森友問題忖度報道
2017年2月8日、大阪府豊中市の木村真市議が国有地売却額の非開示を不当とし国を提訴、記者会見を行った。当初からNHK大阪報道部の記者として森友問題を追い、スクープを連発した相澤冬樹さんだったが、番組の改変、放送への圧力を目の当たりにし、2018年、記者から考査部への移動を命じられ8月にNHKを退職。相澤さんに忖度が起こる仕組みについて聞いた。 (聞き手:谷町邦子)
忖度から直接的な圧力へ
――忖度や圧力を感じたのはいつ頃からですか。
2月8日の木村真市議の記者会見を原稿にしましたが、原稿を書き換えられ、大阪のみでの放送となりました。現場デスクの判断だったので、正に忖度です。特に、安倍昭恵首相夫人が出てくることへの逃げた対応です。でも、それはNHKに限らずどこの組織にもありますし、見聞きしたことがないほど酷いことだとは思いませんでした。
その後も、近畿財務局が森友学園に土地購入で支払える上限額を確認していたというスクープを、東京の報道局長内での判断で2カ月ほど放送できなかったうえ、7月26日の「ニュース7」で放送した3時間後、東京の報道局長から大阪の報道部長に怒りの電話がかかってきました。大阪の報道部長は「あなたの将来はないと思え」と告げられたそうです。これほど露骨な圧力は見たことがなく、驚きました。
怒っている理由は言わないのですが、出したこと自体がけしからんと怒っている。内容が間違えているから怒るのならともかく、財務省もその後放送の内容は事実と認めています。誤報でもない特ダネに怒るのは、都合が悪い情報だからでしょう。
誰にとって都合が悪いか。政権であり官邸、そして財務省です。彼らにとって都合が悪いということを、なぜ報道局長が気にするのか。しかも、ニュースを見て激怒したのなら、直後に電話するはずです。ニュースを見た誰かから、何か言われて電話をかけたのたのだろうと、3時間の時間差から想像できます。
――取材先である検察や警察と接点を持ち続けるために忖度することはありますか。
取材対象、たとえば捜査機関である警察や検察に対する、忖度、というか遠慮はあります。僕もゼロではないし、すべてのマスコミにあります。大事な取材先に遠慮を感じつつ、批判すべきは批判できるか。報道機関や記者として問われるところです。警察や検察は典型例で、すべての取材先に言えることです。
なぜ起こった NHKから政権への忖度
――NHKが公共放送であるゆえの忖度はありますか。
新聞や民放のテレビ番組は民間企業がスポンサーなので、それらの企業に忖度せざるを得ません。しかし、NHKは、受信料を払ってくれている視聴者こそがスポンサーなので、視聴者が納得する番組を作ればいいのです。NHKこそ、忖度のない真っ当な報道ができるはずです。
しかし、政権への忖度はあります。権力批判をしようとする時、政権に対する配慮で、彼らに都合の悪いものを出さない力学が働く。それは報道機関としてあってはならないことです。
忖度が生じる理由のひとつに、放送法があります。NHKの予算は国会承認が必要、経営委員会の人事は衆参両院の合意のもとで内閣総理大臣が任命する、と定められています。人事を握られたら、組織は弱い。経営委員会の人事を内閣総理大臣が決めるのは、見直すべきだと思います。
ただし、公益性のあるNHKは政治とある程度は折り合う必要があり、報道局長や理事が政権と良好な関係を築こうとするのは、やむをえないところもあります。たとえば長く政治部に所属する記者の場合、官邸の政権を担当する人たちとの間に、取材者と取材先という人間関係が生まれます。その記者が報道局長など責任ある立場に就いても、官邸からすると「NHKで偉くなったけどアイツは昔、オレを取材してた記者」という感覚を持ち続けていて、上下関係が生じる場合があります。現在はそのような傾向が強くなりすぎていて、NHKの報道は安倍官邸に支配されている、とも言える状況なのです。
また、もともと、官邸が民放を含めた報道機関の幹部を通して、報道方針全体に圧力をかけることはありました。安倍政権は長期政権なので、その傾向が強まっています。
敏腕記者から見た市民・社会運動
――木村真市議は市民運動にも関わっていますが、相澤さんが市民運動・社会運動に期待することはありますか。
期待すると言うよりも、重要な役割を担っていると思っています。木村真さんをはじめ地域に根ざした運動をしている人たちを何人か知っていますが、強い熱意と信念を感じます。大阪府に対して訴訟を起こし不法行為を認めさせた「ピースおおさかの危機を考える連絡会」、国外退去を命じられていた、不法滞在のペルー人夫婦の、日本生まれ・日本育ちの子どもたちを支援している人たちなどに対してすごいなぁ、と思っています。主義主張よりも、関わる人の人柄や粘り強さにひかれます。