【TPP ここが問題だ!1】「金融サービス」 グローバル金融資本が狙う日本の金融資産

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TPP交渉差止・違憲訴訟の会副代表 弁護士 和田聖仁さん インタビュー

 安倍政権は、TPP法案の今国会での成立を断念した。国会では情報公開を拒否しながら、自身は暴露本を出版するTPP特別委員会の西川公也委員長の姿勢に野党が反発したのに加え、甘利元大臣の汚職問題もあるからだ。TPPは、新自由主義を強化する方向で、日本の経済・社会構造を一変させ、貧困を拡大する。連載で検証する。

 (文責・編集部)

金融危機招き寄せるTPP

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編集部:「金融サービスは、TPPにおける最も重要な章だ」と指摘されていますが、その理由は?
和田TPPの原型であるP4協定(シンガポール・チリ・ニュージーランド・ブルネイが締結)の時にはなく、後に米国が参加した時に追加されたものが、金融サービス(第11章)と投資(第9章)です。米国がこの分野を重視していることを示しています。TPPには12カ国が参加していますが、経済規模では、米国と日本が突出しているので、金融サービス面では、事実上、日米FTA(自由貿易協定)だと言えます。TPPは広範な分野を含みますが、米国が特に重視しているという意味で「金融サービス」は、最も重要な章だと考えています。
 特に注目すべきことは、2008年の世界金融危機=リーマンショック以後に各国が積極的に導入してきたマクロ・プルーデンシャル措置を事実上行使できなくなる条項が含まれている点です。同措置は、金融危機に陥った際に、消費者や国民生活を守るために政府が行う金融安定化対策です。1997年のアジア通貨危機に際してマレーシア政府(マハティール首相、当時)がヘッジファンドに対抗して採った「資本取引規制・固定相場制」や、リーマンショック後、米国政府が制定したドッド・フランク法などがその例です。同法は、金融機関の説明責任と透明性を向上させることで金融安定性を促進し、新たな金融危機を防止するための法律です。
 ところが、TPPによって事実上マクロ・プルーデンシャル措置が行使できなくなると、自国の金融システムを守る規制を発動できません。大量の資金が一気に逃げ出して、ストップできず、世界金融恐慌に巻き込まれます。安倍首相らは、「投資を呼び込む」と言っていますが、グローバル金融資本が危機の際に資金を引き揚げる時には、国内の金融資産を根こそぎ持って行ってしまいます。大型投資によって一時的には経済繁栄するのですが、資金が出ていく時には、蓄積した金融資産を根こそぎ奪っていきます。 
 TPPの根本思想は、国境の壁を取り払い資金を自由に流動させるという新自由主義であり、それは、ウォール街のメガ金融グループ(シティバンク・JPモルガンチェース・ゴールドマンサックスら)の願望が実現されたものです。TPPによって、再び金融危機が引き起こされる危険性も指摘されています。
 米国民主党の大統領候補であるサンダース上院議員や同僚のエリザベス・ウォーレン上院議員らがTPPに強く反対していますが、理由は、ドッド・フランク法が形骸化され金融システムが再び破壊される危険性があるからです。金融自由化は、生活への影響がすぐに表れるわけではありませんが、経済崩壊を招き、貧困を拡大します。

農協マネーが当面のターゲット

編:何がターゲットにされているのですか?
和田:ウォール街を中心とする勢力の日本に対する狙いは、ゆうちょ銀行・かんぽ生命の資金=約290兆円と言われてきましたが、今回、具体的に狙われているのは、農協のマネー、特にJA共済などです。埼玉学園大学の相沢幸悦教授によると、JA共済の運用資金は52兆円ですが、長期共済保有計画=生命保険のようなものが281兆円あります。合わせて330兆円が狙われています。
 グローバル金融資本にとっては、10年前の郵政民営化に始まる大きな懸案です。TPPの「金融サービス」は、その延長線にあります。アメリカ自身がウォール街に食いあらされて、格差が拡大し中間層が没落しています。対抗運動として「1%対99%」を掲げてウォール街占拠運動が起きましたが、アメリカ自身が病んでいます。その余波が日本にもきます。
 他にも、年金積立金管理運用独立行政法人=GPIFが保有する約140兆円、日本企業の内部留保350兆円も視野に入っていますが、もう一つの重要なマネーは、日銀の金融緩和のマネー約300兆円です。
 つまり、戦後日本が蓄積してきたあらゆる金融資産が狙われています。TPPは、実質的には年次改革要望書の延長であり、そのバージョンアップ版だと言えます。郵政民営化に始まるゆうちょマネーから、今やJA共済を含む全ての金融資産が狙われています。これらの資金が日本国内から国際市場に流出すれば、日本社会の貧困化が進むことは必至です。
 安倍政権は、「岩盤規制に穴を開ける」として農協改革=株式会社化を進めていますが、これはTPPの前倒しです。国家戦略特区構想や規制改革会議の議論は、TPPと関係なさそうに見えますが、TPPが先取りされて内側から崩されていっています。

