【座談会】企業倫理の劣化を進めた株主のための短期利益優先主義 松久寛さん(縮小研)/Aさん(化学メーカー元技術役員)/Bさん(製造メーカー元技術者)

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 「カリスマ経営者」と賞賛されたカルロス・ゴーン元CEOの逮捕は、企業幹部のたかり体質を暴露した。解雇・賃下げ・労働強化を核とするコストカットを命じながら、社員の努力と犠牲で稼ぎ出した利益を私物化し、いまだに開き直っている。コンプライアンス(法令遵守)など、「どこ吹く風」だ。
 「技術立国」を誇った日本の製造メーカーにおいて、品質不正・検査データのごまかしなどが後を絶たない。こうした不正の原因は、どこにあるのか? 「縮小社会研究会」代表理事・松久寛氏の呼びかけで、製造メーカーで長年働いてきた技術者の方々に集まっていただき、座談会を行った。品質不正は1970年代から始まっており、経済の金融化によって強化・定着。上意下達の官僚化が同時に進み、不正が利益構造に組み込まれるようになったという。製造現場から見た対策についても話し合っていただいた。「資本主義で不正は不可避」としたうえで、分散型ネットワーク社会をめざすべきとの結論に至った。(文責・編集部)

1970年代に始まっていた不正

松久:神戸製鋼の不正発覚後に同社元役員に話を聞いたのですが、「溶鉱炉から出た鉄塊を圧延して鉄板にする際、端の方は、規定どおりの厚さにはならない。規格外品だが、取引先によっては、支障がない範囲であれば、値引きをして納品していた」という話でした。
 以前からそうした取引はあったのですが、いつからか「規格外品」を告げずに納品するようになってしまったことで、今回の不正に発展した、と捉えているそうです。
A:そうした規格外品は、「オフスペック」・「特採」と呼ばれ、逆に営業の「隠し球」として使われていました。大幅値引きによって新規参入していたケースもあります。正式契約の後に、規格を決めて納品します。
B:私が勤めていた会社は、建築用部材で2回の不祥事を起こした企業です。企業倫理の劣化は、徐々に進行し、ある時点で限界を超えた、という印象をもっています。
 贈収賄でも、最初は、昼食程度だったものが、夜の会食になり、酒が入り…進行して、ある時点で一線を越えてしまうのと同じです。
A:当初は、取引先と「規格外」の了解のうえでやられていたことが、ある時点でそうした営業が企業の収益構造に組み込まれたという背景があります。経営幹部が「売上高」と「利益」にこだわるようになったことが、引き金です。経営者が株主利益を重視し、四半期ごとの利益拡大を最大の使命とし始めたために、不正が構造化されたのです。
B:小泉政権時代に、竹中平蔵氏が蔵相として、米国の会計制度を導入し、資産も時価会計となって企業資産が突如跳ね上がり、ROE(Return On Equity=自己資本利益率)が企業評価の指標となり、M&A(企業買収)もやりやすくなるように規制緩和しました。

効率優先の人事評価 技術者の質の低下招いた

A:人事評価制度の変更も、大きな影響を与えました。従来は、上司が部下の特性や将来性も含めて評価をしていたわけです。ところが、新人事制度では、半期ごとに数値目標の何%を達成したか?で評価され、ボーナスに影響を与えるようになりました。すると社員は、マイナスになるミスを隠すようになります。規格外品は5%程度は必ず出るのですが、「規格外」として処理していた製品を、いつの間にか「規格品」として販売するようになったのです。
 企業倫理崩壊の根本には、利益至上主義の蔓延と人事評価の変更が影響していると思います。
松久:日本全体として技術者の質が低下したことも要因です。企業は理系学生を採用・選抜して技術者を育成するのですが、子どもの数が戦後のベビーブーム時より半減し、工学部の人気も低下しています。一方、人口が日本の10倍ある中国では、国内で優秀な若い技術者が生み出され、海外で知識と経験を蓄積した技術者が帰国して、新たなイノベーションを巻き起こしています。米国は、世界中から技術者を集め、技術開発を維持・推進しています。こうした諸国と比べて、日本はどうでしょうか? 工学系人気は影を潜め、技術者を生み出す環境が変わってしまいました。

中小企業の技術力低下も要因

B:下請け企業の技術力劣化も大きな要因です。社会に出た全共闘世代の多くは、反体制的意識も手伝って中小企業にも就職し、技術力向上に貢献しました。そうした世代が現場を去り、技術を受け継ぐ若者も減少傾向です。下請け企業の技術力劣化は、部品の品質を下げます。自動車などは、数万点の部品から成り立っており、部品の品質劣化は、大量のリコールを生み出す原因となっています。
 欧米では最近、「イノベーションは、中小から生まれる」ことに気付き、中小企業の技術力向上を目的とするファンドを設立しました。小集団から生み出された新たな技術の例は、いくらでもあります。EUの格言は、普遍的な真理です。

企業の官僚化と経営幹部の変質

A:技術者の減少と同時に進んだのが、企業の官僚化です。技術畑出身の幹部が減少し、営業や経理畑出身者が経営の中枢を占めるようになっています。こうした体質変化は官僚化を生み出し、品質を犠牲にした利益優先主義が優勢を占め、企業倫理の劣化が進んだのでしょう。
 役員が株主利益を優先するようになったことも、拍車をかけています。「株価・株主のため」という大義名分は、短期的利益を優先させて、企業に長期的視点を失わせることにつながりました。
松久:1973年オイルショック後、日本は、拝金主義がはびこり、90年代にバブル崩壊を迎えます。しかし、今でもマネーゲームによって稼ぐ企業がもてはやされています。
 資本主義は、外部である植民地(あるいは発展途上国)から資源と労働力を収奪していましたが、安易に収奪できる外部が少なくなり、貧富の差の拡大にみられるように内部からの収奪も増えてきました。
 さらに、化石燃料のような資源の枯渇と高騰、環境の限界から、現在の大量生産文明は終焉を迎えようとしています。
A:資本主義は利益至上主義であるがゆえに、品質不正は不可避です。企業側も、チェック機能を組織に組み込んできましたが、内部による監査・チェックは、所詮限界があります。外部の目を入れ、内部告発者を守り抜くことは重要ですが、総評解体によって労働組合が変質し、内部告発者が守られなくなっています。

「命・物・地位」よりも豊かな人間関係を

A:分散型・ネットワーク社会を構想すべきでしょう。東海、東南海、南海地震が連動して起きる「三連動地震」が発生すれば、1000万人以上の避難者が出ると予想されていますが、日本の主要部分が被災地になり、どこからも誰も助けに来てくれません。自力で身を守り、復興しなければならないのです。
松久:現在のような集権型社会=象徴的には東京一極集中は、巨大災害に対し非常に脆弱です。それぞれの地域が、食料・エネルギーなど基本的物資を賄えるような、分権的自立社会に移行することは、緊急を要する災害対策としても正しい方向性ではないでしょうか?
 「金・物・地位」ではなく、「多様な知人・友人、助け合う近隣社会」こそ自分を守り、豊かな人生を送る基本的要素です。
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