薔薇マーク キャンペーン
以下の「反緊縮」の経済政策を公約に掲げた候補者を「薔薇マーク」に認定します。(1)消費税の10%増税凍結。(2)人々の生活健全化を第一に、社会保障・医療・介護・保育・教育・防災への大胆な財政出動を行い、質の良い雇用を創出する。(3)最低賃金を引き上げ、労働基準を強化して長時間労働や賃金抑制を強制する企業を根絶する。(4)大企業・富裕層の課税強化。(5)((4))の増税実現までは、国債を発行して資金調達する。(6)公共インフラの充実を図るとともに、公費による運営を堅持する。
衆参同日選の観測がくすぶる中、野党は危機感を募らせている。「左派は、アベノミクスに対抗する『反緊縮』経済政策を打ち出すべき」と訴える「薔薇マークキャンペーン」のトークイベントが、4月26日、大垣書店高野店(京都市左京区)で行われた。同キャンペーンの意義や議論の要旨を報告する。(文責・編集部)
同日選と安倍首相の野望
松尾:第2次安倍政権が発足して、「アベノミクス」を掲げて景気対策を大々的に打ち出しました。選挙で大勝し、国会を制圧して、改憲に打って出るという安倍首相の野望が実現しそうな危機的状況です。
私は、雇用を拡大する政策を打ち出さない限り安倍・自民党に勝てないとの思いで2016年、『この経済政策が民主主義を救う─安倍政権に勝てる対案』(大月書店)を世に問いましたが、特に左派陣営から「アベノミクスの支持者」、「安倍礼賛者」と叩かれ、悲しい思いをしました。
2018年には、ブレイディみかこさん、北田暁大さんと、『そろそろ左派は経済を語ろう』(亜紀書房)を出版。理解者が増え始め、薔薇マークのような運動に結びついています。
最近の経済指標は、すべて景気後退を示しており、消費税増税に不安を感じています。安倍首相が、「増税延期のために民意を問う」という大義名分で、衆参同日選挙に打って出る可能性は高いと思います。野党は負け、その先は改憲です。「安倍一強」を作りだしてきた最大の理由は、経済政策です。
民主党政権時代に比べ、雇用が拡大し、景気もよくなっている、という感覚があるので、多くの人が政権交代による景気失速の不安を抱いています。ですから、「こっちのほうが、生活がよくなる」と言える対抗的な経済政策を打ち出さないと、選挙には勝てないでしょう。薔薇マークキャンペーンは、「安倍首相の経済政策を跳ね返すような派手な経済政策を掲げよう」と、経済政策の指標をを6つ挙げ、満たした候補には「薔薇マーク」をつける、という運動です。
左右のポピュリズム
政治的エリートによる政治の独占への反発がポピュリズムを生んでいます。もともとポピュリズムは、大恐慌の時代に、ひどい目にあった農民・労働者が、民主主義を取り戻そうという運動です。ポピュリズム運動は、ルペン氏やトランプ氏などのナショナリズム=右翼の方向に向くと同時に、コービン氏やサンダース氏のような左派にも向くのです。
つまり左派は、極右と同じマーケットを奪い合っており、新自由主義改革で痛めつけられた大衆の要求や希望をすくいあげることができなければ、簡単に極右に向くのです。実際、私たちは、安倍首相に負けているのです。
民主主義回復のための 左派ポピュリズムを
山本:EUにおける緊縮政策は、市民生活を破壊しましたが、同時に寡頭政治が台頭し、市民が政治に口出しできない状況が作られています。このためシャルタン・ムフなどは、「民主主義を回復させるための一時的な戦略として左派ポピュリズムが有効」と主張しています。
ムフは、「闘技民主主義」を重視してきたわけですが、討議空間自体が失われてしまった現在においては、まずポピュリズムによって討議空間を創造するという戦略です。バラバラだった個人を結びつけ、人民の声を形成し抗議を行う運動として、ポピュリズムは捉えられています。
松尾:ストライキ件数やそれによる労働損失日の統計は、失業率と逆相関しています。失業者が多いと、「いくらでも代わりがいるんだぞ」と脅されて立ち上がれないのです。しかし、怒りがないわけではなく、皆「なんとかしてほしい」と思っています。ところがそうした怒りは、外国人や生活保護者など身近な弱者に行きがちである現実もあります。歴史的にも1930年代の大不況の時代には、ファシズムが台頭しました。怒りがあっても「団結して、みんなで」とはなりにくい現実があります。
