インタビュー:RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク) 早崎直美さん
編集部では今回、移住労働者をとりまく政治・社会問題について連載を開始する。第1回目は、20年以上にわたって移住労働者への支援活動に取り組むRINK・早崎さんだ。早崎さんに、1.移住労働者問題をめぐる概説を、2.「外国人技能実習生(14万人)」及び外国人母子の社会的課題を通して、3.日本社会が抱える矛盾として核心に迫っていただいた。 安倍政権が進める「国家戦略特区」でも外国人労働者の「活用」が想定されており今後も、政治・社会情勢は変化するだろう。連載では、貧困・ジェンダー・境界線をポイントに進める予定だ。
(編集部・ラボルテ)
—技能実習制度が2000年代半ばに大きく焦点化しましたが、具体的なケースや制度の変化について聞かせてください
早崎:技能実習生への未払い賃金をめぐって、特に酷かったのは、3年間で39万円しか給料が支払われていなかったケースです。実習生は受け入れ企業から「必ず全額支払うから待ってくれ」と言われ続け、3年間働き続けました。ところが、会社が支払う前に倒産です。未払い賃金が1人当たり200万円以上になり、技能実習生たちの未払い賃金総額は、数千万円に上りました。
相手は中小零細企業なので、未払い賃金を請求しても実質的に回収できません。また、会社が倒産した場合の未払い賃金立替払い制度を利用しても、半年間分の8割しか保障されません。このため未払い賃金の大半を失い、泣き寝入りすることになりました。出入国管理局がなぜこのような企業の受け入れを許可したのか? と、強い憤りを感じます。
政府が技能実習制度を設け、実習生を受け入れているのだから、政府が最終責任を負って未払い賃金立替払い制度以外の補償を設けるべきです。ところが政府は、「民間で起きたこと」として責任放棄です。多額の未払い賃金や遅配は、日本国籍保有者や永住者も被害者となりえますが、遅配が常態化し、経営の見通しが全く立たない会社なら、労働者は何年も待たずに転職するでしょう。ところが、技能実習制度は、転職できない仕組みとなっているのです。
—技能実習制度は人権問題として焦点化したにもかかわらず、どうして現状が維持されているのでしょうか?
早崎:企業・経済界にとって、技能実習制度を使い続けたい最大の理由は「安定した労働力の確保」です。技能実習生を受け入れる企業の多くは中小零細で、長時間のきつい肉体労働を求められる一方、賃金水準が低く、求人しても「応募者がいない」「すぐに辞めてしまう」など、労働力が不足しがちで不安定です。また、事業所当たりの労働者も少数であることから、1人の退職が事業所全体に影響を与えます。
名目上、技能実習生は会社の直雇用ですが、実態としては、求人から退職・帰国に至る労務管理を、管理団体である「協同組合」などに委託しています。労働者の確保が容易で、労務管理を人任せにすることができるのです。このため、「委託費」を含めても、日本人労働者を雇用するのとほぼ同じコストで、「技能実習生」を在留延長可能な最大3年間は確実に当てにできる労働者として確保できるのです。
3年間確実に当てにできる理由としては、技能実習生は、㈰原則として受け入れ企業を変わることが認められていない、㈪退職が在留資格の取り消しに直結する、㈫日本で働く前に、出身国の送り出し機関へ50〜100万円の手数料を支払い、かつ「問題を起こさない」ための保証金10万円〜30万円を担保にしている、ことが挙げられます。
この二重三重に退職・「逃亡」を防ぐ仕組みによって、人権侵害や労働問題を抱えても声を上げづらい環境が作られています。政府は送り出し機関が取る「保証金」を禁止していますが、現在も形式を変えて残っています。
結果として、縫製や農業などの小さな受け入れ会社で働く技能実習生から、「残業代が300円しか貰えない」などの相談が未だにあります。会社側を擁護するわけではありませんが、縫製や農業には、技能実習生の低賃金労働なしには回らないぐらいに追い込まれている産業構造そのものに問題があります。社会的矛盾を社会的弱者に「アウトソーシング」(押しつけ)しているのです。
3K職場を逃げ出せない技能実習生
—技能実習制度が2000年代半ばに大きく焦点化しましたが、具体的なケースや制度の変化について聞かせてください
早崎:技能実習生への未払い賃金をめぐって、特に酷かったのは、3年間で39万円しか給料が支払われていなかったケースです。実習生は受け入れ企業から「必ず全額支払うから待ってくれ」と言われ続け、3年間働き続けました。ところが、会社が支払う前に倒産です。未払い賃金が1人当たり200万円以上になり、技能実習生たちの未払い賃金総額は、数千万円に上りました。
相手は中小零細企業なので、未払い賃金を請求しても実質的に回収できません。また、会社が倒産した場合の未払い賃金立替払い制度を利用しても、半年間分の8割しか保障されません。このため未払い賃金の大半を失い、泣き寝入りすることになりました。出入国管理局がなぜこのような企業の受け入れを許可したのか? と、強い憤りを感じます。
政府が技能実習制度を設け、実習生を受け入れているのだから、政府が最終責任を負って未払い賃金立替払い制度以外の補償を設けるべきです。ところが政府は、「民間で起きたこと」として責任放棄です。多額の未払い賃金や遅配は、日本国籍保有者や永住者も被害者となりえますが、遅配が常態化し、経営の見通しが全く立たない会社なら、労働者は何年も待たずに転職するでしょう。ところが、技能実習制度は、転職できない仕組みとなっているのです。
—技能実習制度は人権問題として焦点化したにもかかわらず、どうして現状が維持されているのでしょうか?
