べています。国会での追及も含め、世論の追究が重要です。

人口の0.3%が土地の3分の2を保有

編:パナマ文書では米国の事業体数が少ないようですが、理由は?

和田:米国では、3大メガバンク(シティグループ、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ)ならびに投資銀行=ゴールドマンサックスなどを頂点とする、限られた数の伝統的金融機関による仲介サービスが確立しており、わざわざパナマのような第三者仲介事業体に依存する必要がないという事情があります。例えば、 ゴールドマンサックスは全米22カ所の拠点で事業展開しているにもかかわらず、パナマ文書では事業体数としては1つとして計算されています。英国BBC放送は、「パナマ文書に米国利用者名(法人、個人)がほとんど見当たらないのは、利用者たちはパナマに依存しなくても米国国内でタックスヘイブンの恩恵が受けられるから」と報じています(米国国籍法人数は、1026法人)。  また、米国内の一部の州(ネヴァダ、ワイオミング、デラウエア)は、タックスヘイブンとして機能しており、NGOタックス・ジャステイス・ネットワークによれば、米国のタックスヘブンは、スイス、香港に次ぐ世界第三位の地位を占めると報告しています。
 つまり、米国籍のタックスヘイブン利用者の数値は、捕捉不可能なほど膨大であると考えるべきです。

編:その米国で、規制の動きがあるそうですが・・・。

和田:下院議員であるキャロライン・マローニー (民)、ピーター・キング (民)、上院議員のシェルドン・ホワイトハウス(民)らが、次のような規制法案を提出予定です。1.ペーパーカンパニーを利用した租税回避、資金洗浄に対する措置として、実質オーナーに関わる顧客情報を収集する、2.「一人会社」について規制する、㈫他国籍の「一人会社」についても規制する、3.新法で、会社が創設される場合には、実質オーナー情報を財務省に報告させる、㈭米国が未批准の8件の租税条約の早期批准を実現する、というものです。
 これに対しワイオミング州は、同措置が「会社のプライヴァシーへの挑戦」であるとして、応じない意向を表明しています。

 現代のグローバル金融を主導しているイギリスとアメリカは、先進国中、最も格差の大きい社会になっています。英国では、人口の0.3パーセントが土地の3分の2を所有しており、ユニセフ(国連児童基金)による「子どもの幸福度調査」では、先進工業国21カ国中、英は最下位で、米がビリから2番目となっています。英国の年金生活者はヨーロッパで4番目に貧しく、ルーマニアやポーランドの年金生活者より暮らし向きが悪いのです。その一方で、最も富裕な英国人1000人は、2010年には、3350億ポンドの冨を手にしていたのです。

 グローバル金融取引の裏舞台ともいえるタックスヘイブンは、世界の不平等を拡大させる中心地だといえます。パナマ文書を一過性の「ニュース」にしてはいけません。情報を集め、議論を重ねるべきです。

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