山本:「みんなでお金を回す」というのは、左派ポピュリズム的ではないと思います。みんなが儲かるとそれほど楽しくないからです。大富豪のビル・ゲイツやトランプに嫉妬する人は少ないのですが、自分より時給が50円高い隣人に対しては、微細な差異が気になって、嫉妬するのが現実です。
ですから「私たちは99%だ!」というスローガンは、小さな差異を溶かし乗り越えるスローガンです。敵を設定して「奴らから奪え!」というスローガンでないとグッとこないのかも知れません。
富裕層と闘う99%の多数 左派ポピュリズムの可能性
松尾:南アフリカでは、アパルトヘイト廃止後、「部族・人種の共存」をスローガンにした体制が作られましたが、貧富の格差と政治腐敗が広がっています。南アも資本主義体制で階級対立があるのですが、新興黒人エリートと旧体制の白人エリートが支配階級を形成し利益を独占しています。
この傾向は世界的に共通しています。エリートが、民族や国籍を超えて結託し、寡頭支配のグローバル体制を形成して共通の利益を求めているのが、新自由主義です。
「みんなで共存」「支え合い」というビジョンは階級社会の矛盾を覆い隠す結果となり、行きづまっています。オランダでは、リベラル政党と社会民主主義政党の連立内閣が、「共存・多様性」を促す政策を打ち出しましたが、今や、外国人排斥の極右が政権入りを果たしています。「共存路線のなかで置いてけぼりを喰った」と感じている人々がたくさんいるのです。
「共存・支え合い」路線で安倍政権に対抗しようとしても、99%の支持は受けられないと思います。 「階級」という言葉がリアリティを持つ時代となっています。「共存・多様性」を重視するレフト2・0が提起した問題は取り入れ、労働者階級主義をかかげて資本家と闘うというレフト1・0の戦略を、復活・発展させなければならないのです。それが、レフト3・0=左派ポピュリズムです。
欧州で反緊縮運動の旗手の一人であるバルファキス氏は、D25という運動体を率いて「グリーンニューディール」を打ち出しています。化石燃料から自然エネルギーへの転換に向けて大規模投資を行う、というものです。財源は、累進課税の最高税率を上げて捻出し、大規模投資で雇用を創出する戦略です。
失業者への福音であるばかりでなく、「広く社会にお金が回ることで経済全体がよくなっていく」と主張しています。
コービン氏の経済政策で、英労働党は大躍進をしましたが、スローガンは、「1%の少数者のためでなく、99%の多数者のために!」です。マニュフェストの表紙には、さまざまな人種・民族・男女の笑顔が並んで描かれています。
つまり「多数者」のなかには多様なマイノリティが含まれ、お互いに支えながら1%と闘うというメッセージです。このイメージこそ、レフト2・0の問題提起を含んだレフト1・0の高次の復活=レフト3・0です。
西郷:「薔薇マーク」が「お金をバラまく」という意味を含んでいると気づいた左派の人から、厳しい批判が寄せられました。しかし、「いやいや、ばらまきが足らないのだ」と言い返すだけの力を持ちたいと思います。
「財政破綻」の宣伝が行き渡り、戦時中の質素倹約扇動を彷彿させるほどです。これに対して、「お金はあるところにはあるのだ」「彼らから奪え!」という呼びかけは重要です。
松尾:日本の左派が反緊縮を打ち出せなかったために、不満層が安倍政権を支持、右派ポピュリズムが台頭しています。いずれ来る安倍政権後には、アベノミクス・金融緩和政策の出口戦略が問題になります。金融引き締めで景気が悪化すれば、右側からの反緊縮勢力は必ず出てきます。コービンがいう「人民のための量的緩和」は、MMT(現代金融理論)が理論的基礎となっていますが、日本では、自民党の議員たちが、既に支持し始めています。
山本:右派ポピュリズムがまだ大きな勢力になっていない日本では、左派ポピュリズムが大きく支持を集める可能性があるとも言えます。