「健康な人間」を市場化する 製薬企業の戦略と薬害

子宮頸がんワクチン訴訟 全国弁護団共同代表  インタビュー

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HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表・山西美明弁護士
子宮頸がん予防のために盛んに接種が謳われたHPVワクチン。副作用が多発し、全国訴訟が展開され、厚労省は積極的な接種を取りやめている。
  本紙では、HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表・山西美明弁護士に、(1)ワクチンの危険性と訴訟の経緯、(2)WHOや国際産婦人科学会のワクチン推奨に対する反論、(3)グローバル企業による「健康の市場化」やこれまでの薬害・公害問題との類似性、について聞いた。(編集部・ラボルテ)

連鎖的に発生する病相被害者連絡会で訴訟へ

―HPVワクチンのそもそもの有効性、危険性は?
山西…前提として、(1)子宮頸がん発症に至るのはHPV感染者の0・15%です。(2)HPV感染は、空気感染や飛沫感染ではなく性感染で起こります。(3)HPVの「型」は100種類を超える一方、発がん性のハイリスクHPVは15種類ほどあるにもかかわらず、HPVワクチンは2種類のハイリスク型しか対象にしていません。(4)ワクチン効果の持続期間も不明です。
 HPVワクチンの機能が、血中の抗体価を非常に高い状態で維持し、血管から粘膜に抗体を浸み出させることで、HPVウィルス感染を予防しています。これには強度の免疫刺激があり、自己免疫疾患の危険性は容易に推測できます。
 ワクチン製薬会社は、「因果関係はなく、副反応がない」と言い切っています。また、厚労省の審査員は、「ワクチンの副反応は1カ月ほどで出る」とみてチェックしています。しかし、このワクチンによる副反応は、従来の疾病概念では説明できない病態なのです。ワクチンがもっている副反応の特色は、さまざまな症状が過剰免疫によって、2~3年単位の長期的な時間経過とともに重複して表れてくることです。この重症化した病相には前例がないのです。
―訴訟に踏み切った経緯は?
山西…2009年10月以降に、ワクチン接種が始まり、厚労省は2010年12月に、緊急促進事業としてワクチン接種を無償化し、広く接種を進めました。その結果、中高生世代を中心とした女性300万人に接種されました。これに伴い、健康被害・副反応が相次いで発生しました。痙攣や光・音・嗅覚過敏、過呼吸、識字能力低下から歩行や視覚、記憶障害に至る重篤なものまでさまざまです。
 診察した医師たちは、連鎖するように発生する病相から「思春期特有の心因性の問題とは明らかに違う」と考え始めました。患者たちの共通項にHPVワクチン接種があったことから、このワクチンの接種の副反応による新たな疾病だと考えました。HPVワクチン被害者連絡会が立ち上がり、ネットや報道で情報が広まりました。相談は1000件を超え、厚労省と製薬企業に対し、このワクチン接種の中止や被害者の救済を働きかけ始めました。
 2013年4月には定期接種の対象となる法改正が行われたものの、続々と報告される重篤な副反応からわずか2カ月後に厚労省は「積極的勧奨はしません」と表明しました。この方針は現在も続いています。
 2014年9月に、この副反応の治療に当たる医師らによる研究チームは、HANS(ハンス/HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)として、HPVワクチン薬害による重層化病態の病名を世界で初めて表明しました。被害者連絡会から全面解決要求書が提出されるも、国も製薬企業も責任を認めず、十分な救済策を実施しませんでした。  被害者らは、訴訟によって真相を究明するしかないと決断し、2016年7月に東京・名古屋・大阪・福岡で一斉訴訟に踏み切りました。

