ギリシャで「反緊縮」を掲げた急進左派連合シリザ党が、2015年1月の総選挙で第1党に躍進し、ツィプラス党首が首相に就任した。これに続き、スペインでは、左派政党=ポデモスも「反緊縮」を掲げ、結党2年目にして2016年の総選挙で71議席を獲得、第3党となった。
その後もイギリス労働党党首選で、「人民のための積極財政」を訴えたジェレミー・コービン氏が圧勝。2017年の総選挙では、保守党圧勝予想を覆し、労働党が大躍進。若者から圧倒的支持を受けている。
米国でも、大統領選で民主党・バーニー・サンダース候補が、「5年間で1兆ドルの公共投資」という公約を掲げて、今も若者から強い支持を得ていることは、周知の事実だ。
欧米では、新自由主義グローバリズムによる貧困に喘ぐ民衆にとって、移民排斥を訴える極右勢力とともに、左派がもう一つの選択肢を提供して、大きな支持を集めている。
こうしたなか日本は、極右=安倍首相が長期政権を維持し、「モリカケ」スキャンダルにもかかわらず、4割の内閣支持率を維持している。これは、安倍政治が積極的に支持されているからではなく、対抗勢力が未成熟ゆえである。左派政治は、せいぜい野党連合にとどまり、政権を揺さぶるような大衆運動が生まれていない。
こうした現状認識から、第4回の論説委員会は、欧米左派の実践に学びながら、アベノミクスに対抗する左派の経済政策について議論した。
アベノミクスは「積極財政政策」ではない
論説委員会では、まず欧米左派の経済政策を概観した。政策の柱は、(1)雇用保障システム、(2)大規模グリーン投資、(3)反貧困基金、(4)ベーシックインカム、公共サービスの充実などで、「雇用と生活のために積極的に財政出動する」というものだ。経済成長のための投資が必要で、公共銀行の通貨発行益は、このために使われるべきだとしている。
またインフレは、有産階級に不利なために忌避されている、とも主張している。
アベノミクスは、(1)量的金融緩和、(2)財政出動、(3)成長戦略、を掲げて、一見すると積極財政を採っているかに見える。しかし安倍政権は、一方で財政均衡公約(2010年度=32兆円の財政赤字を2015年度に半減し、2020年に均衡を達成する)も掲げており、実際の財政出動を見ると、選挙前には税金をばらまくが、選挙が終われば緊縮財政に戻っている。さらに、社会保障費や医療費を削減対象にしているため、雇用不安定化とともに生活が悪化している。
民衆生活向上の核心は雇用なので、雇用確保と賃金上昇は重要であるが、医療・教育の民営化によって、賃金が資本に移転することにも注意を払わねばならないだろう。教育・医療の民営化に反対することは、左派の重要施策だ。
「異次元金融緩和」を看板とするアベノミクスへの嫌悪からか、左派活動家は「積極財政政策」に対し消極的だ。また、「大きな政府」に対するアレルギーもある。しかし、深刻化する貧困の蔓延への解決策を提示できない左派の存在意義などどこにあるのだろうか?
左派は貧困の解決策を掲げよ
「リストラも就職難もない社会」こそ、左派が今掲げるスローガンだ。医療・福祉・教育・子育て支援による景気拡大策で、経済成長を掲げることを、松尾匡氏は提言している。
「アベノミクスはそのうち破綻する」と、したり顔で批判しても、床屋談義以上の意味はない。貧困に喘ぐ人々の苦悩を汲み取り、ともに解決策を模索する姿勢こそ、左派には求められている。