編:「狙われている」とは?具体的に述べてください。資金を世界的な株式投資に参入させていくことなどですか?
和田:ウォール街に象徴されるグローバル金融資本が、日本企業・団体の保有する余剰資金を、彼らの「提供資金」として利用することが最終目的です。
 最も重要な資金の流れは米国債です。日本政府や準公的機関が持っているお金は、大部分が米国債の購入に当てられています。ゆうちょマネーやかんぽマネーも米国債の購入に移行させられています。同じことが、今後は、JA共済・年金基金や日銀マネーで行われます。日本の余剰資金の行き着く先の多くは、米国債となるでしょう。
 これは、日米関係における最大のタブーみたいなものですが、外国債権の多くは米国債です。アメリカの財政赤字・貿易赤字を日本がファイナンスしているわけですが、「丸抱えしろ」という要求です。あとは株式ですね。世界の株式投資に日本の資産を流し込むという戦略が練られています。 

「金融サービス」とISD条項

和田:TPP交渉過程で最も議論になったテーマの1つに「ISD条項」があります。この条項は、基本的に「投資」(第9章)に規定されていたのですが、「金融サービス」にも適用されることになりました。その結果、グローバル金融資本が、FTA以上に保護され、外国人投資家が協定違反を主張する際には、締約国はISD条項で提訴されるリスクにさらされることになりました。
 この点は、日本よりも先にISD条項が含まれている米韓FTAを締結した韓国で、この萎縮効果により、提訴を恐れて国家全体の利益や、国内の産業の保護などのための政府の政策が、多数、断念させられています。
編:TPPの金融サービスには、「公的プログラムには適用されない」と明示されていますが、和田さんは、懐疑的です。その根拠は?
和田:金融資産の章とは別の「国有企業の章」の付属文書に注目しています。日本政府は、付属文書一覧表上の権利を行使していないからです。他の国との比較で初めてわかるのですが、他の契約国は、付属文書に自国の重要な産業を全て留保しています。アメリカは、ファニーメイ・フレディマックという金融危機の時に問題となった会社を留保していますし、ブルネイは、石油関連の国有企業を留保しています。マレーシアやベトナムなどの新興国も同様です。
 ところが、日本とシンガポールだけは留保がないのです。シンガポールの重要企業はソブリン・ウエルス・ファンド(政府が出資する投資ファンド)なので、適用排除です。シンガポールは留保がなくてもかまわないのです。つまり事実上日本だけが全く留保をしていない。ゆうちょ銀行やかんぽ生命は、政府が80%の株式を持っていますから、重要な国有企業なのですが、それも留保していないのです。
 政府系金融機関は独立行政法人ですが、民営化され、グローバル金融資本の傘下に落ちるとか、経営権を握られるという話です。ゆうちょ銀行も、国有企業や政府系団体や商工団体もそうなるでしょう。
編:日本だけが唯一無防備ということですね。
和田:政府調達もそうですが、アメリカ通商代表部のHPを見て比較しないとわかりません。「民間資金導入」の真の意味は、国有企業をバーゲンセールで売ってしまうことです。中身を隠していますが、凄まじい内容になっています。
 公共工事の入札も大きく変わります。公共工事にベクテルのような巨大ゼネコン企業が参入します。そうなれば、入札も英語化され、地方の土建屋は対抗できないでしょう。

内国民待遇・最恵国待遇

編:内国民待遇・最恵国待遇について
和田:A国と結んだ自由化協定は、B国にも自動的に適用されるのが「最恵国待遇」です。幕末から明治にかけて強要された不平等条約の復活です。
 外国企業を国内企業と同等に扱うというのが内国民待遇です。日本のメガバンクや金融機関にどのような優遇措置があるのかは、わかりません。漠然とした言い方になってしまいますが、具体的な影響を例示するのは難しいです。
編:日本政府は、この点に関して数行しかコメントを書いていません。危機感を持っていないのでしょうか?
和田:危機感は持っているのですが、本当のことは書けないのです。2013年夏に作成された政府報告書を見ると、ちゃんとわかっています。TPPは、金融分野についていえば「日米FTA」ですが、アメリカに対する配慮、または官僚自身の保身で「本当のことは言えない」のが真相でしょう。
 官僚たちは、米国という虎の威を借りて日本を統治していますが、一方米国の要求に対しては面従腹背で、ごまかしながらやってきました。ところが、アジア通貨危機(97年)後に、ノーパンしゃぶしゃぶ事件(※)を暴露・攻撃されて以降、アメリカに刃向かうと自分の地位が飛ばされるという教訓を身につけました。わかっていても、出したらキャリアが飛ぶことになる。その結果が、TPPで、国有企業の付属文書でも何も留保しないということになっています。「売国」もここまで極まったと、私は思います。 TPPの極度の秘密主義やマスコミ報道においてTPPが農業問題、関税問題に矮小化される傾向にあるため、TPPの真の姿が見えにくくなっています。TPPはこれまでの年次改革要望書などの背景にある新自由主義、構造改革の集大成とでも呼ぶべきものです。
 TPPの真の目的は、、国が法律などをとおして国家全体の利益や、国内産業保護のための規制、すなわち「非関税障壁」を外国人投資家のために撤廃することにあります。それは、国民国家の廃止、日本の独自性の廃止まで企図していることを視野に入れることが重要です。

※ノーパンしゃぶしゃぶ事件  東京・新宿の高級ノーパンしゃぶしゃぶ店が、大蔵省接待汚職事件で大蔵官僚(当時)接待の舞台のひとつとなっていたことが報じられた 。この事件がきっかけとなって、大蔵省は財務省と金融庁に解体 。米国留学組の官僚が幅をきかすこととなったと言われる。

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