露骨な女性差別
読売新聞の8月2日のスクープにより、東京医科大学が入試の際、属性による点数操作を行っていたことが明らかになった。
同大学の内部調査委員会は入試における差別を認め、7日の記者会見で、2次試験の小論文において100点満点の小論文の得点に、一律0・8をかけたのち、(1)現役の男性、1浪の男性、 2浪の男性には 20 点、(2)3浪男子は10 点の加点、(3)4浪以上の男性と、現役・浪人にかかわらず女性は加点なし、としていたことを発表した。
不正は2010年頃には始まっていたという。
女性の割合を低く抑えるために行われた操作は、医師を志す受験生の夢や努力、大学への信頼の裏切り、費やされた時間や費用を無にする行為だ。不合格となった当事者だけでなく、多くの人々が怒りと悲しみを表明している。
広がる連帯と支援の輪
北原みのり氏(作家)がSNS「ツイッター」で呼び掛けたのをきっかけに、3名の当事者と立憲民主党の元衆議院議員 井戸まさえ氏らによる「東京医大等入試差別問題当事者と支援者の会」が発足(9日)。
当事者の声をもとに10日、東京医大に、(1)入試結果の開示、(2)2018年中に追加合格者の決定、(3)点数操作の被害者に対する受験料の返還と謝罪、(4)受験にかかった費用の賠償を求める質問・要望書を、内容証明で送った。
また、所轄の省庁であり、東京医科大学を「女性研究者研究活動支援事業」として2013年から3年間にわたり補助金を交付していた文部科学省に対し、同大学を含め全国の医科大学の入試における実態の調査、被害者の救済と再発防止などを求める要望書を作成、参議院議員会館の緊急集会で提出している。
医師を目指す学生の苦境
9日、支援者と当事者による集会が開催され、入試における不正で女性や多浪の男性に対する排除を行った東京医科大学への怒りや、女性差別への憤りが表明された。
また、医学部受験には受験料だけでなく予備校に通うために年間約1000万円が必要となるなど経済的な負担が大きいこと、医学部に入学した学生の多くは医師免許取得のための国家試験に合格し、入学する大学により勤務する病院が決まるため、医学部合格がキャリアの第一歩である、といった医学部受験生が置かれた状況について共有された。
集会では当事者のメッセージが読み上げられた。一部を要約し記載する。
大学は差別の全容を飽を明らかに
当事者たちの声
【医学部再受験に臨む20代の女性】
年齢的にも金銭的にもこれが最後だと思い、毎日13時間の受験勉強に励んでいます。微力ながら私の声が届き、女性差別・年齢差別の日本の医学部受験の現状の改善につながればいいなと思い、ご連絡を差し上げました。
経済状況から医学部に行きたいとは言えず、他学部に進学し就職するも、医師になる夢を捨てきれないことや、親しい人の急死などを経て、命を救う技術・知識・権利のある医師になろうと決心しました。
おかしな話だとは思いますが、医学部を目指す女子は受けない方がいいと言われている大学、再受験や多浪には厳しく、ほとんど採らないとされている大学があります。確かに1人医師にするためには9000万円程度かかると言われ、社会に還元する時間が長い医師が欲しいという言い分にも一理あるでしょう。
ですが、募集要項に記載せず、女子・多浪(再受験含む)の受験生に対する減点が当然という医学部入試はおかしいと思っています。
再受験で医学部を目指す理由はさまざまだと思いますが、私の周りの再受験の方は、身近な方を亡くされたなどの出来事をきっかけに高い志で受験しております。そういった経験や決意を全て無視して、年齢や性別で一律に排除されるのはどうしてでしょうか。
どんなにがんばっても女に生まれたから、現役生でないから、若くないから、と医師になる夢をあきらめなければならないのでしょうか。医学部への門戸が開かれないと医師になれないのです。今回の東京医科大の事件を見て、毎日怒りと悲しみに暮れています。他大学の医学部もフェアな受験制度に変わるよう切に願うばかりです。東京医科大に対しては受験料の返還と事実の公開を希望します。
【不正操作が行われていたとされる年に東京医科大を受験した他大学の学生】
今回の不正には憤りを隠せません。私が男であっても女であっても、許してはおけない問題です。医学科の入試はフェアで点数勝負、実力がものを言う世界と信じておりました。
東京医科大学は当該受験生の対応を検討するとのことですが、これは当然のことです。受験生は物ではありません。
受験会場にいる受験生には背景があります。ここまで来るのにどれほどの努力、苦労、葛藤があったのか。また、女性の受験生の入学者の人数の調整は暗黙の了解だったという医療関係者がいましたが、受験生はそうとらえていません。
だから裏でこのような操作が長期にわたって行われているとは思いませんでした。傷つけられたのは当該受験者だけではありません。社会の信頼、人々の気持ちを踏みにじりました。
事実を明らかにして、まずは不正が行われた年度の点数を全て開示することを求めます。
【東京医科大学を受験した女性の母親】
考えられないことが起きた。何もしてないのに何十点も差をつけられて、彼女の頑張りは切り捨てられるのか。
娘は「自分で人生を切り開いていくんだ」と医学部を選んだ。彼女がドクターになろうとしたとき、女性だからと切り捨てる職場であることはあまりにも気の毒だ。
とにかく事実を明らかにしてほしい。家庭の背景はそれぞれだと思うが、さまざまな立場の人の声を聞いてほしい。
文科省は徹底的な調査と情報公開を
代表の北原氏によれば、受験が実質、就職試験として機能する医学部独自の仕組みにより医局(大学内の人事組織)の人間関係は狭いそうだ。
受験生や学生にとって声をあげることは空気を乱すことにつながり、将来のキャリアに影響するかもしれないという不安は強いという。
当事者は自分たちへの謝罪と賠償だけではなく、目指す医療の現場が女性を排除する職場でなくなるように、後に続く受験生が同様の不当な扱いをされないためにと、困難な状況で声をあげている。
10日の定例記者会見で、文科省は全国の国公私立大学の医学部医学科を対象とした、入試の実施状況等について緊急調査の実施を明言。
しかし、東京医科大学で点数の操作が発覚した上、不合格者には成績が開示されてこなかった2次試験の実施状況を追求していないなど調査の内容が不十分であり、社会民主党議員 福島瑞穂氏が文科省高等教育局大学振興課大学入試室長の山田泰造氏に問題を指摘、加筆した要望書を送った。
いまだ、東京医科大学にも文部科学省にも、徹底的に調査しようとする姿勢は見えない。
しかし、角田由紀子弁護士、打越さく良弁護士らによる「医学部入試における女性差別対策弁護団」が21日結成されるなど、当事者への支援はさらに拡大。東京医科大学および関係機関には誠実な回答が求められる。
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東京医大等入試女性差別に訴訟を支える会
https://www.facebook.com/kaese0802/ Instagramアカウント Kaese0802 一緒に声をあげてくださる当事者・ご家族の方は kaese0802@gmail.com まで。