世界中で薬害圧力で隠蔽

―ワクチンは世界的に認められ、WHOや国際産婦人科学会などの国際的権威や国内でもさまざまな学会がHPVワクチンを推奨していますが?
山西…製薬企業の戦略は「健康な人を対象」にすることです。HPVワクチンの製造は世界的に、メルクとグラクソ・スミスクラインというグローバル製薬企業2社が占めています。現在までに世界中で販売された量は、2社で約3億本です。HPVウィルス発見は、「がんの中でも初めて原因を発見した」とノーベル医学賞を受賞しています。
 製薬企業は研究費に相当の予算をつぎ込んでいますし、原因究明の次は対策を考えるわけです。「ウィルス感染の予防が必要」と、健康な人を対象とした市場戦略を展開します。予防薬は、治療薬と比べ、市場規模は桁外れに大きいのです。
 製薬企業は「人類最大の敵であるがんを予防できる」と謳い、資金力を背景に、世界各国でロビイング活動と政治的圧力をかけていきました。例えば、オバマ政権時、アメリカ民主党は製薬企業との資金的な結びつきが強く、ワクチン接種を積極的に進めてきました。
 欧米各国で認められた次は、発展途上国の人々を対象とするために、WHOに対するロビイングを行うわけです。「発展途上国の若い女性たちは、貧困や性的被害多発などの環境要因もあって、子宮頸がんは深刻な状態にある。この女性たちにこそ、ワクチンが使われるべきだ」と。これでWHOも推奨し、発展途上国にWHOや欧米諸国などの支援によってワクチンプログラムを組み込むわけです。
 日本国内でいえば、がん患者会などの当事者団体や研究者・専門家に対して、活動費や研究費を製薬企業が助成することで、検診だけではなくワクチン接種の必要性を働きかけていきます。これは、精神疾患の啓発に向精神薬を売り込んでいくことと類似しています。加えて、当事者・研究者・専門家とともに政治家に働きかけ、最後に厚労省に圧力をかけていくわけです。 当時、「日本は医薬品承認が遅すぎる」という議論が盛んで、「世界的に評価された薬の臨床試験を、日本国内で日本人対象に大々的に行う必要はない」と規制緩和させました。この上で、このワクチンの承認と無料接種の流れができるわけです。
 なお、アメリカでは、個別の裁判で補償を求め、認められているケースもあります。また、オーストラリアでは、2015年2月までに3404件の被害が、イギリスでは、同年6月までに8243件の被害が報告されています。しかし、大きく声をあげ、集団訴訟として展開しているのは、日本だけです。

ワクチンとの因果関係を認めさせ勝利判決で政治課題化へ

―これまでの薬害や公害問題との類似性は。また、薬害・公害問題に共通する課題として、医学的な立証が困難である一方、社会的な因果関係から責任追及するという流れがありますが…
山西…過去最大の薬害訴訟としては、スモンがあります。末梢神経症状によって、歩行や視力に障害が出るなど、約1万人が薬害を受けました。裁判時、製薬企業は「未知のウィルスが原因だ」と主張しました。被害者側は「成分にはキノホルムという劇薬に指定されている成分が使用されている」と主張し、因果関係が問題になったものです。
 公害訴訟では、水俣病訴訟という因果関係が争われた過去最大の公害訴訟があります。水俣市の工場排水に有機水銀が含まれ、汚染された魚を食べた近隣の人々が次々と原因不明の中枢神経症状が出ました。これも当初、国・企業側は「地域の伝染病や不発弾の影響」と主張しました。
 スモン薬害、水俣、四日市ぜんそくなどの公害訴訟は、被害と原因行為の間の因果関係について、医学的科学的証明ではなく、一般人を基準とすれば「その行為によって結果が起きる」と判断されるということの立証と、「地域の人々の多くが有機水銀による水俣病の症状に陥っていた」という疫学的証明で推理することで、裁判所は被害救済の判決を下しました。
 しかし今回、HPVワクチンの製薬企業は、「疫学的証明で足りる」とする判決を、逆手にとって、安全性の証明として、疫学的証明を利用しています。例えば、製薬企業は、豊富な資金力をもって大々的な臨床実験や、何十万人も対象とした疫学調査を行っています。疫学的調査は「どんな方法で、どのような危険性を前提とするのか」という設定次第で、結果は異なってきます。HPVワクチン薬害は、患者を実際に診断している医師が前提としている重層化した病態を前提とするか、頭痛や関節痛など個別病態のみを前提にするかによって、結果は異なるのです。
 先日、厚労省研究班である「祖父江班」が中間報告を出しましたが、後者の個別症例を前提としているため、被害者らの重層化した副反応と「HPVワクチンの接種との間に因果関係は認められない」と結論付けています。こうした因果関係の問題は、今後、裁判で争われる大きな争点です。

―裁判そのものも含めて、今後起こりうる薬害・公害問題に対するアプローチは。
山西…製薬企業が裁判に投入する資金力と比較すれば私たちは相手になりませんし、薬害・公害事件は歴史的に全て国家・大企業が相手です。そのことに怯んでいたら、問題解決になりません。当然のことかもしれませんが、「人々の注目を集め、勝訴判決をもって、政治課題化すること」こそ重要だと考えています。多くのみなさんからの精神的な支援が何より不可欠なのです。

※大阪訴訟の次回期日は5月23日の予定。詳細は「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」を検索してほしい。 

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