早崎:企業・経済界にとって、技能実習制度を使い続けたい最大の理由は「安定した労働力の確保」です。技能実習生を受け入れる企業の多くは中小零細で、長時間のきつい肉体労働を求められる一方、賃金水準が低く、求人しても「応募者がいない」「すぐに辞めてしまう」など、労働力が不足しがちで不安定です。また、事業所当たりの労働者も少数であることから、1人の退職が事業所全体に影響を与えます。
名目上、技能実習生は会社の直雇用ですが、実態としては、求人から退職・帰国に至る労務管理を、管理団体である「協同組合」などに委託しています。労働者の確保が容易で、労務管理を人任せにすることができるのです。このため、「委託費」を含めても、日本人労働者を雇用するのとほぼ同じコストで、「技能実習生」を在留延長可能な最大3年間は確実に当てにできる労働者として確保できるのです。
3年間確実に当てにできる理由としては、技能実習生は、(1)原則として受け入れ企業を変わることが認められていない、(2)退職が在留資格の取り消しに直結する、(3)日本で働く前に、出身国の送り出し機関へ50〜100万円の手数料を支払い、かつ「問題を起こさない」ための保証金10万円〜30万円を担保にしている、ことが挙げられます。
この二重三重に退職・「逃亡」を防ぐ仕組みによって、人権侵害や労働問題を抱えても声を上げづらい環境が作られています。政府は送り出し機関が取る「保証金」を禁止していますが、現在も形式を変えて残っています。
結果として、縫製や農業などの小さな受け入れ会社で働く技能実習生から、「残業代が300円しか貰えない」などの相談が未だにあります。会社側を擁護するわけではありませんが、縫製や農業には、技能実習生の低賃金労働なしには回らないぐらいに追い込まれている産業構造そのものに問題があります。社会的矛盾を社会的弱者に「アウトソーシング」(押しつけ)しているのです。
安価な労働力確保を「開発援助」と宣伝する政府
—技能実習生側の変化や今後の動向は?
早崎:技能実習生の多くは中国出身でしたが、中国からの技能実習生は、19.6%減(2015年/前年度比)と激減傾向にあります。主な理由は、中国の経済成長に伴う賃金水準の上昇です。上海などの中国沿岸部都市への出稼ぎで得られる収入は、日本で技能実習生として得られる収入に迫っています。
(1) 送り出し機関への多額の手数料、(2)保証金や土地を担保にさせられること、(3)日本社会の言葉や文化の壁、そして(4) 3年間、会社の中に閉じ込められ、自由が全くない日本へ出稼ぎにいくくらいなら、「中国沿岸部の都市圏へ出稼ぎに行ったほうがいい」という考え方が主流です。
今後は相対的に賃金水準の低いベトナム、カンボジアやビルマなどからの技能実習生の割合が増えていくでしょう。この傾向は、RINKに相談に訪れる実習生の出身国にも反映しています。
今後の動向については、今国会で経済界からの強い要望によって、「受け入れ期間の5年延長」をはじめとした改定案が審議されています。技能実習制度の実態は、外国人労働者の受け入れであることが明らかです。しかし、政府は未だに「発展途上国への開発援助として、技能実習生を受け入れる」という名目にこだわっています。受け入れ企業は、最低賃金以下の給料しか支払わず、専門技術も教えないのに、「遅れている国の若者を助けてやっている」と誤解させる制度です。
—外国人労働者全体をとりまく問題と現況については?
