【農産物輸入】米国の言いなりだったFTA交渉 日本の食と農 そして健康が犠牲に 鈴木宣弘さん(東京大学大学院教授) 講演会

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日本の食と農が危ない 私たちは未来を守れるのか?

 10月6日、PLP会館(大阪市北区)で、右記講演会が開催された。講師の鈴木宣弘さんは、農水省官僚を経た東大教授。歯に衣着せぬ物言いで、日米政権から最も嫌われている研究者のひとりだ。トランプ大統領の言うがままに農産物市場を開放し、日本の農林水産業を死滅に追いやる安倍政権を「経産省独裁政権」と批判し、食糧安全保障のためにも自給率向上をめざすべきだと強く提言する。(文責・編集部山田)  

TPP11より不平等な日米FTA  不要なトウモロコシまで強制輸入 

TPP12をめぐっては、「国論を二分」と言われたほどの論争が巻き起こり、大きな反対運動によって、批准を阻止してきました。米国でも8割近い市民が反対し、全ての大統領候補による離脱表明を導きました。こうしてTPP12は、米国の離脱で頓挫したのですが、米国抜きの「TPP11」が2018年12月に発効。ここで日本は、「TPP12」の内容をそのまま11カ国に譲歩しました。  

そうなれば米国が黙っているわけはなく、日米FTA(自由貿易交渉)が始まり、今年9月末に署名と、拙速発進で進められたのです。TPP11に日米FTA分が二重に加われば、日本にとって即座にTPP12を越えますが、さらに米中貿易戦争の「尻ぬぐい」としてトウモロコシ275万トン(約550億円)の追加輸入まで約束したのですから、明らかな「TPP12越え」です。  

また安倍政権が、「日米FTAを避けるためにTPP11をやる必要がある」と市民に説明したのはウソです。TPP11と日米FTAは、最初からセットでした。「やらない」と言っていた日米FTAをやってしまったことを誤魔化すために「日米FTAではなく、TAG(物品貿易協定)だ」と言い張りました。TAGという言葉がその場しのぎであったことは、今では誰の口からも出てこなくなったことで明白です。  

さらに「TPP頓挫の代わりの成果が欲しい」という官邸の強い指示で、日欧EPAも2月に発効。EUに対しても、TPP以上の譲歩をしています。これらを合わせれば、大問題となったTPP12より事態は悪化していることを深刻に受け止めなければなりません。  

安倍政権は、「経産省独裁政権」です。このため、自動車の追加関税や輸出数量制限は絶対に阻止する代わりに、農業が犠牲になっています。経産省官僚は、自分たちが天下りする企業利益を守るために食料を生け贄にしようとしていますが、実際は、自動車への配慮につながることもありません。米国の自動車業界にとって、牛肉関税の大幅削減は関係ないからです。  

日本政府は効果のない譲歩を続け、全てを失いかねない「失うだけの交渉」となっています。  

特に酪農は、「クワトロ(4重)パンチ」です。日欧EPA、TPP11、日米FTAの市場開放に加えて、生乳の農協共同販売を弱体化する法改定も行われたからです。既に生乳生産の減少は加速しています。私は「飲用乳が棚から消える」と警鐘を鳴らしてきましたが、昨年の北海道地震による長期停電で顕在化しました。これは、停電による一時的現象ではなく構造的問題です。「チーズが安くなるからいい」と言っていると、子どもに「ごめん、今日は牛乳売っていないの」と言わないといけない事態となります。  

戦後の占領政策は、日本を米国の余剰穀物(小麦、大豆、トウモロコシなど)の最終処分場とすることでした。これが今日まで継続し、自給率は、小麦=10%、大豆=7%、飼料用トウモロコシはほぼ0%となっています。それでも無理矢理「まだ買え」というのが、今回のトウモロコシの追加輸入です。  

成長ホルモン投与 遺伝子組み換え  発ガン性農薬散布された輸入農産物

札幌の医師が調査したところ、米国産の牛肉にエストロゲン(成長ホルモン)が和牛の600倍も検出されました。消費者の健康を守るため日本の畜産では認可されていませんが、輸入牛肉は無検査となっており、知らぬままに食べていたのです。  

EUは、すでに米国産牛肉・豚肉を輸入禁止にしています。OGビーフ(オーストラリア産牛肉)なら大丈夫かと言えば、これも違います。オーストラリアは、EU向けには成長ホルモンを使わず、日本向けには投入するという使い分けをしています。EUは米国肉の輸入をやめましたが、7年で「乳ガンの死亡率が最大45%減った(アイスランド)」というデータが学会誌に出ています。  

