「香害」に立ち向かい、米軍基地に反対する
洗剤や消臭剤に含まれる芳香成分の有害性が注目されている。全く気にならない人から微量でも気絶してしまう人まで、反応がまちまちであるため、「香害」は無視されがちだ。京都市内で飲食店を営みながら京丹後の米軍基地反対運動に関わり続けている中塚智彦さん(43)は、2018年3月に「化学物質過敏症」の診断を受けた。特効薬のないこの病気とどう立ち向かっているのか、お話を聞いた。 (文責:吉田)
中塚‥若い頃スポーツマンで体力には自信があったのですが、去年の3月に原因不明の腸閉塞で入院をしました。実はこのとき、目鼻から吸収した化学物質が脳の中枢神経を攻撃し、脳が胃の動きを止め、内容物を腸に押し出していたのです。化学物質過敏症の診断ができる専門医は東京と大阪に2軒しかなく、わかったのは1年超経ってからでした。専門医からは「今と同じ生活を続けていたら、50歳くらいまでしか生きられませんよ」と言われました。
原因の化学物質とは、洗剤や柔軟剤の中に含まれている芳香成分でした。効果を持続させるため、香料は微小なマイクロカプセルに封入されていますが、このカプセルがイソシアネートという、痛みやアレルギーを引き起こす有毒物質を含んでいるのです。
化学物質の影響は人によって千差万別で、私の場合は、レノアやボールド、トップ、ファブリーズの香りを辛く感じ、とりわけレノアとアリエールの「ジェルボール洗剤」は強烈です。飲食店の調理をしていますが、化学物質の臭いをさせたお客さんが来店するだけで気絶しそうになります。
今一番困っている症状は、記憶機能が低下し物忘れが激しくなったことです。PM2・5用の防毒マスクを装着して仕事をしますが、防ぐことができるのは7割ほどです。香害と呼んでいますが、近頃登場した「無香料」のファブリーズなども私には苦痛です。
低線量被ばくや電磁波公害などと同じで、生活に多大な支障が出ているにもかかわらず、感じない人には、なぜ私が苦しんでいるのか伝わりません。免疫が落ちていたり、疲れている人ほど症状が出やすいのは確かです。そのため、家族や友人関係にも大きな影響が出てしまいました。
特効薬はありません。ゼロにするのは難しいのですが、なるべく化学物質から離れつつ、添加物の少ない食事を通じて、体の底から免疫力を上げていくしか治療方法がありません。
香害洗剤・柔軟剤を 使わないで
そんななか、米軍基地に反対するために月に1、2回京丹後に通い、基地のそばの平和菜園を耕してエゴマなどの有機作物を育てています。ここにはミサイルを補足するための「Xバンドレーダー」があり、ドクターヘリが飛べなくなるほどの強烈な電磁波を発しています。今のところ私には影響はありませんが、電磁波も香害も、反応が現れない人は気付かないうちにより多くの害を受けているはずです。畑を耕し、旬の物をバランスよく食べ、体を立て直していくことと、反基地の運動は私の中で密接に結びついているのです。
──周囲にいる私たちが香害に苦しむ人に対してできることは何ですか?
中塚‥先に挙げた洗剤・柔軟剤を使わないでほしいです。使っている人が目の前にいなくても、バスや地下鉄の座席の繊維の中に化学物質が入り込んで毒素を発し続けます。それに、売れなくなれば大手メーカーも製造をやめるでしょう。香害について詳しく知りたい方は、古庄弘枝さん著『マイクロカプセル香害』(ジャパンマシニスト社、2019年)を参照してください。