居場所つくり 加害者を変えることでDV被害をなくす 非暴力な社会をつくる

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非暴力ルーム・大阪 イダヒロユキさんインタビュー

女性・労働問題をはじめ、相談活動やユニオン活動に取り組むイダヒロユキさん。90年代初頭から女性の非正規労働者の問題に取り組んできた。
 イダさんが関わっている非暴力ルーム大阪(NOVO-NO VIOLENCE ROOM OSAKA)では、日本では数少ないDV加害者プログラムを通して、DV加害者を変える取り組みを実践している。編集部では、(1)NOVOの取り組みを始めた背景、(2)プログラムの内容、(3)今後について伺った。(編集部・ラボルテ)

―NOVOをはじめた背景は?
イダ…身近なところから「暴力に敏感な人、非暴力の人を増やしていきたい」という想いがあります。
 いま、ネットには「冤罪DV」などを掲げて、「DV対応で俺の家族を壊された」と怒りをもっている男性加害者が多くいます。実際に宇都宮市連続爆発事件(10月23日)では、DV加害者が公園で爆弾をまいて、通行人を巻き添えにして自爆した、という惨事がありました。「俺は加害者ではないのに、DVのレッテルを張られ、妻と子どもを失い、財産を失った。冤罪なのに、誰も話を聞いてくれない」という心境だったのでしょう。
 被害者支援という基本的なポジションは重要ですが、いま多くのDV支援の過程では、加害者にアプローチできていません。結果的に加害者は野放しにされたままで、別のDVや差別・暴力問題を含めて、地域社会にとってはリスクになり続けるわけです。ひょっとすると、DV加害者は、職場でパワハラをする上司という顔も持っているかもしれません。
 DV問題について、「加害者男性は絶対に変わらない」という認識を持っている人もいます。しかし、暴力的な人を変えることは、被害者をつくらず、社会を非暴力化していく過程だと気づいたのです。また、DV対応では、被害者からの相談に対して、「別れること」が結論・回答となりがちです。DV被害者は、加害者と別れることを求めることだけではなく、「夫のDV加害を変えてほしい」という求めもあります。なので私は、DVから逃げるにしても、別居という選択肢を勧めています。これには、結婚という形が残るために生活費(婚費)を得られるうえに、暴力から離れて安全になるとか、加害者が反省しやすくなるというメリットがあります。
 加害男性が変われば、被害女性や子どもにとって、逃げること以外の選択肢をとることができます。
―具体的には、どのような対応を?
イダ…NOVOにつながった被害者女性たちは、夫に「私たちを失いたくないなら、NOVOに行って」と伝えることもありますね。加害者男性がNOVOで変わるか、変わらないかはわかりません。しかし、「妻や子どもを失いたくない」という気持ちがあり、「人のせいにせず、自分を変えよう」と思ったら変わるかもしれません。
 また、NOVOに女性の会があります。被害女性が訪れた場合は、面談し、ニーズを聴いた上で、加害男性が被害女性の意思を尊重するように学んでもらいます。被害者女性自身がDVを学んで自立する力をもたないといけませんし、暴力を受けてきた分、鬱病やPTSDなどの精神の病を抱えていることも多いからです。なので、被害女性同士で話し合う機会も設けています。 
 加害男性からは「突然、妻が子どもをつれて出て行った。どうしたらいいか」という相談も寄せられます。対応としては、「妻を探そうとせず、DVを学ぶことが大事。そのうち妻から離婚調停などの要望がくるだろうから、その時にお金のことを含めて誠実に対応すること」と伝えています。
 私は家族関係の修復を目指しているのではなく、個人として自他を尊重しあうことを目指すシングル単位論者です。DVというのは、例えば夫と妻が同じ車に乗って、夫が妻に「ハンドルをきれ、ブレーキを踏め」と一方的に指図して支配しているものです。お互いに自己決定権があるのに、意思を押しつけて「離婚しないでくれ」と言うことはできません。なので、加害者男性には「彼女は彼女自身の車に乗っているのだから、彼女が離婚したい、別居したいといえば、それを尊重することがあなたのできる第一のことです」と答えています。