米国産乳製品の安全性も心配です。米国は、モンサント社開発のGM牛成長ホルモンを、「絶対安全」として1994年に認可しました。ところが、数年後に乳ガン発症率=7倍、前立腺癌=4倍と発表されたので、消費者が動いて、スターバックスやウォルマートでは「うちは使っていません」と宣言せざるを得ない事態になっています。  

にもかかわらず、認可もされていない日本では、無検査状態で皆が食べているのです。日米FTAで、米国産乳製品の輸入はさらに増えます。  

また、仏・カーン大学の実験では、ネズミに2年間GM(遺伝子組み換え)食品を食べさせたところ、ガンだらけになったそうです。安全性検査は3カ月間なので、長期的影響が見落とされます。  

日本が緩和する遺伝子組み換えと 発ガン性除草剤 グリホサート

米国穀物に依存している日本人は、GM(遺伝子組み換え作物)の不安だけでなく、除草剤の発ガン性にもさらされています。強力な除草剤=グリホサートをかけても枯れないようにしたのが、GM技術です。米国では、同除草剤を穀物に直接かけているからです。  

GMとセットの除草剤=グリホサートの発ガン性は広く認識され、EUが規制を強め、カリフォルニアでは、同除草剤で発ガンしたとして、モンサント社に320億円、88億円、2200億円の賠償判決が下っています。  

米国産大豆、トウモロコシはほとんどが遺伝子組み換えで、米国産小麦、大豆、トウモロコシには、発ガン性が認められた除草剤が直接散布され、残留しています。こうした健康リスクに世界で最もさらされているのが日本人です。日本人30人の髪の毛をフランスで調査したところ、7割からその除草剤成分が検出されています。  

世界的に規制が強まるなか、日本だけは輸入穀物における残留基準値を100倍以上緩和しました。米国での耐性雑草に対応した散布率の高まりに対応するためです。日本の安全基準値は、日本人の健康リスクではなく、米国の生産に必要な散布量に見合って決まる、という信じられない事態です。  

とどめの種子法廃止 グローバル種子企業の「新しいビジネスモデル」

グローバル種子企業の攻勢も強まっています。グローバル種子企業の世界戦略は、世界の種を握り、買わないと生産・消費ができないようにすることです。それには、誰でも使える公共種子が一番邪魔なのです。種子法廃止によって、公共種子を駆逐し、日本で開発された種子はもらう。さらに自家採取を禁止して、種を買わせるのです。F1化(種が取れない)、GM化すれば買わざるを得なくなり、生産者・消費者支配は完了です。  

モンサント社(GM種子と農薬販売)とドイツのバイエル社(製薬)の合併は、米麦がGM化され、種の独占が進み、病気になった人をバ社の薬で治す需要を見込んだ「新しいビジネスモデル」という見方も出ています。  

インド・中南米、中国、ロシアなどは、国をあげてグローバル種子企業を排除し始めました。米国に従順な日本だけが、唯一最大の餌食にされつつあります。  

輸入農産物が安いと言っているうちに、成長ホルモン、遺伝子組み換え、除草剤など、リスク満載です。これを食べ続けると、病気になって医療費がかさみ、早死にです。結局、高くつくのです。    

食料安全保障の観点 で生産者支援を

日本は、安全保障の要としての食料の位置づけが甘いと思います。食糧自給率はカロリーベースで今や37%まで下がり、上げる努力も感じられず、「食糧自給率」という言葉さえ使われなくなってきています。  

普段のコストが少々高くても、輸入品が安いからといって国内生産をやめてしまったら、2008年の食糧危機のように、輸出規制でお金を出しても売ってくれない事態となり、我々が飢えてしまうのです。  

米国の言いなりに武器を買い増すのが安全保障ではありません。今回の台風被害でも、緊急事態に人々に食料、水、電気を迅速に確保し、その基礎となる国内の農林水産業をしっかりサポートする体制こそが重要です。食料・農林水産業政策は、市民の命、環境・資源、地域、国土を守る最大の安全保障です。  

米国農務長官・バッツ氏(当事)は、「日本を脅迫するのなら、食料輸出を止めればよい」と語っています。さらにウィスコンシン大学の教授は、「食料は武器であって、日本が標的だ。食料だけでなく、畜産の餌穀物を米国が完全供給すれば、日本を完全にコントロールできる。これを世界に広げていくのが米国の食料戦略なのだ」とも語っています。  

日本で安い所得でも奮闘して、安心・安全な農産水産物を供給してくれている生産者をみんなで支えていくことこそ、自分たちの命と健康を守ることです。一方、食の安さを追求することは、命を削ることです。牛丼・豚丼、チーズが安くなったと言っているうちに、国産を選ぶことすらできなくなる、その瀬戸際まできています。

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