国家安全保障官僚による軍拡路線(1)
中国脅威論が喧伝され、市民の不安をあおる形で世論形成がなされる中、南西諸島の防衛を口実とした、宮古島・奄美への自衛隊ミサイル配備が進められている。「戦争に協力しない!させない!練馬アクション」のメンバーとして反基地運動を闘ってきた池田五律さんに、ミサイル配備による軍拡路線の背景を聞いた。2回に分けて掲載する。 (編集部)
――ミサイル配備は、南西諸島の防衛が口実ですが、何からの「防衛」ですか? 池田:中国脅威論により、冷戦終焉直後から「テロリスト」による破壊工作や、弾道ミサイル攻撃などの「脅威」が喧伝され続けました。これらは朝鮮民主主義人民共和国を前面に立てつつ、中国をも想定しています。
中国脅威論の高まりは、1996年の台湾海峡危機が契機です。独立志向を鮮明にした李登輝に、中国は台湾周辺の大規模演習で圧力をかけました。米国は艦隊を台湾海峡に送り、中国をけん制。日米共同で対処すべき事態とされ、97年の日米防衛協力のための指針改訂(97ガイドライン)にも反映されました。
97ガイドラインに基づきPAC3の配備が閣議決定(04年)され、入間に配備(07年)されました。導入最大の契機は、1998年の朝鮮民主主義人民共和国によるテポドン発射実験でした。
南西諸島軍拡も、97ガイドラインに沿っています。2010年代、オバマ政権のリバランス政策、西太平洋重視と、野田政権下の「尖閣」国有化に至った日中の領土問題の過熱化を背景に本格化しました。まず、10年の防衛大綱(10防衛大綱)で、自衛隊の存在による「抑止」から、自衛隊を動かすことによる「抑止」への転換、「動的防衛力」という概念が打ち出されました。さらに13年、安倍政権は、「統合防衛力」の向上を中心とした防衛大綱を決定し、「動的防衛力」を強化します。
――ミサイル配備と米軍の世界戦略の関連は? 池田:米軍には、中国に在日米軍基地などが攻撃されるシナリオがあります。沖縄も含む在日米軍は、弾道ミサイル攻撃などによる第一撃で機能不全になることが想定され、後方からの遠距離展開を不可欠としています。自衛隊幹部は対中最前線を担うため、オスプレイ購入、「自衛隊版海兵隊」水陸機動団の編成などの部隊再編を行いました。最大のものは、陸上自衛隊を一元的に動かせる総隊制への移行です。これらは、97ガイドライン、13防衛大綱に基づいています。
加えて、トランプ政権は「戦略競争」の相手として中国をあげ、競争の舞台を「インド太平洋地域」に拡大しています。陸海空海兵の諸部隊を統合した戦闘を可能にするため、宇宙・サイバー空間・電磁波の領域で中国の優位に立とうと、貿易戦争を仕掛け、宇宙軍を創設したのです。米国の世界戦略に対応して連携を強化した15年版のガイドラインが定められ、それに沿い自衛隊の防衛大綱が18年末に閣議決定されました(18防衛大綱)。南西諸島軍拡については、陸自総隊司令部創設に続き陸海空自衛隊の統合司令部を設置し、南西諸島版常設化の動きがあります。
長距離巡航ミサイルの導入や高速滑空弾の開発は、南西諸島に配備することが念頭に置かれています。空母保有やF35Bの導入は、南西諸島で航空優勢を確保し続けるには、陸上の航空基地に戻れないことが理由とされています。自衛隊は「専守防衛」の域を超えています。
自衛隊のグローバル展開
――奄美への自衛隊配備を中国は「日本が侵略戦争に備えている」と報じました。中国の反応をどう見ますか? 池田:最大の「抑止力」は、先制攻撃が可能な敵地攻撃力です。防衛省によれば、先制攻撃は米軍の役割ですが、自衛隊の長距離巡航ミサイルの射程は中国本土にも及びます。射程外からの攻撃のためにと配備を進めていますが、実質的には敵地攻撃力の保有を目指すものです。ミサイル防衛も、敵地攻撃で破壊できなかった弾道ミサイルに備えるという理由で強化されそうです。
自衛隊の役割は、「インド太平洋地域」に拡大し、西太平洋や「南シナ海」での警戒監視だけでなく、インド洋にも進出します。同じ地域に再進出してきたイギリスとも一体となり、中国の「一帯一路」政策に対抗する対中包囲網を形成することになります。
また、東アフリカ、イラン、中東に向けた自衛隊外征軍化の動きもあります。自衛隊はジプチ共和国に恒久的基地を置き、400名を駐留させています。さらに、米軍が主力のシナイ半島多国籍軍にも自衛隊隊員を送り込もうとしています。もはや中国脅威論は隠れ蓑と言えます。
自衛隊のグローバル展開のもとでは南西諸島は要石で、安定的に確保したいはずです。気がかりなのは18防衛大綱に盛り込まれた「ハイブリッド戦」です。ロシアによるウクライナ不安定化作戦から生まれた概念で、民兵の組織化や住民投票などの非軍事的手段と、特殊部隊による軍事的手段を混交させた戦争を意味します。自衛隊が反基地運動や県民投票による米軍基地建設反対の意思表示を「ハイブリッド戦」と捉え、協力者の組織化や監視強化などを駆使する可能性もあります。 (次号につづく)