1月6日、米国中間選挙が行われ、若者や女性、少数者など社会運動が高揚するなか、その結果が注目を集めた。中間選挙は低投票率が続き、前回投票率は34・6%だった。しかし、今回は投票者数が選挙の勝敗を制すると言われ、CBSニュースによると、有権者の49%、1億1千300万人が票を投じたという。本紙で何度か米国報告を書いて頂いてきた米国在住の植田恵子さんに報告をお願いした。(編集部)
トランプ政権への危機感が投票へ
投票権はないが、選挙の動向に注目していた私は、中間選挙投票日の11月6日に近所の投票所で無党派の「投票プロテクター」というボランティアをした。投票が法律に従って公平に行われるよう、不正や脅し、嫌がらせが起こっていないかを監視し、有権者の質問に答え、手助けをするのが仕事だ。
投票所の前には、6時半の開場を待つ人々が列をなした。7時以降になると、80~90分待ちを余儀なくされた。蛇の列にしびれを切らし列を離れようとする人には「暫定投票もありますよ」と呼びかけ、棄権を防ぐ。投票者の質問の多くはIDが要るかどうかというもので、「名前と住所だけで、投票できますよ」と答えると、安心したように列に加わっていった。2016年の「指定された写真付きのIDがなければ投票できない」というID法は結果的に最高裁によって無効判決が出たのだが、このやりとりから、有権者を脅かし、投票所から足を遠のかせるのに十分効果があったことが見て取れた。
投票を終えた人たちに声をかけ、出口調査(党派候補者に関する質問はない)をお願いするのだが、人種の多様性と年齢層の幅の広さに驚かされた。トランプ政権の政策やゆがんだ議会の在り方が人々の日常生活を直撃し、心を蝕ばみ、立ち上がらずにはいられないほどの危機感を抱かせている様子がうかがえた。
性犯罪者が最高裁判事に女性反対票が増加
9月のカバナ氏の公聴会で、クリスティン・フォード氏の証言を、人々は食い入るように見つめ聞き入っていた。しかし、証拠なしとしてカバナ氏は最高裁判事として承認された。DV、セクハラ、性犯罪、何らかの形で犠牲になった女性がどれほどいることか。封印したい忌まわしい記憶をあえて呼び起こし、証言台に立ったフォード氏に、私自身も含め自らの姿を彼女に重ねた女性は多かった。
そして、白人男社会の威圧的な態度は目に余るものがあった。保守派のカバナ氏が判事になると、人工中絶が違法になる可能性がでてくる。それを危惧する女性たちが立ち上がり、女性票を大きく押し上げる力になったと思われる。
また、女性蔑視発言の続くトランプ政権に政治を任してはおけない。ならば自分が政治にかかわっていこうと、立候補した女性も多かった。277人の女性候補が議会(197民主党59共和党)・州知事に立候補し、およそ123人の女性議員が誕生した。
差別的移民政策への抗議「全ての人々に公的保険」の願い
現在、アメリカの人口の15%強が移民である。つまり、家族や知り合いの誰かは移民だ。現在南米からやって来る人々は、難民として亡命者の保護施設にやって来るケースが多い。そんな難民申請をしている人々の子どもを親から引き離すトランプ政権の政策は、非人道的なやり方として非難された。
不法移民の親を持つ子どもたちも、永住権を得られず、学校には行けても大学進学の奨学金などは得られないし、職に就くのも難しい。トランプ政権の方針が変わるたび、いつメキシコに追放されるのか、親は大丈夫か、仕事を辞めなければいけないのか、移民関税執行局が来たらどうしようと怯える生活をしている。
しかし永住権を持っていれば安泰かと思いきや、最近はトランプ政権の移民政策強化で、永住権を持っていても、軽犯罪でも、国外退去を命じられるようになった。これではデモにも行けない。イラン人の同僚は、親を呼び寄せようとしていたさなかにイランが入国禁止国の一つになり、目の前が真っ暗になったという。移民であることを常に意識させられ、疎外感を感じることは確かに多くなった。
アメリカにはメディケイドという障害者や低所得者のための公的健康保険がある。メディケイド拡大プランといって、メディケイドを受けるほど収入は低くないが、オバマケア保険を買うほどの余裕はない、狭間に落ちた人を救おうとするプランだ。
今回の州選挙では、共和党主導の赤い州でも州法改定議題の一つにメディケイド拡大プランの導入があげられ、州民の支持を得て、48州で導入となった。わずかずつではあるが、保険は個人の特権ではなく国民の権利だ、という考え方が浸透しつつあるように見える。
現在、ノースカロライナの州公務員で扶養家族保険に加入している人は15%に過ぎない。働けど働けど、否働けば働くほど収入は保険に取られる。こんな保険制度で健康的な生活が成り立つはずがない。
ノースカロライナ学生たちが投票所を大学に戻す
州上院下院とも民主党は与党になれなかったが、大きな進歩があった。議会が法案を可決した場合、知事は拒否権を発動できるのだが、議会は与党が60%を占めた場合に知事の拒否権を無効にすることができる。これからは、ごり押しされてきた共和党の法案がやすやすとは通らなくなる。選挙の 州立大学では、2012年を最後に学生センターに置かれていた投票所が3マイル(4・8キロメートル)離れた、バスも行かない地に移されていた。が、投票所をキャンパスに戻し、公平な選挙の施行を目指そうとする学生、教師、スタッフによって無党派活動グループが結成され、その努力もあって、6年ぶりに投票所が大学に戻に戻された
共和党の極右化富裕層の優遇
今後の動向はどうか。さらに二極化が進み、議会は捻れが続くと予想する報道が多い。「捻れ」の原因の多くは共和党だ。
ここ40年の共和・民主党の政治理念を議会の議案投票で見てみると、民主党の政治的動向がほぼ首尾一貫しているのに比べ、共和党は年を追うごとに極右化している。議事妨害を行い、民主党によって指名された判事を拒否し、共和党の要求を通すためには、民主党の提案を人質に取り、我を通すことも稀ではない。今もトランプを存分に利用して、モラルも常識も法律も無視して、富裕層への減税、規制外し、公共政策への資金削減、オバマケア廃案を果たそうとしている。
今回は下院を民主党が占めたが、対話や交渉の余地のない今の議会で光が見えるとは思えない。党派は何であれ、民主主義の理念に反する姿勢が改まらない限り、国民のための政治は望めない。そんな報道をメディアはもっともっと国民に伝えてほしい。