ブラック化する保育ー「月5万円の給与増加を!」署名 国会に提出

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書き手:元民間認可保育園園長 大川えみる

 民間認可保育園で園長をしていました「大川えみる」と申します。保育士の給与が低すぎます。その原因は運営費の低さにあります。
 ネット署名「保育士給与のために、1人当たり月5万円増額してください!」を1月末に立ち上げました。2カ月間で2万8000を超える賛同を得て、3月30日に国会に提出してきました。
 認可保育園の運営費はほぼ100%、税金が原資となる運営費補助金です。その支出の7割以上が人件費となります。無認可園の場合はさらに割合が大きいはずです。
 人件費7割とはどういう状態か、分かりやすく説明します。園児60人、職員20名の保育園で、1カ月の補助金は約500万円。500万円の7割とは350万円。単純に20人で割れば1人17・5万円です。これは額面なので、手取りは15万円ほど。地域差があるので、首都圏では20万円近くにもなるでしょう。しかし地方では、手取り11万円、12万円という現実があります。フルタイムで働いて、生活保護と同じ水準です。
 保育士は入職5年で半数が辞めていきます。仕事量が多く責任が重いのに、給料が安く休めない。1人暮らしもできない。保育士不足は「待遇の問題」なのです。これを1人ずつ、あと5万円増額してほしい。手取り20万円くらいは必要、という主張の署名でした。
 野党が3月半ばに同じ内容の提案を始めましたが、私の呼びかけはその2カ月前から始まっています。3月30日の衆議院厚生労働委員会、山尾しおり議員が、質問で私の署名について紹介しました。
 塩崎厚労大臣あてであること、受け取ってくれるかと聞いたところ、大臣は「私は受け取る」と3回発言されました。昼休みの時間にいったん厚労省と内閣府の役人に手渡し、夕方に厚労大臣が受け取るという話でしたが、結局、自民党から圧力がかかって、大臣は受け取れないということでした。
 厚労大臣が自身の管轄である保育士の待遇に関する署名を「受け取る」と言ったのに、党が圧力をかけて止めるというのはひどい話だと思います。厚労大臣に待ったをかけられるというのはどういう立場の方の意思でしょうか?
昼過ぎの仮提出から、夕方5時過ぎまで議事堂近くで待っていたのですが、結局「いったん受け取ったので大臣は出てこられない」というのが、自民党から圧力を受けた厚労省の結論でした。
 正直なところ終わったという実感がないので、署名キャンペーンはまだしつこく続けています。せっかく厚労大臣が受け取ると言ってくれたのですから、ぜひ大臣に手渡したい。そのタイミングを見計らっています。
 署名提出に先立って政府の「待機児童緊急対策」が3月末に出されましたが、ひどい内容です。「小規模保育施設の定員以上に子どもをつめこんでよい(→ただでさえ狭いところに大丈夫か?)」「一時保育施設に常時子どもを預かってよい(→本当に一時保育が必要な子はどうなるの?)」なかでもひどいのは次の項目です。「国の最低基準以上に緩和している自治体は、最低基準に戻せ」。たとえば「1才児6人に保育士1人必要」というような最低基準があり、それを下回ってはならないとされています。

 意識の高い自治体は、「1才児6人に保育士1人」は大変なので「5人に1人」ですむよう助成してくれていました。それを「最低基準に戻して待機児を受け入れよ」というのです。
 最低基準の条文には、「最低基準を理由にしてこれでよしとしてはいけない」「基準以上にするよう努力しなければならない」とあります。国がその精神に反するようなことをしてよいのでしょうか。
 「事故対策の研修をする」という項目があります。しかし、事故が起こりそうな状況を作って「研修をする」とは、悪い冗談のようです。自分たちの保身しか考えていないように感じました。
 署名提出の前日、厚労省保育課長らと意見交換をする場で意見を述べることができました。署名を説明し、賛同者の1割の人から頂いたコメントを紹介しました。
 「経験20年の保育士。10年前の明細から8100円しか上がっていない」「自分の子が保育士を目指しているが、子の将来に不安があり、応援できない」といった声があります。保育士、園長だけでなく保護者、一般の方、お年寄りまでコメントをくれています。保育の当事者だけでなく、社会全体で疑問視されている問題なのだと、あらためて実感しました。
 「保育士は国民の生活を守る、ライフラインの役目を果たしています。電気や水道が止まったら、生活に関わります。保育士がある日、全員でストをやったらどうなるか、考えてみてください。保育はボランティアではありません。保育士の善意に、志に、甘えないでください」と、私自身の意見を述べました。
 じつは保育士の待遇問題の背後に、さらに大きな問題があります。「保育士のなり手がいない」、そのため保育士を養成する学校には日常的に「誰でもいいから資格をもっている人を紹介して」という電話がかかってきます。しかし本当に誰でもよいわけはありません。
 大人とコミュニケーションできない人、子どものケガを見落とす人、遅刻が続く人、発達障害や学習障害を疑う人など、さまざまな問題を抱えた保育士が現場に集まりだしています。仕事のできるベテランが、かれらの対処に困って潰れていきます。また、養成校にも問題の多い学生がたくさん集まっています。多くの養成校が定員割れしており、資質を疑う学生でも、入れなければ経営的に難しいのです。つまり、「保育士のなり手がいない」ということを放置すると、こういう人ばかりが保育士になります。
 今は善意でなんとかもっている現場ですが、我慢の限界をこえたとき、大きな崩壊現象が起こるのではと危惧します。何を言われても動じない、感じない、頑丈で強い保育士しか残らないでしょう。
 心の弱い保育士はさらに弱い子どもに暴力をふるうでしょう。子どもにとってよい環境とはとても思えません。これを私は「ブラック化する保育」と呼んでいます。保育士の待遇改善は、ブラック化に歯止めをかけ、望ましい方向へと転換する最初の一歩になると思います。

 『ブラック化する保育』というタイトルで本を書きました。5月末、かもがわ出版から刊行されます。ぜひ手に取ってみてください。

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