与党がカジノ誘致法案を強行採決して2カ月。反対の声も根強く、大阪万博のスポンサーには米国カジノ企業が並ぶなど、露骨な利益誘導も明らかになっている。 相次ぐ自然災害で、目先の箱物建設から人命優先への政策転換が必要とされているが、「日本維新の会」の松井府知事は、台風直撃の最中に欧州へ万博誘致に出かける有様だ。 カジノはどう社会を悪化させるか。維新の会との関係や、いまだに維新が支持される理由は何か。会計学からカジノ問題の著書を書き、参議院の参考人質疑で反対意見を述べた阪南大の桜田照雄教授に話を聞いた。(編集部・園)
マネロンし放題破産や自殺も増加
マカオの世界最大規模のカジノ「ベネチアン・マカオ」と同規模の施設が、大阪では想定されています。地元自治体に200億円の税収を確保するには、総額4兆円が必要になります。年間100万円を投じる人が40万人も必要で、外国人を含んでもあまりに多すぎます。カジノ解禁派が言う「依存症になるのは1~3%」だとしても、年間4~12万人が依存症患者になる計算です。
賭け金が多すぎるため、カジノ運営業者が開設した口座に金を預けなければなりません。これで地下銀行ができます。業者は日本の銀行にも、マカオにも、ラスベガスにも口座を持ちます。銀行の決済システムを通じて、A銀行とB銀行との間で資金のやり取りをすれば、マネーロンダリングができます。それを監視する経験が日本にはないので、最初の数年間はマネロンがやり放題になるでしょう。
借金地獄も深刻です。客が賭けるほど業者はもうかるので、金を貸し付けてまでやらせます。日本ではカジノ事業者が直接貸し付け、返済期限の2カ月を過ぎれば、14・6%もの延滞金を取られます。しかもカジノ事業者の債権は、債権回収専門業者に譲渡し、さらに転売もできます。信用情報機関が持つ個人の資産情報を業者が使うことも、条文で義務づけられています。その結果、暴力団などが関与し、厳しい借金取り立てがなされるでしょう。破産や自殺に追い込まれます。
産廃・リスクの山夢洲の処分
カジノ阻止へ向け、大阪弁護士会の消費者部会が本気で取り組もうとしています。業者の選定過程の情報公開が必要です。大阪での候補地・夢洲は産廃の処分地なので、集客施設の立地は不適当との差止請求を求めれば、夢洲の脆弱性が裁判を通じて明らかになります。建設が始まれば、「建設労働者の健康被害の懸念がある」と工事差止請求もありえます。営業が始まれば、「違法性が阻却できていないから憲法違反だ」と憲法裁判に持ち込めます。
私は、夢洲のリスクの大きさはカジノ業者もわかっており、大阪府などは産廃処分場の夢洲の活用と、初期の建設投資ができれば良いと割り切っていると思います。「カジノ誘致・万博誘致に成功した」だけで、維新は大阪を政治的に支配できるからです。
地場産業の再生こそ重要
維新は10年間、カジノ誘致に賭けてきました。橋下徹にささやいた黒幕がいるはずです。具体的な利権争いの現場は見えてきません。情報の断片を組み合わせる批判ジャーナリズムの衰退を懸念しています。
維新が言う「副都心」「大阪都構想」は、現実をイデオロギーで誤魔化すものです。90年代初めにバブル経済が崩壊した後、府・市は、すでに集客産業政策に舵を切っています。
その結果、大阪は相当程度東京に食われています。建設業界も、竹中組や大林組より大成建設や清水建設の案件が増えています。
通天閣のある新世界のちょうちんや串カツブームも、東京の金で持ち込まれたもの。大阪にそこまでの力は残っていないでしょう。
大阪は、思想家のアルチュセールやブルデューが唱えた「イデオロギー操作」の実験場にされてきたんだなと思います。インバウンドで「大阪をアジアの玄関口に」と言いますが、そう言えるのは本来福岡でしょう。でも言葉で錯覚させられる。
1960年代に花登筐(はなとこばこ)が描いた「ナニワのド根性」イメージが定着しています。「ヒョウ柄のおばちゃん」もそう。
実際は大阪に本社機能が残っていないので、大阪で地場の商売をしてきた人々の商売が厳しい。東京の下請けと化しているのです。そこから地元産業を再生させることが必要なのです。(談。次号に続く)