参加者同士で対等な関係性を築く

―加害者プログラムそのものの詳細は?
イダ…加害者男性に計52回、プログラムに参加してもらいます。毎週土曜日に2時間受講して3000円を払う必要があります。これは、「二度と暴力を振るわない」ことを、言葉だけではなく、実際に「養育費を払い続けるのか、 NOVOに参加し続けるのか」という持続的な行動を示すことが問われる、ということを意味します。
 また、NOVOでは、被害者女性側から「DVがあったなどの状況」の連絡を受ける体制をとっています。例えば、「夫から変な手紙が送られてきた」などあれば、「なぜ文書を送るのはダメなのか」を第三者的な位置から説明します。
 最初の3回は面談のみです。加害者男性の方の気持ちも聴かないといけません。加害者男性の中には自殺未遂歴や喪失感から混乱している人もいるのでカウンセリングも重要です。その後のグループワークでは、私を含めたNOVO側スタッフと、他の加害者男性参加者を交えたグループワークです。数回で辞める参加者もいれば、1年半から2年間通い続けている参加者もいます。明確な卒業基準はありませんが、妻側から「夫は暴力をふるわなくなった。NOVOを辞めてもいいよ」と表明した時が、ひとつの区切りですね。
―グループワークではどのようなことを 
イダ…毎週異なる題材・教材をもとに DV加害の回避方法や被害者女性の気持ちを学びます。「自分はこんなことをしてしまった」「俺もそうやった」と参加者同士で進めることを軸にしています。生徒対先生ではない、対等な関係性を築くことができます。イメージとしては、アルコール依存症などを抱える自助グループに近いかもしれません。依存症自助グループは主に当事者だけでつくりますが、NOVOでは「DVとはなにか」「DVにならない考え方」を学ぶ必要があります。
 「暴力はダメだ」なんて一般的なことは、みんな知っている話ですよね。本1冊読むと、「DVを理解した」つもりになります。しかし、具体的な事例になると、そうでもない。
 題材では、妻が「営業で訪れた業者から、換気扇カバーを3万円で買わされた」といったものがあり、夫が妻に「バカ! どこの業者や! クーリング・オフするから番号教えろ!」と罵倒している事例などを紹介します。その上で、参加者に「これと似たような経験はありますか?」と聞きます。参加者は「スーパーで高額な物を買われて怒鳴ってしまった…」と自らの加害経験にひきつけ、他の参加者と話しあい、非DV的なコミュニケーション方法を学びます。
 事例を通して、妻に対して「大変やったね、業者のせいだよ」「クーリングオフっていう方法が使えるみたいだけど、どうする?」といった形で接することができるようになれば、非DV的な関係性になるわけです。罵倒・説教・解決の先取りはダメだと知り、相手を尊重して対等な関係性や共感的な対応を学び、妻や子どもへの暴力を感覚的なところまで認識するプロセスを経ていきます。
―今後のDVプログラムについては
イダ…日本では今年3月に、内閣府男女共同参画局が『配偶者等に対する暴力の加害者更生に係る実態調査研究事業』報告書をまとめています。「加害者に暴力的・支配的な行動パターンを改める機会を与え、中長期的な被害者の安全や社会の安全の確保」の必要性を述べていて、行政の取り組みが進むのなら、いいことでしょう。ただし、裏返せば、政府のガイドラインがどのようなものになるのか?
行政から予算がつくと、医者やカウンセラーなどの専門家の単なるビジネスになるのではないか? などの問題が生じます。これはDV被害者を支援する、社会全体の暴力をなくすという視点が抜け落ち、加害者に甘いプログラムになる恐れがあり、注視しなければいけません。現状からいえば、最低数年はかかるだろうと思いますが。
 DV加害者プログラムは非暴力な社会をつくるためのひとつの希望ですし、冒頭に挙げた「冤罪DV」などを掲げる人たちは、放っておくと政治的にはトランプ的にもなり得ます。いじめ・ストーカー・セクハラをはじめ、問題をつくりだしている加害者を変えること。この修復的正義の実践を、今後もNOVOに来ている参加者から、丁寧にしていきたいと思います。

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