学資ローン漬け、ワーキングプアの非常勤職員・講師
安藤 歴
1993年生。大阪大学人間科学研究科博士課程在籍。専攻はフランス政治理論・思想史。負債を背負った学生労働者。
大学における「労働と貧困」の問題は、「ロスジェネ」と呼ばれる40代以下の若い世代に濃く影を落としている。半数近くの大学生が奨学ローンを借りていて、今や学生は職場を担う労働力として労働市場に組み込まれている。大学には多くの非正規教職員がいて、少ない賃金で働き、雇い止めによって職場を去っていく。大学において、貧困や劣化した労働環境はごくありふれたものとなっている。そのような大学での「労働と貧困」の現状を紹介していきたい。
中間所得層世帯の大学生も 貧困と隣り合わせ
東京私大教連が毎年実施している「私立大学新入生の家計負担調査」(2018年度)では、大学生の仕送り額から家賃をのぞいた平均生活費は2万300円であり、1日あたりでは677円だという調査結果が報告されている。現在の大学の学食が250~600円程度であることを考えると、1日3食食べることすら難しい金額である。朝に100円のパンを食べ、昼に学食でランチを400円で食べると、夕食には200円も残らない。その他に教材費、交通費、通信費、趣味などに使うお金はすべて自分で稼がなければならない。
もちろん、この調査結果は東京の4年制私立大学に通う新入生を対象としている点で限定的だが、大学生の金銭状況の一端を如実に表している。生活費を稼がなければならないため、バイトに追われ、過酷な労働環境に不満があっても辞めることができない。授業料を支払うために奨学ローンを借りて、将来にわたる返済義務を負いながら大学に通うことになる。大学生は貧困を背にしながら生活しているのだ。
この背景には、中間所得層の世帯でさえも、子どもを4年制大学に通わせる金銭的余裕を持たない現状がある。同調査結果(2018年度)では、自宅以外から通学する学生の入学年にかかる総費用を296万円と試算している。初年度納付金(入学金および授業料)の比較的低い国公立大学でも、150~250万円程度は必要になるだろう。4年間大学に通うとして、世帯が負担する費用は、自宅以外から通学の場合、国立大学で500万円以上、私立大学で750万円以上である。
両親が共働きで世帯の年収が700万円だとしても、可処分所得の4分の1程度は子どもの学費と生活費に回さなければならない。2人以上の子どもが大学に通うとすれば、負担はさらに増える。低所得の世帯にとっては、そもそも大学進学を選択することが困難である。
所得格差に関係なく高等教育の機会を保障することが急務であるのは、言うまでもない。だが、現在の高等教育をめぐる問題は、中間所得層にまで拡大している。貧困世帯を対象にした対処的な支援が必要であるという話にはとどまらないのだ。
非正規雇用の過酷な労働条件、雇い止め
大学における労働問題も過酷だ。特に深刻なのは「非正規雇用」問題だろう。日本では、2120万人(2018年総務省労働力調査)、労働者のおよそ3人に1人が「非正規雇用」の労働者として働いている。そして、その多くが年収200万円に満たないワーキングプアだ。大学もその前線であり、非常勤職員や非常勤講師が過酷な労働条件で働いている。
国公立大学では、給与が低いうえに、通勤費やその他手当が出ない。さらに、多くの大学は非常勤講師を「業務委託」だとして、労働法で定めるところの「労働者性」を否定し、36協定締結にあたって代表者を選出する過半数代表選挙に参加できないなどの明白な違法状態に置いている。
任期終わりの「雇い止め」も、同じく深刻な問題だ。2008年にリーマンショックを受けて、「派遣切り」や「雇い止め」が社会問題となった。「非正規雇用」という労働形態の不安定な実情が明らかとなり、雇用の安定を目的として労働契約法が改正されることになる。2013年から5年を超えて継続雇用をされる有期雇用の労働者が無期雇用に転換できるという内容だ(労契法18条と19条6)。無期転換をしても賃金などの条件は改善されないものの、任期終了により職を失う不安を軽減することはできる。
しかし、いまだ多くの大学が、5年以上の継続雇用を制限する「5年上限ルール」を契約に入れることで無期転換を妨げている。つまり、非常勤教職員が5年以下での「雇い止め」に同意しなければ、雇用契約を結ぶことができなくなっているのだ。これでは労契法の趣旨に沿わず、労働者の生活は安定しない。大学当局はむしろ積極的に有期雇用労働者の生活を不安定にしている、といっても過言ではないだろう。
当事者である大学生が中心となって労働運動や反貧困の運動を行わなければ、大学での「労働と貧困」の問題は、今後さらに深刻化していくだろう。大学での地道な活動と卒業後も続くようなネットワーク作りが求められている。