早崎:大きなポイントは、日本で暮らすための条件である在留資格です。外国人労働者といっても、その状況には「高度専門職」なのか、「技能実習生」なのか、あるいは日本国籍保有者や永住資格を持つ人たちなのか、で大きな違いがあります。
改定入管法(2012年施行)では、在留資格と実際の在留状況が見合っていることを継続的にチェックするための報告制度が設けられるなど、外国人への在留管理が強化されました。非正規滞在者(オーバーステイ)に対しては、行政サービスや社会保障からの排除、取り締まりが強まっています。また、日本人や永住者との結婚を理由に在留を認められている外国人などの場合、「配偶者の身分を有する者としての活動を、継続して6月以上行わないで在留していること」による在留資格取り消し処分も、新たに加えられました。
就労が滞在条件となっている人は、働いていない状況が3ヶ月以上続くと、取り消し処分を受ける可能性があります。労災でしばらく働けないような場合でも、そのことを入国管理局にきちんと報告しておかないと大変なことになるといった問題は、一貫して続いています。入管法は、人権概念なき管理主義の一途を辿っています。
労働問題の相談では、派遣などの非正規労働者が多いです。近年、若者の貧困問題や労働問題がクローズアップされていますが、外国人労働者の多くが低賃金・不安定なのは現在も変わらず、日本社会の周縁に追いやられ続けています。80年代以降に日本へ移住したニューカマーの子どもたちが就労可能年齢となりつつあるので、就職や労働問題が気になっています。
根深い差別意識
—労働問題以外のケースで特徴的なものは?
早崎:DVケースが増えています。DV防止法による行政機関の体制強化によって、DVを「家族の問題」とせず、被害事件として再定義されたことが要因だと考えられますが、激増しています。また、DVは被害者の保護だけではなく、転居や子どもの養育、医療、生活保護、仕事などの道筋をつけなければいけません。1件のケースについて多方面にわたるサポートが必要です。
また、80年代以降にフィリピンやタイから日本へ移住し、国際結婚をした女性たちが壮年年齢を迎え始め、日本人夫の遺産相続をめぐる相談も増えてきています。夫側親族は、「外国人に遺産を渡すモノか」といった差別的認識からか、当事者女性を蚊帳の外に置こうとします。例えば、相続予定の女性に白紙の用紙を渡して「とにかく署名して」と迫る、勝手に家に上がり込んで金目のものを全て奪っていく、といったことが起きています。
夫側親族には罪を犯している自覚すらないのです。もし日本人が相手なら、同じことをするでしょうか? 外国人差別の心理が行動に結びついた一例で、これからも増え続けていくと思うと悲しいです。
「人間」を受け入れる移民政策を
—「移住労働者の受け入れ」について、望ましい在り方は?
早崎:韓国は、かつて日本の技能実習制度と類似した産業研修制度を作って移住労働者を受け入れていました。ところが、日本の技能実習制度と同じく、送り出し機関による手数料や保証金などによる中間搾取や人権侵害が頻発し、2004年から民間の送り出し機関を排除した「雇用許可制度」を発足させました。現地での募集から韓国国内での受け入れまで一貫して政府機関が担うことで、ブローカーによる中間搾取を防止しています。ただし、就労期間が定まっていて、家族の帯同は認めていません。
最善策は、移住労働者を人間として見ない「労働力を受け入れる」あり方から、人権を持った主体として「移民として正面から受け入れる」ことです。一足飛びにそこまでいけないにしても、技能実習制度よりは韓国のような雇用許可制のほうが望ましいと考えています。
日本社会は元々「単一民族」ではありませんが、未だに「単一民族」であることを国是とし続けています。これまでの日系ブラジル人や技能実習生の受け入れから、安倍政権が現在進めている家事支援人材の受け入れ事業(国家戦略特区構想)、在留資格「介護」の創設に至るまで、日本社会は人間から「労働力のみ」を切り取って利用する手法を一貫して進めています。
背景の異なる多様な人々が共生し、人権を第一に考える社会へと変わることができるのか? その覚悟がいま、日本社会に求められています。