独裁政権並「縁故主義」の正体

加計学園疑獄で安倍政権は崩壊するか?

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アカデミックジャーナリスト、同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻博士後期課程教授(大阪高裁で地位確認訴訟中)    浅野 健一
森友学園疑獄に続き、愛媛県今治市の加計学園に安倍首相が多額の口利きをしたことが問題化した。首相退陣が当然だが、告発と隠蔽のせめぎ合いが続いている。同志社大の浅野健一さんは、独裁政権による「縁故主義」であり、その批判を通して政権退陣に追い込む必要があるという。原稿をお願いした。 (編集部)

獣医学部獲得の経緯国家戦略特区の私的利用

 「一強」安倍晋三・自公政権が進める縁故主義(cronyism)の極致が、愛媛県今治市で来春開校予定の学校法人「加計学園」・岡山理科大学獣医学部だ。
 安倍首相が「腹心の友」と公言する加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園は、「国家戦略特区・獣医学部空白地域・1校限り」というトリックで、今年1月、52年ぶりの獣医学部新設の計画が認められた。学園は翌日、建設工事を開始し、18年4月、定員160人で開校を目指し、工事が急ピッチで進んでいる。
 しかし、ここに来て、新学部設置で安倍首相の圧力があったという状況証拠がいっぱい出てきた。民進党などが5月17日までに入手した文書は、国家戦略特区指定に関し、特区を担当する内閣府の藤原豊審議官が「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っていること」などと、文科省高等教育課に獣医学部の早期開学を迫っていたことを明らかにした。また、今年1月まで文部科学省の事務方トップだった前川喜平・前文部科学事務次官が5月25日、東京都内で記者会見を開き、この記録文書について「在職中に共有していた文書で確実に存在している」などと説明し、「行政がゆがめられた」と批判した。しかし、新学部の設置認可はまだ出ていない。
 今年2月9日の朝日新聞スクープで始まった森友学園の安倍記念小学校・アッキード疑獄と同じで、建設は進んでいるが、「設置認可」はまだ出ておらず、文科省の大学設置審議会で審査中だ。教員の確保などをクリアすれば、9月までに認可される予定だ。NHKは5月15日、定員や教員の態勢などに課題があるとする報告を取りまとめたと報じた。新学部決定の経緯に首相らの圧力があることが分かったことで、教員の確保がさらに難しくなるほか、1学園160人の学生定員が適切かなども疑問で、すんなり設置認可が下りるかどうか微妙な情勢だ。
 大学設置経費の半額負担の加計学園が、獣医学部を獲得した経緯を振り返ろう。
 今治市は政府の決定を受けて、3月3日、「市いこいの丘」の所有地約17万平方メートル(36億7500万円)を学園に無償譲渡し、校舎建設などの大学設置経費192億円の半額の96億円を交付すると決定。ウイルス研究所を持つ京都産業大学は、16年3月に獣医学部の新設を提案、10月17日、政府のヒアリングで、21ページの資料を示して構想を訴えた。
 しかし3週間後、安倍首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議が「獣医学部の空白地域」という地理的条件を新たに示したため、京産大は設置を断念。加計学園が文科省に設置認可を申請し、設置審議会で現在審査されており、9月までに設置の可否決定がある。安倍小学校は、開校2週間前に設置申請が取り下げられた。加計氏もいますぐ申請を取り下げるべきだ。
 安倍首相が国会で答弁しているように、自治体が大学に土地を無償譲渡する例はある。しかし、工事費を含む設置経費の半額を負担するという前例を知らない。

工事を中止し経緯の検証を

 筆者は4月23日、今治市内で開かれた「今治の〝獣医学部〟開校について市と市議に話を聞く会」を取材した。「聞く会」は2回目で、「作る会」教科書問題などを取り上げてきた市民有志が主催した。今治市の秋山直人企画課長は「市活性化のための大学誘致は42年前からの念願。県内の私学、松山大学なども設置を検討していたが、立ち消えになった」「加計学園誘致で毎年3000万円の税収効果が見込まれる」などと説明した。参加者から「たった年3000万円のために132億円もの血税を投入するのか」とか、「加計学園は昨年11月、県や市の立ち合いもないままボーリング調査を強行した。これは違法ではないか」という声があった。秋山氏は「文科省の審議会で設置審査中のため公表できない」と答えた。
 今治市民の間では、「ここでいったん工事を止めて、加計に決まった経緯に不正がないかをはっきりさせるべきだ」とか「動物もいいが高齢者など人間を診てくれる最先端の医療に税金を使ってほしい」などの声も出てきた。「今でも、就職先のない若手か、定年退職した研究者しか集まっていない。決定の不透明さ、不公平さが明るみに出て、辞退する学者もいるのではないか。結局、文科省の認可を得られないのではないか」という市民もいる。

