私が1971年から住む千葉県は、台風など自然災害が比較的少ない県だと感じてきたが、9月9日に上陸した台風15号、その後の19号、集中豪雨で多数の死傷者が出た。台風による大規模停電は県内で約64万戸、断水は約8万9千戸に上った。県南部だけでなく、政令指定都市の千葉市など都市部でも停電が相次いだ。約2週間かかって解消した停電は、首都圏で約100万世帯、約300万人に及び、通信網がダウンした。
被害が拡大する中、政府は9月11日の内閣改造に傾注し、関係閣僚会議も開かず、官僚任せで被害を拡大させた。安倍晋三首相は10月8日の衆院代表質問で「内閣改造で対応が遅れたとの指摘は当たらない」「初動対応は迅速、適切に行われてきた」と反論した。安倍自公野合政権政治は社会的弱者、少数者に切れ目なく冷酷な政権であることが、また明白になった。
自民党王国=千葉県の不幸 首都圏とは違う差別的な政府対応
県民にとって、タレントである森田健作氏を知事(3期目)に持っているのも不幸だった。県内の自治体の大半が上陸当日までに災害対策本部を設置したのに、県は翌日午前になった。森田知事は丸1日以上公舎に待機し、その間に被害は拡大した。県が初めて自治体に応援職員を派遣し、国に災害救助法の適用を申請したのは12日で、知事が被災地に初めて足を運んだのは14日だった。国への激甚災害指定の要望は9日後の18日。千葉県が備蓄していた発電機の半分が使われずに眠っていた。
『週刊文春』10月3日号によると、知事の休日は年間151日。登庁して職員と話す時間は1日1時間以下が62日。その内訳もほとんど10分~20分。相次ぐ市町村合併で公務員が削減され、専門的な職員も配置されていない。
千葉県は東京に近い京葉、東葛地域を除くと、圧倒的な自民党王国だ。自民を長く支えてきた住民が被害に遭っているのに、安倍官邸は冷酷だった。東京、神奈川なら初期対応が違っていたと思う。
自民党政権は警察力を動員し、三里塚に空港を建設した。「国際空港は成田、羽田は国内空港」という公約は今無視されている。千葉は東京のために犠牲にされてきた歴史がある。
保守王国の千葉県は、一度も革新知事の県政を経験していない。千葉市には公立幼稚園が一つもなかったが、土気町と合併して初めて一つできた。首都圏で生活保障(福祉)が最も遅れている。ゼロ歳保育、学童保育なども最も遅く設置された。
台風被害よそに 組閣に奔走した安倍内閣
停電を英語でブラックアウト(black out)というが、ブラックアウトには灯火管制、瞬間的な記憶喪失、報道管制という意味もある。
記者クラブ(kisya kurabu)メディアは15号台風の最中、安倍政権の延命のための内閣改造を連日大きく報道した。萩生田光一氏の文部科学相、小泉進次郎氏の環境相就任などで大騒ぎし、「停電は1、2日後に復旧する」と楽観的に伝えた。大停電の現地取材も不十分だった。フリーの志葉玲氏らは千葉県南部に入り報道したが、大手メディアの動きは緩慢だった。
「組閣を延期せよ」と主張した報道機関はなかった。テレビ、特にNHKは、新閣僚が内定する度に速報を打った。内閣改造に何の意味もないと分かっているのに、大きく報道した。
組閣のために政府の対応が後手に回ったのは明白なのに、野党からの批判的なコメントをただ伝えるだけで、報道機関としての主張は見られなかった。
福島第一原発への影響を 報道しないメディアの異常
菅義偉官房長官は「上陸前から迅速、適切に対応を行った」「災害の規模、被害状況を総合的に勘案し、最も適切な態勢を敷いている」と繰り返したが、内閣記者会の中にこの不当発言を追及する記者はいない。謝罪・撤回させなければならない事実に反した居直り見解だ。
3億円以上の賄賂を受け取った関電役員の会見でも、大阪の記者クラブはおとなしい。会見の場で社長らを辞任に追い込むべきだった。パソコンに向かっているだけで、人民に代わって不正を質すという迫力は皆無で、社員記者たちは羊のようにおとなしい。記者クラブにはWatch Dog(番犬)はおらず、Lap Dog(愛玩犬)しかいない。
台風19号の東電福島第一原発への影響が全く報道されなかったのも、異常なことだ。かつては、災害の度に、「○○原発は平常通り運転」とか、「異常なし」という短い報道があった。15・19号ではそれもない。「みんなで取材・報道しない」というブラックアウトの談合がクラブの中であったのだろう。3・11以降、再稼働・放射能安全神話を拡散してきた記者クラブメディアの責任は重い。
たんぽぽ舎 大停電で緊急シンポ
原発反対に取り組むたんぽぽ舎は10月17日、大停電問題シンポジウムを開いた。シンポは「台風15号による千葉等大停電問題 東電だらしないぞ」「森田千葉県知事も安倍首相もメディアも責任あり」のスローガンを掲げ、当事者ら8人がレポートした。
千葉市に住むたんぽぽ舎共同代表、柳田真さんは、「真っ暗闇の4日間で、一時都内のホテルで過ごした。冷蔵庫の中のものはすべて捨てることになった。携帯電話の電源がなくなった。東京電力からは謝罪もお見舞いの言葉もない」「送電の鉄塔が一本倒れ、約10万戸が停電した。東電は福島事故で経営が厳しくなって、送電関係の設備投資を抑えた。政府の耐風性の基準が適切だったかなどの見直しが必要だ」と訴えた。
上岡直見さん (環境経済研究所代表)は、「13年の東京五輪招致での、安倍首相らの放射能汚染水アンダーコントロールも同じだが、都市インフラが整っているというのもウソと判明した。米国から戦闘機などを爆買いし、防災対策はいい加減。私たちにとって最善の安全政策は 安倍政権を1日も早く終わらせることだ」と強調した。
参加者から、「福島原発事故以降、東電の社員が2割減らされている。地元のことをよく知る社員もいなくなった」「高圧線の電柱が倒れているのに、どの新聞も載せなかった」などの意見が出た。
災害ではっきりした行政の役割
私は日本国憲法の前文・9条について三つの流れがあると言ってきた。(1)現状の対米追随、米軍再編の中で米国の核の傘で防衛という日米軍事同盟の継続。(2)米軍基地を撤退し、独立国として国軍創立・徴兵制導入=核武装(原発の維持は核武装のため)を目指す。(3)非戦平和の現行憲法の精神をより発展させ、自衛隊をサンダーバード的な地震・災害などから市民を守る組織(水島朝穂・早大教授が1990年代に提言)に再編し、世界の反核・非戦のリーダーになる―の三択だ。(3)の護憲=非武装中立こそ最も現実的な選択だ。
評論家の斎藤美奈子氏は10月16日の東京新聞で「防衛省を防災省に、自衛隊を災害救助中心の隊に再編」「国際貢献も災害支援に特化すれば、これが最大の安全保障になる」と書いている。日本の防災対策費は防衛費の半額になっている。軍事大国化を阻止し、防災システムを確立するためには、安倍政権を1秒でも早く倒さなければならない。