家族や政治的・経済的理由で帰国できない長期収容者
6月下旬、大村入国管理センター(長崎県)でハンスト中のナイジェリア人男 性が餓死。長期収容への批判が広がっている。ハンストは、2017年5月に東 京入国管理局で47人、18年4月には東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で 128人。今年も7月に同センターで約100人超が行われていたという。抗議の広がりの背景は何か? 2010年から収容者との面会を続け、支援を続ける永井伸和さんに、入管施設の処遇実態、入管の対応について聞いた。 (文責・編集部山田)
全国に広がる抗議のハンスト
編集部:ハンストの広がりは?
現在でも、牛久で30~40人、大村入管で7人が確認されています。先日、大村入管で面接してきました。40才代のイラン人は、大村入管でハンストを行い、仮放免されました。しかし、2週間後に東京入管に出頭すると拘束され、大村に 送られたため、ハンストを再開しました。類似の経過を辿る40代のスリランカ人もいます。
ハンストは、減っているのですが、入管側が、仮放免を約束するなどハンスト抑止策を講じ始めたためです。5月10日以降、散発的に各地でハンストが行われていましたが、メディアでも取り上げられ、処遇の酷さが焦点化しています。
編:長期収容者の現状・訴えとは?
入管の収容はきわめて過酷です。長期収用は、心身を痛めつける拷問とも言うべきものですが、それでも帰らない人は、深刻な事情のある人ばかりです。彼らは、長期滞在のなかで日本で家族ができていたり、政治的・経済的に帰国できない理由を抱えていて、実質的に難民だったりする人々です。日本は難民認定のハードルが高く在留資格が得られず、帰国もできないために、長期収容に追い込まれます。
面談支援でわかるのですが、収容後半年くらいで、不眠・体調悪化など拘禁反応が現れます。24時間監視下での集団生活によるストレスです。
刑務所なら出所期日があるのですが、入管への収容は期限がありません。帰国できない収容者に とっては、この苦痛がいつまで続くのか?見通しが立たないという不安とストレスが、彼らをハンストに駆り立てています。
編:処遇の問題点は?
まず、貧弱な医療体制です。40才代のペルー人は、足の痛みを訴えましたが、鎮痛剤だけで放置され、1カ月後に受診したところ、足の骨にヒビがはいっていたことがわかりました。
40才代のビルマ人Aさんは、2017年、東京入管に収容され、大村に移送。同年10月中旬に目の痛みを訴えましたが目薬だけで放置され、11月に眼科医を受診したところ、「もう少し早ければ…」との診断で、結局失明しました。
2点目は、懲罰的隔離収容の問題です。大阪入管に収容中だったトルコ国籍のムラット・オルハンさん(34)は、昨年7月、職員と口論となり、7~8人の職員に隔離房へ連行された際、足を掛けられて転倒。数人の職員がうつぶせに倒れ たオルハンさんに覆いかぶさり、後ろ手に手錠を掛ける際、右腕をひねりあげ骨折させました。
そもそも入管施設は、懲罰禁止です。自損・他害行為の恐れがある場合に限って、隔離されますが、実際は「職務の妨害」を理由に懲罰的に隔離収容が実施されています。
オルハンさんへの暴行は、ビデオから、足かけ転倒から制圧まで訓練された暴 行であることがわかります。同氏は、3年の長期収容でした。今回の暴行に関し、 国に損害賠償を求めて提訴。裁判が進行中です。
在留許可与えられずに「不法入国・残留」扱いに
編:収容が長期化する原因は?
2つの理由が考えられます。1つは、日本は難民条約に加盟していますが、本来難民認定するなり人道上の配慮で在留許可が与えられるべき入国者に送還命令が出されていることです。例えばイランは、改宗者に厳しい措置をとっている ようです。来日してキリスト教に改宗したイラン人などは、帰国が困難です。
2つめは、日本が建前上、単純労働力として外国人の受け入れを認めておらず、安定した在留資格が与えらないことです。しかしバブル期以降、労働力として呼び込んでおいて、定住制度もないため、出稼ぎで来日した外国人は、「不法入国・ 残留」となってしまいます。
国は2004年、「不法就労半減5カ年計画」を打ち出して、摘発・送還を進めています。しかし、在留が長期になり、家族ができた外国人もたくさんいます。摘発されて「強制送還」となっても、帰れないのです。外国人労働者を使い捨てにしている日本の入管行政・外国人労働者政策こそが構造的・根本的な原因です。
長期収容について河井克行法相は、「根本的な検討が必要」と述べています。長期収容者に対する仮放免は必要ですが、外国人労働者への安定した在留資格、 定住政策こそ根本的な解決策です。