朝鮮半島の非核化・歴史的朝米首脳会談が間近に迫るなか、完全に蚊帳の外に追いやられた安倍外交の失敗は明らかである。安倍外交の貧弱さに比して、年明け以降の和平・非核化に向けた対話路線は、東アジア・世界で注目されている。朝鮮の金正恩氏と韓国・文在寅氏の主導で行われているのは明らかだ。南北首脳会談の意義、非核化への道を創り出した背景などについて、ソウル書林の李 慈勲氏にインタビューした。李氏は、「70年にわたる韓国民主化闘争の意義」を強調した。(文責・編集部 山田)
李 慈勲(リ ジャフン)さん
韓国金屋南道麗水市生まれ。61年以降、民主化闘争の闘志として独裁政権と闘った。63年、日本に政治亡命。韓国の民主化により帰国が可能となり、現在は、毎月のように帰国。活動家・政治家との交流を続けている。
南北分断を克服する一歩
――南北首脳会談の成果とは?
李―日本のマスコミは、南北首脳会談について朝米首脳会談の準備会議のように報道していますが、本質を見誤っています。南北首脳会談は、南北分断を克服するための70年にわたる長い民族統一運動と韓国民主化運動の成果です。
特に昨年、韓国におけるロウソク革命の意義を強調したいと思います。9年にわたる李明博・朴槿恵保守政権は、和解の芽をつぶし南北の緊張を高め続けてきました。
財閥系大資本優先の経済政策は、格差の拡大、若者の貧困化をもたらしています。財閥企業がGDPの70%を占め、非正規労働者が労働人口の6割を占めるといういびつな経済構造となっています。独立心が強いという韓国人の気質もあって膨大な個人事業主がいますが、彼(女)らは、50才定年制で退職後、再就職先が見つからず起業した人たちです。90%が3年以内に倒産しています。中産階級が没落し、増大した貧困層が、ロウソク革命の主役です。文在寅政権は、こうした民衆を基盤としています。
したがって、南北首脳会談の近因としては、(1)ロウソク革命による文政権の成立、(2)平昌オリンピックに加えて、(3)金正恩委員長が新年の辞で、南北和解・朝米会談の開催を訴えたことです。これで一気に和解ムードが高まりました。
韓国市民には、戦争に対する強い警戒感があります。産業社会化に成功し、ようやく食べられるようになった韓国市民は、万が一戦争になれば、200~300万人のソウル市民が死亡すると言われています。国民全体が、和平構築に向けた期待感をもっています。文政権の外交政策を規定しているのは、こうした市民の意思です。
日本メディアの朝鮮への偏見報道
――金正恩氏への評価が変わりつつあります。ミサイルを飛ばしたときに作られる「何をするかわからない恐いイメージ」から、「戦略家で緻密に考えられる人物」への交代です。実像は?
李―朝日新聞の耕論に内閣官房・国家安全保障局顧問である平岩俊司名古屋南山大学教授が、対談のなかで「朝鮮半島外交の専門家として研究してきた結論として、北朝鮮は合理的・正常な国家である」と述べています。
日本のマスコミは、北朝鮮について「暴力的で不気味な国家」として描こうとしているが、実像はかなり違うと言えます。実際、米国は70年間、北朝鮮国家を打倒するために、軍事的圧力、経済的制裁、国際的包囲などあらゆる手段を講じてきました。リビア・イラクや東欧諸国など、転覆させられた政権もたくさんあるなか、今なお存続している共和国は、帝国主義から民族と国家の尊厳を守ってきた希な例といえます。
94年の米朝核合意をつぶし「悪の枢軸国」と規定したのは米ブッシュだ
89年以降、ソビエト連邦からの援助が打ち切られ、90年代の共和国は「苦難の行軍」といわれる時代となり、食糧自給とともにエネルギー自給をめざして原発建設を急ぎました。これをみた米国は、原発で生み出されるプルトニウムによって共和国が核武装することを懸念し、ジュネーブ会談を呼びかけ、94年の核合意=米朝枠組み合意ができました。
内容は、共和国が兵器級のプルトニウムを容易に生産できる黒鉛炉を軽水炉に置き換える代わりに、米国は、軽水炉が完成するまでの間、暖房・発電用として毎年50万トンの重油を供給するというものです。また、双方とも、政治的・経済的関係の完全な正常化に向けて行動し、米国は、核兵器を北朝鮮に対して使用せず、脅威も与えないとの確約もおこないました。
ところが、この合意を打ち破ったのはアメリカです。核武装をしないことを条件に朝鮮半島エネルギー開発機構は設立されましたが、原子炉建設は全く進まず、石油の供給はおろか、国交正常化の交渉も進展しませんでした。大統領がクリントンからブッシュに代わると、米国の対北朝鮮政策は敵視政策に代わり、「悪の枢軸国」と規定されました。韓国と日本のメディアは、こうした米国の裏切り行為を全く報道しません。
西側メディアは、北が一方的に核武装するからアメリカが制裁を加えていると、報道していますが、真相は逆です。北朝鮮が貿易決済や外貨取引で使っていた中規模銀行が資金洗浄・偽ドル札作りをしているとして取引停止措置にしたことも、後にアメリカ政府自身が認めたように偽情報でした。
イラクに対する大量破壊兵器疑惑にしても、先に嘘を流して後で訂正するという手法は、アメリカの常套手段なのです。