6月29日、反対世論を無視して与党が「高度プロフェッショナル制度=残業代ゼロ法案」を強行可決した。前日の野党の島村大参院厚労委員長解任決議案も審議すらしなかった。7月10日には早くも残業規制緩和の議論が始まった。
関西で法案に反対し続けた、「サポートユニオンwithYOU」(以下サポートユニオン)島野さんに、与党の姿勢や止め方について話を聞いた。(編集部・園)
―「高プロ」が適用されると職場はどうなりますか?
島野:「高プロ」は、(1)1カ月に4日程度休日を与えれば、24時間働かせ放題、(2)残業代はゼロ、(3)経団連は年収400万円の労働者まで引き下げを考えている、(4)その結果過労死が激増する、というものです。
「サポートユニオン」のスタッフは元教職員が半数で、私も元教員です。教員はすでに「給特法」によって月給の4%しか『残業代』が出ないことが71年から適用され、自己裁量で際限なく働く状態が長年続いています。
「教員は労働者性を奪われている」と組合が大闘争をした時もありましたが、「教員は専門職だから時間に縛られる必要はない」との意見が主流でした。それでも昔は職場で話し合って物事を決めていましたが、今は疑心暗鬼が広がりバラバラにされています。
ですから「高プロ」が適用されれば、全ての職場に長時間労働、うつ、パワハラが激増するのが体験的にわかります。教育現場と同じく、経営者が仕事をどんどん押しつけるでしょう。健康の面倒も見ず、ノルマだけが増え、「君が好きでやってるんだから」が殺し文句になるでしょう。
―「高プロ」に対しどんな反対運動をしましたか?
島野:今年の春闘で反対集会を開き、自民・公明に申し入れしました。ユニオンの事務所がある阪急茨木市駅前で街宣し、最後の方は受け取りも良くなりました。最後は連合・全労連・全労協が合同で東京日比谷で集会を開き、国会へ請願デモしました。
―政府が強行採決できたのはなぜですか?
島野:政府や財界は「高プロの対象者である裁量労働者は、今の組合には組織されていない。だから組合の反対を聞く必要はない」と言っています。つまり、組合は「高プロ」対象の労働者を代表していない、だからいくら反対しても関係ない、と私たちを切り離しているのです。
多くの労働者が不満に思っている
おまけに労政審では、「すでに時間に縛られない働き方が労働者の主流であり、もはや労働力は時間と比例しない」と発言しています。経営者が仕事を押しつけるから残業を強いられているのに、労働者の自己責任にすり替えているのです。
確かにトラックやタクシー運転手など、時間外労働・残業代ゼロが蔓延し、慣らされています。でも、そうした現場は過労死とセットです。だから、労働者もおかしいと思っています。街宣で帰宅時の労働者に「安倍首相らは震災・大雨警報の中で宴会三昧、皆さんはコンビニのイートインで昼食を済ませながら、夜は残業。不公平です」と話すと、やはり反応があります。
「高プロ」は本人の同意が必要労基法適用を要求していく
―どう止めますか?
島野:驚いたのは、7月10日に早くも裁量労働制など適用拡大の議論を始めたことです。政府・財界はやる気満々です。多くの人が問題を知る前に「常識」にしたいのでしょう。教職員現場の実態も、多くの人に知られないまま進んできました。だからこそ諦めずに問題と解決策を伝えることです。
労基法そのものを変えられたのではなく、適用除外を作るのが「高プロ」ですから、まず本人が経営者の言いなりにならずに拒否することが大事です。私たちも「除外せずに労基法を適用せよ」「高プロは同意しなければ適用できない」と訴え続けますし、労働組合に入って団体交渉すれば止められます。そして、労働基準監督署などの行政も、法律の中身、「高プロ」は拒否が可能であること、組合の存在を周知する義務があると訴えます。
安倍政権は憲法、教基法、労基法と、1947年に施行された戦後社会の根幹を全て壊そうとしています。米国言いなり、目先の国際競争に勝つことしか考えず、血も涙もない劣化した経営者が後押ししています。このままでは生活が滅茶苦茶にされます。
「高プロ」廃止と連動して、最低賃金をアップさせることが必要です。大阪の最賃時給909円で1カ月フルに働くと額面月給15万円、暮らせません。しかし時給1500円なら月給25万円になり、生活できます。こうしたわかりやすい主張で、誰もが健康的に暮らせる社会に変えていきましょう。