【浦島オバさん太郎の日本すごくない!】
日本人はどうして、昼休みに仕事の話をするのだろう? ご飯を食べている時にどうして、昼からの仕事の心配をするのだろう。心配しても、なにも変わらないはずなんだけど…。日本人ほど仕事が好きな人種はいるんだろうか? 経営者でもないのに、休みの日の事まで心配する社員は日本人くらいじゃないの?
うちの職場では、仕事が終わっても、休憩室でお菓子を食べながら仕事の事を喋るという、異常な行動が日常化している。私は一度も加わったことがないのだが、絶えがたき雰囲気があるにちがいない。
でも、日本人が仕事に命をかけていると感じたことは、今だけではありません。思えば、うら若き乙女だった浦島オバサンがF銀行ロンドン支店にOLとして勤めていた1985年頃のことです。駐在行員の「ミスター横山」という人がいた。30代前半で、「大人しく従順」を絵に描いたように模範的な行員でした。上司が行こうといわなければ、昼食も摂らないような真面目な行員。ある日、ミスター横山は酷い風邪で咳をしながらも作業をつづけていた。周りにいた現地採用のイギリス人社員たちが「具合が悪いなら、帰りなさい」と促しても「No worries(心配ないよ)」と言い続ける。そのうち、皆が怒り出して「うつるから、帰れ!」と言いだした。するとミスター横山は静かに席を立ち、1人会議室に移動して作業を黙々と続けてたのです。
「なんて、奥ゆかしいの!」て思うでしょうが、その反面物凄い事件が。ある朝、仕事を残してしまったミスター横山は、朝6時過ぎに職場に到着。警備員が「来るのが早すぎる。掃除の人たちが7時半までいるので、中には入れません」と言うのに対しミスター横山は、「仕事がある!」と抗い、警備員と激しい言い争いになり、警備員2人掛りでお客様専用の応接コーナーに連行されるほど暴れた。ああ!悲しいかなサラリーマン!
しかし、応接コーナーで大人しく待つようなフリをしていたミスター横山は、警備員が目を離した隙にエレベーターまで猛烈ダッシュ! 見事5階オフィスに到着してしまったというのだ。仕事中毒というのは恐ろしい!
ミスター横山の武勇伝は後々まで語り継がれましたが、その後、F銀行は他の銀行に合併され、浦島オバサンを含む650人以上の現地採用社員はリストラされました。風のうわさでミスター横山は、合併後の東京支店にいるとか、いないとか。
有給とらない不思議
それから、仕事が好き過ぎて、日本人は有給を取らない。私は最近、有給で沖縄旅行をしましたが、うちの会社では誰も旅行のために有給を取らないという不思議。有給は、通院や法事、子どもの学校行事など、楽しくなさそうなことにばかり。イギリスでは、上司が部下に有給を取るよう求めます。部下に有給を取らせない管理職は、マネージメントできない無能な上司と評価されるからです。
しかし日本は逆で、部下が有給を取ると「部下をコントロールできない、バカ上司」とでも評価されると思っているのでしょうか。私の同僚も「取れない雰囲気、あるよね」なんて言いますが、私は全然ないと思う。それは自分で自分に呪いの言葉をかけているだけ。私が「労働者の権利だよ」と言うと、皆困った顔して苦笑い。権利は放棄?ということかな?
そうそう、ミスター横山のその後ですが。私がリストラされ看護大学を卒業して精神科の看護婦になって3年目。友人のクリスが、日本食レストランに行きたいというので、ある金曜日の夜に出かけたら、なんと私たちのテーブルの隣にミスター横山が!! 話によるとミスター横山は、合併後のM銀行東京支店で活躍の後、ロンドン支店に支店長補佐として駐在しているとのこと。
そうか。警備員をぶっちぎり、早朝から仕事に励んだ努力が報われたのか~。彼の40代の髪は真っ白で、クリスは「60才代じゃないのか?」と驚いたほど。それでも、仕事が大事な日本人。やっぱり、すごくないやんか! (ミフィ)