人種差別・民族差別は心を破壊する
精神科医の香山リカさんと、元門真市議の戸田ひさよしさんは、ともにヘイトスピーチに対抗、カウンター行動を行っている。2人がヘイトが蔓延する社会について語る。(編集部)
戸:ヘイト汚染が進む日本社会を精神科医の立場からどうですか。
香:精神科の病気になる人の半分ぐらいは、貧困や差別、労働問題とか、そういう「世の中のせいで病気になっている人」なんです。過労や親の介護での「うつ」とかDVや差別の被害とか。うまく治療できたとしても、世の中が変わらないとまた再発する。
精神医療って、「社会」と直接関わってるんですよ。だから社会に、つまり世の中の方がたに、「この人たちが病気にならないようにしてくれよ」と言わないわけにはいかないんですよ。
世界的に見ると、医者とくに精神科医が政治家になったり世界に対してものを言ったりしている人はけっこういますけど、日本ではすごく少ないです。 特に、人種差別・民族差別は人間の心を破壊する最も大きな問題ですから、診察という中で被害者を診るだけじゃなくて、外に出て差別をやめなさい!と言っていくのは、人としても、精神科医としてのある種の「義務」としても、当然やらなきゃいけないことじゃないかな、と私は思います。
戸:ヘイトにかぶれている人は、人口の割合からすると多いのでしょうか。
香:大学で教えていると、韓国大好きの人もネトウヨ的な人もいますが、ヘイトの人は1~2人という感じで決して多くはない。やる事が派手だから、多く見えますよね。
戸:相模原で障がい者を19人殺した事件とか。
香:そうですね。ああいう事件は「予兆」とも考えられますから、今の時点では「特殊な人」ですが、例外ではすまされないと思います。
アイヌ差別を知り ヘイトとの闘いに
戸:「自己責任論」で人々が分断され、「私は日本人だ」、「日本素晴らしい」とか、他を貶めることに自分の価値を感じるような傾向が強まっているように思うんですが。
香:政治や社会の問題から目をそらすために、素晴らしい日本に生まれた人間だからとか、宗教的ともいえるファンタジーを信じるしか自分を支えられないという、カルト的な感じがします。
戸:「在日特権で税金免除される」とか、すぐにウソとわかるような話を大人が信じ込んでしまう。
香:「在日特権」でインターネットで調べると、山ほどデマが出てくる。「エコーチェンバー現象」という、関心のある情報だけが響いてループしてるんですね。それを信じてしまう数%の人がいると思ってます。
戸:ヘイトに対して真っ向から闘う香山さんですが、きっかけは何ですか?
香:私は北海道出身で、アイヌの人へのヘイトからカウンター主催の行動に行くようになりました。「アイヌはいない」とか、「アイヌは利権集団だ」とか2010年くらいからネットを中心に出てきて、「まちも歩けないんじゃないか」という恐怖をアイヌにもたらした。
私はアイヌの事に関しては無頓着だったし、アイヌに対して新しい形での差別が起こってきていることを全然知らなかった。住んでしまった北海道の人間としてすごく無責任だったと思い、この人達に「私も反対するから心配しないで」って言わないといけないな、と思ったんですね。 (続く)