安倍自民党に勝てる経済政策は何か?―その要は、「しっかりした景気高揚策だ」と語る松尾匡さん。左翼の復権をめざす松尾さんらが提示する「レフト3.0」を一言で言えば、「左翼ポピュリズム」だ。80年代の左派=「レフト2.0」は、環境危機への配慮から経済成長路線を批判したが、新自由主義政策によって貧困に陥った労働者の支持を失い、グローバリズムを辛辣に批判する極右に支持が集まった。極右の伸張に対し「反緊縮」を掲げて支持を広げたシリザ(ギリシャ)やポデモス(スペイン)などの欧米左翼の新しい潮流を「レフト3.0」と位置づける。それは、積極的な財政出動による「大きな政府」の復権であり、労働者の階級的視点の復権といえる。雇用の安定と拡大を追求する点では生産力主義の復権でもあり、新自由主義路線に不満をもつ大衆の支持を急速に集めている。
安倍政権は、モリカケ疑惑・公文書偽造等々スキャンダルの続発で窮地に立っているが、対抗勢力不在のために政権に居座り続けている。「レフト3.0」は、アベノミクスに代わる政策になりうるのか?(文責・編集部)
反緊縮政策で支持集める欧州新興左派
欧州や米国でも新自由主義が隆盛し、財政再建が叫ばれ公共政策が削減されました。景気対策で政府支出を増やすとインフレになりやすく、インフレは、資産家にとって資産の目減りとなるため、政府支出を抑えようとします。
サッチャー時代の英国では、景気が後退しても政府支出を削減したので、大量の失業者が生み出されました。資本家にとって都合がいい事態です。失業者が増えれば「君の代わりはいくらでもいる」と、労働者を脅しておとなしくさせることができるからです。
サッチャーやレーガンの時代は、失業者を増やし、労働組合を潰して資本家側からの改革を断行しました。今世紀になっても、新自由主義の隆盛で公共政策が削減され、民営化の名のもと、公共部門が利潤の対象になって、資本家が儲かる仕組みになっています。
ギリシャでは、リーマンショックに加えて新自由主義による緊縮財政政策が押しつけられ、大量の失業者(特に若者)が生み出されました。ヨーロッパ各地でも公共予算が削減されて年金が少なくなり、不満が高まっています。それに対して英国のブレアーやドイツのシュレーダーを典型とする旧来の社会民主主義政党は、財政再建=緊縮財政政策を採り、新自由主義とどうちがうのかとの厳しい批判に晒されました。
結局彼らは、多国籍企業に親和的でマイルドなサッチャーでしかなかったのです。こうした現状に危機感を抱き、巻き返しを図る欧米の新興左派は、緊縮政策に反対することが政策の柱です。ポイントは景気対策ですが、金持ちがより豊かになる好景気なのか?庶民生活に恩恵がある景気対策なのか?という選択肢を提示することが重要です。
新自由主義グローバリズムに対抗新しい潮流「レフト3・0」
新自由主義の犠牲者の支持を奪い合う左右両極
公共予算が削減されるなかで、移民が入ってくると、仕事と福祉の奪い合いになります。特に市場化・自由化が進み、労働規制が緩和され、労組の力が弱まると、奪い合いが顕著になります。これが移民排斥の素地です。旧来の社会民主勢力が「共生しましょう」とリベラルな主張をしても、グローバリズムの共犯者だと思われていますから、逆にキレイゴトに不満が高まり、トランプやルペンなどの極右に支持が集まるのです。
ハンガリーの極右政権は、強権化を進めて、中央銀行をも支配しています。銀行は冷戦後、外資系に乗っ取られたので、高い税金をかけ、金融緩和マネーを使ってインフラ投資を行い、失業者を吸収して庶民の人気を得ています。銀行業界をスケープゴートにしたポピュリズム政治です。
トランプ米大統領も、自由貿易批判を展開し、支持を集めています。仏・国民戦線のルペン党首は、旧来のグローバル新自由主義とは一線を画し、引き上げた関税を原資にして貧困な国民に給付金をばら撒くと公約し、ユーロを脱退して政府予算を拡大し、グローバル巨大企業に負担を求めて福祉を守る、とも言っています。つまり、緊縮財政反対の姿勢を打ち出して支持を集めているのです。
他方で左派側でも、コービン英労働党首、サンダース上院議員、仏・メランション左翼側大統領候補は、緊縮反対を掲げて支持を伸ばしています。大企業や富裕層への負担や緩和マネーで財政出動して福祉を充実し、最低賃金を引き上げ、金融や労働市場への規制を強めることも主張して、新自由主義への反対を明確に示しています。中道左派やリベラルへに愛想をつかした大衆から支持されています。
安倍政権に対抗しようとしている我々は、どのような政策を掲げ運動すべきか? 真剣に考える時期です。