【読解力低下】英語必修化より 国語教育の徹底を 学習塾経営 北村 直樹

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小学校の英語教育は愚民化政策

 衝撃の結果が出た。経済協力開発機構(OECD)は12月3日、79カ国・地域で15歳計約60万人に実施した「国際学習到達度調査(PISA、2018年)」の結果を公表した。日本は「数学的応用力」が6位(前回=15年は5位)、「科学的応用力」は5位(同2位)、「読解力」が15位(同8位)、と全3分野で順位を下げた。特に読解力の低下には、教育界に衝撃が走っている。
 

さて、読者の皆さんは、小学校6年間でいくつの漢字を習うかご存知だろうか。従来は1006字であったが、小4の社会科で47都道府県を学ぶことになった関係上、1026字に増えている。単純計算でほぼ1日に1文字習う勘定になる。漢字1文字といっても、書き順、音読み・訓読み、部首を覚えなければならないので、大きな負担だ。
 

ちなみに、中学校3年間ではさらに難解な漢字を1100文字も習うことになっている。これだけの負担を強いられている小中学生の実情を、まずはご理解いただきたい。
 

その上、教科書の文章を読んだり作文を書いたりすることも、もちろん求められる。しかし、現場の話を聞いていると、精読精読の一本槍で、児童は訳もわからぬまま黒板の文字をノートに写しとるばかり。熱心な一部の教員をのぞいて、作文も書きっぱなしで、ていねいな添削も相互批評も乏しいのである。例えば読点の打ち方すら十分に教えられず、比喩を使った表現も指導されないままである。人前で発表する単元でも、作文を棒読みするだけの生徒が多い。最小限のメモだけで人前で自己表現する訓練は、ほとんど実行されていないのが実情である。
 

私の体験を少し述べよう。レベルの高くない私立高校、といっても全員が大学進学を目指しているクラスで、現代文を教えていたことがある。驚いたことに、生徒たちはたかだかA4一枚程度の短い小説を最後まで読むことができなかった。傍線や空欄の前後だけを読んで、問いに答えているのである。言葉は悪いが、事実上の文盲である。
 

このような高校生が大学に進学したら、どうなるかは明白だろう。今や大学生の48%が読書時間ゼロとのことである。
 

考える習慣の劣化

ある国立大学医学部教授によると、医学部生でも、「三つ挙げよ」といわれているのに一つのことを延々と述べる答案を書くという。「各論が大好き、総論が嫌い。抽象化・一般化が総じて苦手」とのことであった。
 

大学生が新聞を読まないのも、当たり前である。ネットやテレビで十分だと彼らは考えているようだが、そもそも社会に興味がないし、興味があっても読むことができないのだ。自分の言葉で学び、蓄積し、考える習慣=「内部言語構造」の劣化である。だから、求められるのは、幼い頃から「頭で考えながら読む」学び方であり、「考えを文章で表現する」練習である。そこへきて、「小学生への英語必修化」である。断固反対の立場で、簡単に紹介する。
 

現在、小学校5・6年で実施されている外国語活動を3・4年に前倒し(週1時間)し、高学年では英語が正式教科(ほぼ週2回)になるという。
 

驚くべきは、その難解さである。特に高学年においては600から700もの単語を扱う予定だ。ちなみに中学3年間で約1200語なので、その異常さは明白である。
 

教員の確保や難易度、中学英語との整合性、かえって英語嫌いを生むなど、問題点は数え切れないが、結局のところ、これらが成功したところで、もたらされるのは、たかだか「中1英語の先取り」程度ではあるまいか? 無意味ではなく、害悪とも思える今回の教育「改革」は、筆者には愚民化政策にしか映らない。浮ついた国際化を目指す前に、自分で考えるための日本語を小学生に徹底的に学ばせる必要がある。

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