安倍首相の「同一労働同一賃金」政策

「選挙対策」の打ち上げ花火 選挙後に骨抜きか?

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最低賃金引き上げこそ即効薬 正規職賃金を切り下げて「同一」化?

(編集部・山田)

 安倍首相が、1月の施政方針演説で実現に意欲を示した「同一労働同一賃金」。「仕事の内容や経験、責任、人材活用の仕組みなどの諸要素が同じであれば、同一の待遇が保障される」と説明する。
 しかし、日本の場合、拘束時間だけでなく、経験や責任の度合いという客観的評価が難しい要素が違うとして、正社員とパートの過大な格差が合理化されてきた。いくら「同一労働同一賃金」を掲げても、これら諸要素が異なる場合には賃金格差が解消されないことになり、非正規の貧困解消は、画に描いた餅でしかなくなる。 

 「選挙向けの打ち上げ花火」との指摘は内部からも起こっている。首相の演説は、労働行政を所管する厚生労働省にも事前の相談はなく、厚労省幹部ですら「スローガンを掲げて、やる気を示すだけでは…」と不安を口にする。打ち上げ花火で世論の注意を引き、内実はうやむやのまま次から次へと花火を上げ続けるのは、右翼ポピュリストの常套手段だ。
 労働者に占める非正規雇用の割合は4割を越え、正規職との賃金格差は約2.8倍。労働力の再生産すら不可能となっている。「選挙対策」との批判だけでは不十分だろう。左派リベラルが掲げてきたスローガンが横取りされ、換骨奪胎されて安倍政権の成果とされないよう、左派は実のある政策の中身を提案すべき時だ。
 安倍首相は、2月23日に開いた「一億総活躍国民会議」で、専門家による検討会の立ち上げを指示。労働契約法とパートタイム労働法、労働者派遣法の改正を視野に議論を加速させ、具体案作りが始まっている。今後政府は、5月にまとめる「ニッポン1億総活躍プラン」に法改正を含めた具体策を盛り込み、来年の通常国会へ関連法案を提出するとしている。
 一方、国税庁の調査によると、2014年の正社員の平均年収は478万円に対し、非正規社員は170万円にとどまる。低賃金で雇用が安定せず、昇進・昇給もほとんどない。
 昨夏改正された「パート労働法」は、職務内容や責任の重さに著しい差がないことに加え、転勤や配置転換の有無、異動範囲など、「人材の活用」が同程度である非正規労働者は、正社員と賃金に差をつけない均等待遇を求めている。だが、この人材活用規定がハードルとなり、パート労働者約940万人のうち同一賃金が実現しているとされるのは、わずか約32万人にとどまっている。

東京管理職ユニオン書記長である鈴木剛さんは、次のように批判する。

 非正規労働者の労働条件引き上げは待ったなしだが、首相の言う「同一労働同一賃金」は、何を「同一労働」と言うのか、どこまでを「同一賃金」と見なすのか、全く不明だ。
 審議会での議論を見ると、抜本的改革には踏み込まないとしているので、実現方法も全く見えない。結局、パート労働法を拡大し、「均衡」をめざすとか、労働契約法の「不合理な差別の禁止」を拡大適用する程度に留まる可能性が強い。
 そもそも自公政権は、昨年夏の労働者派遣法の改正で、派遣労働の規制を大幅に緩和。国会論戦で、野党3党は、『均等』待遇に厳しい規制をかけ、同一労働同一賃金の方向を示していた。しかし与党は、『均衡』待遇でも良い、賃金の差があってもいい方向へと修正。待遇改善に必要な措置を法制化する期間も、「1年以内」から「3年以内」へと後退させた。
 非正規を拡大しながら「同一労働同一賃金」を言うこと自体が矛盾であることをまず指摘したいし、正規職の賃金が非正規に近づいて下げられるという危険性すらあることも、忘れてはならない。
 安倍首相の方針は、法案の中身が見えないばかりか、「安倍政権は非正規の味方」というポーズで選挙を闘い、選挙後に経団連の圧力を理由に法案が骨抜きにされる可能性も高いと思っている。

正規職を上回る賃金を保障し実質的「同一賃金」を

 次に「フリーター全般労組」山口素明さんのコメントだ。

 もはや「同一労働同一賃金」で非正規労働者の貧困は解決できない。職務内容の同一を条件にした「均等待遇」では、現実に広く存在する男女の賃金格差は、逆に肯定されることになる。
 政府は、限定正社員制度のようにジョブ型雇用への転換を進めてきた。正規職の仕事の内容を細かく切り分けて、非正規労働者に分散する転換だ。こうして、解雇が容易で取り替え可能な不安定労働者が生み出され続けている。この流れの中にある「同一労働同一賃金」の議論であることを、忘れてはならない。
 現代の労働は何らかの価値を生み出しているとは言い難い。介護や接客など対人サービス労働はもはやハラスメントの受忍でしかない。「労働を通じて生み出した価値の分け前をよこせ」という論理が通用しなくなっていることに注意を向けるべきだ。
 賃金は、労働の価値で量られるべきではなく、生活の必要によって決められるべきだと、我々は考え始めている。したがって転換に向けたスローガンは、労働の質や中身を問わない「同一賃金」である。生活は労働を通じて達成するものではなくなった。社会的保障を通じて獲得されるべきだ。

 非正規労働者の待遇改善なら、最低賃金の引き上げこそ即効性がある。非正規労働者の賃金の多くは最低賃金に張り付いており、これを1500円へと引き上げれば、非正規の生活は相当程度改善される。解雇のリスクが高い非正規雇用者は、同一労働であれば賃金が高くなるのが合理的である」との意見もある。非正規の生涯賃金は、9815万2400円(男)、7692万7800円(女)で、正規職と比べて、55%(男)、58%(女)に留まる。男女の賃金格差も、非正規率の高さと深く関係しており、非正規の賃金を正規職より上げてこそ、実のある「同一労働同一賃金」は保障される。

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