民進党との面談を拒否する愛媛県と今治市

 民進党の国会対策委員会のメンバー6人が5月19日、加計学園の建設現場を初めて訪れた。加計学園側は現地案内を拒み、議員団は工事車両が出入りするゲート付近から工事現場を視察するしかなかった。ヘルメットを被った工事関係者が「この線から入ってはならない」と制止。地元市民数人と約100人以上の報道陣が駆け付けた。今井雅人・調査チーム座長は、「認可が出ていないのにこんなに工事が進んでいいのか」と話した。
 愛媛県も今治市も、「担当者不在」を理由に調査団との面会を断った。前政権を担った野党第一党の議員チームと「会わない」というのも、官邸を忖度しての判断だろうか。加計学園疑獄は、獣医学部建設工事が終わり、認可が下りるまでマスメディアと民衆の関心を集める。終わりがない。
 安倍氏は2月17日の衆院予算委員会でも、安倍記念小学校への国有地売却に「私、妻、事務所が関わっていれば総理も議員も辞める」と答弁している。安倍氏は身の潔白を訴えるために、「事実があれば辞める」と強弁したのだが、妻の昭恵氏の関与は明白になっている。加計学園疑獄も、首相秘書官の関与がはっきりしてきた。安倍氏夫妻を証人喚問する時が来た。
 前川・前事務次官が5月25日、東京都内で記者会見を開き、この文書について「在職中に共有していた文書で確実に存在している」などと説明し、「公正公平であるべき行政がゆがめられた」と指摘。朝日新聞は5月31日、前川氏が昨年9~10月に和泉洋人・首相補佐官(国交省出身)と首相官邸で複数回面会し、「総理は自分の口から言えないから、私が代わって言う」などと言われたと報じた。また、6月1日には、木曽巧内閣官房参与が昨年8月、前川氏に「獣医学部の件でよろしく」と言ったことがわかった。
菅官房長官は、問題の文書を「怪文書」と言い放った。また、前川氏の辞任経緯について、「当初は責任者として辞意も示さず地位に恋々としがみついていたが、世論の批判に晒され、最終的に辞任された」と非難した。また、菅氏は「辞めた人間が勝手に言っていること」と発言。菅氏は「在職中になぜ言わなかったのか」と批判したが、菅氏らが恐怖政治を敷いているから言えないのだ。
前川氏は会見の前に、「週刊文春」6月1日の独占取材に応じ、朝日新聞とTBSのインタビューにも応じていた。文科省の文書が民進党と報道機関に渡った後、官邸広報官の田崎史郎・時事通信特別解説委員はテレビ各局で「官邸は誰がリークしたか分かっている」と発言していたが、官邸は文書が出た背後に前川氏がいると見ていた。
 官邸は禁じ手を使ってまで、前川氏を恫喝した。読売新聞は22日、社会面・左肩で、「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」という見出しの3段記事を載せた。東京・大阪・西部の3本社が全く同じ見出しと大きさで掲載した。バーへの出入りは違法ではない。公務員のプライベートな行動について記事にするというのはあり得ない。読売新聞は報道基準に関する本を出版しているが、この記事は自社のガイドラインに明確に反している。

法の適正手続を無視する中世なみの縁故主義政治

 1972年に共同通信記者になって以来、報道倫理について考えてきたが、今回の読売新聞の記事は、前例のない悪質な人格攻撃記事だ。しかも、「書かせた」のが誰かがすぐに分かる恥ずかしい記事だ。誰が誰から取材し、どのデスクが送稿したのか、実名を明らかにすべきだ。
 菅氏は「常識的に言って、教育行政の最高責任者がそうした店に出入りして、小遣いを渡すようなことは到底考えられない」と、人格攻撃を繰り返した。
 前川氏の私的な行動を尾行し、通報したのは誰かも気になる。前川氏は「官僚トップの杉田和博官房副長官(元警察庁警備局長)から在職中に注意を受けた」と述べている。
安倍首相は5月30日の参院法務委員会で、「(1993年の衆院選で初めて)当選した当初、相当昔だが数年間、加計学園の監査かそうしたものを務めた。1年間に14万円の報酬を受けた」と明らかにした。学園の獣医学部新設に関しては、「(理事長が)知り合いだから頼む、と(政府内で)言ったことは一度もない」と述べ、便宜を図ったことはないと改めて否定した。
 私が1989年から4年間特派員をしたインドネシアのスハルト軍事政権について、欧米メディアは「cronyism(縁故主義)」政治だと批判していた。安倍政治は、法の適正手続を無視する中世の縁故主義政治になっている。
 私は5月22日、安倍記念小学校疑獄で、昭恵氏らを東京地検に告発した。アッキード事件と加計事件を追及し、立憲主義を掲げて安倍政権を打倒するべき時だ。 

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