【浦島オバさん太郎の日本はすごくない!】大西 ゆみ

Pocket

<第二話 30年前と変わらぬ履歴書>

 友人の犬猫ホテルでの週2回のアルバイトは幸せな時間。しかし、早いところ安定した仕事を見つけなければならない。その頃はまだ、日本の残酷な就職差別の正体を知らない私は余裕でのんきに構えていた。  

正社員の仕事を探そう。そうだ、履歴書が必要なんだったわ。30年ぶりに日本の履歴書を手に取ってみる。何これ? 写真付? 生年月日? 性別? 扶養家族? 趣味? 信じられないけど、「30年前と少しも変わってないじゃないの!」と100円Shopで大声で叫んでしまった。高校1年生の冬休みにワカメ工場のバイトに行くために初めて書いた履歴書とどこも変わっていないんだ!  

驚いた店員が「お客様? あの、なにか?」と近づいてきたので「あの、履歴書てみんなこれと同じですか?」と彼女にすがりつく。 「A4サイズとB5サイズがありますけど、お客様の手にしておられるのは正社員用です」  

サイズの話なんかしちゃいねえんだよ! 「あのー、年齢や性別も書くのですか?何のために? 仕事ができれば良いんじゃないですか? これって差別にならないんでしょうか?」さすがによく教育された店員さんも、私の場違いな質問に露骨に嫌な顔をし始めて、「書くことが決められていますから」とさっさとレジへ戻って行った。  

英国では履歴書なるものはどこにも売っていない。ほとんどの会社が自社のWebページに「アプリケーションフォーム」というものを持っていて、そこに打ち込んでいくシステムだ。字の汚さや読みにくさでの先入観念や差別をなくし、性別、年齢、扶養家族の有無、などは書く場所もない。面接時は名前も伏せてあり、応募者はナンバーをつけられる。もちろん、写真なんか貼りつけない。面接に選ばれるためには「学歴」「経験」「自己アピール」のみ。いかに応募する会社や病院のことを調べて、自分を高く上手くアピールするかで選考に残れるかを競う。  

イギリスは失業率が高い国である。書類選考は当たり前なのでフォーム記入も真剣勝負で技が必要。履歴書に似たものといえばCV(Curriculum vitae)というものがある。自分で履歴を作るもので、日本のように文房具屋で売っておらず、自分でデザインして作るもので、CVを作ってくれるプロもいる。CVだけで仕事を見つけれるのはフリーランスや引き抜きされるような優秀な人材または、小さい会社や個人の雇い入れくらいで、普通の企業に入社する人たちは会社のフォームで応募するのがほとんど。それでも、年齢や性別、扶養家族など書く必要がない。そんなモノが仕事の能力に何の関係があるのか?もちろん、文章を読めば教育レベルが分かり、ネイティブか外国人かすぐにわかるだろう。しかし、先入観と差別を避けるべく必要事項だけで十分!  

それに比べて、なんやねん!この日本の恐竜時代の履歴書は!印鑑まで押させるものもある。それに一番肝心な「志望動機」や「自己アピール」の欄が小さすぎるやろ!通勤時間なんか雇われてないのに書く必要ある? おまけに手書きやて! 私は「正社員用」の履歴書に216円も払い、腕が腱鞘炎になり、日本の元号も理解できないため、書き損じ履歴書に埋もれる日々が待っていたのだ。日本全然すごくない! (続く)

Pocket

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。