「この秋から給料が10万円増えるのって、私なのかしら」―6月を迎えると介護職員は浮足立つ。他の業界と同様、ボーナスシーズンを迎えるからだ。ところが、今年は少し様子が違う。10月から開始予定の新しい介護報酬システム「特定処遇改善加算」で、年収が飛躍的に上がる介護職員が誕生しそうなのだ。介護業界で長く務める介護職員を「年収440万円」に引き上げるという触れ込みである。6月なのに、この話題で持ちきりだった。
介護職員の給与は361万円と、全業界産業と比して低い(2018年文科省統計)。この状況は、介護の業務内容が危険で過酷だと思われている上、業務に見合わない待遇だと業界の印象を悪化させている。
こんな状況を改善しようと、介護業界の「処遇改善」が始まった。それは厚生労働省の施策というより、選挙のたびに与野党の思惑によってアドバルーンとして掲げられる、現場にとって半ば空想的な発想だ。介護職員の待遇改善は、国の政策に盛り込みやすいのだろう。正直、自民党など与党でも、旧民主党政権になっても、介護政策に差は少ない。風向きが変わろうとも、介護職員の思いは何も反映されていないのが現状だ。
特定処遇改善可算で待遇改善なるか?
介護職員の待遇改善が定着すると、次に出てきたのが「介護職員の待遇を、サラリーマンの平均年収並みに改善する」という唐突な目標であった。日本人のサラリーマンの平均年収は、400万円台の後半。介護職員の給与が上がるのは歓迎したい。けれど、介護報酬は財務省の強い意向により切り下げられる一方だ。「介護事業所は稼ぐな。介護職員に給与は出せ」という矛盾に、現場は混乱している。
昨年より与党の「アドバルーン」で年収440万円という話が飛び交っている。それを見た介護職員は声を弾ませて、「来年の秋から、お給料が毎月10万円近く上がるんですよね?」と、飛び込んできた。「うん、もちろん!」とにこやかに答えたいが、その期待に応えられる自信がない。
この待遇改善は、どの事業所にも適用されるわけではないのがポイントだ。介護事業所に対し、厳格な要件で支給される介護報酬の加算を決定する形態をとったので、特定処遇改善加算が施行されて初めて支給されるかわかるのだ。支給されない介護事業所の数も相当数見込まれており、不支給と思われる介護事業所の介護職員の中には落胆する職員もいるという。
他方、支給対象の介護職員を予め選ぶ必要もあり、正社員が主たる対象なので非正規雇用の人は選びにくい。介護事業所内、さらには介護業界全体で介護職員の格差と禍根を残しかねない。介護職員の待遇は、小泉構造改革より壊滅的に低下したが、介護職員の不足と劣悪な待遇が明るみに出ると、今度は待遇改善に奔走する。現場は相変わらず怨嗟の表情しかない。その姿はやはり、現場不在の社会保障制度づくりの一端と言える。
7月の参議院選挙を、こうした現状に少しでも異議を唱える機会にしたいものだ。一言言えば、介護報酬の削減を止めて、介護事業所の経営の実態に応える介護報酬を支給してほしい。 (遙矢当 @Hayato_barrier)