性と人権の啓発の現場から

商品化された女性の性があふれる現状子どもたちの危うい性意識 NPO法人SEAN 遠矢家永子さん(聞き手:フリーライター 谷町邦子)

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 97年に発足したNPO法人「SEAN(シーン)」。大阪府高槻市で一時保育や高齢者向けのデイハウスに加え、大阪府を拠点にジェンダーや人権などに関する講師や出前授業などを行う。子どもから大人まで、幅広い年代の人々に、授業での啓発を通して接するSEANの副理事長、遠矢家永子さん(以下、遠矢さん)に、子どもを取り巻く性についての情報や性意識、大人が抱える問題について聞いた。

男性向けに商品化された女性の性

 女性の身体や女性性の要素を売り買いする性の商品化。それは、子どもにとって身近なコンビニエンスストアでも起こっている。

 「成人コーナーにある『成人雑誌』は『女性の性の商品化雑誌』で、『男性の性の商品化雑誌』ではありません。男性が喜ぶ物だけを『成人雑誌』として扱い、女性が性的に楽しむものはない」

 男性向けに商品化された女性の性があふれる現状について、遠矢さんは「性的なジャンルがダメなのではなく、なぜいつも買う性と買われる性が分けられているのか」といびつさを指摘する。

 また、子ども向けのエンターテイメントにもバランスの悪さがあると言う。

 「例えば今年、放送15周年の『プリキュアシリーズ』が『男の子だってお姫様になれる!』と性の多様性を表現するセリフなどで称賛されました。しかし女児向けのアニメで、男の子は闘うヒーローものを見ている。性別を越えて楽しめるアニメや漫画の中に多様性を組み込んでいかないと、女の子が性の多様性を学習しても、男の子が暴力的解決方法を称賛する番組を見ていたら、かみ合いません」

 性や暴力の描写がある少女漫画については、「子どもがファンタジーだと分かっているなら、漫画を真に受けて搾取の対象になることはないでしょう。むしろ性的なことをオープンにしていた方が、子どもも何かあった時に相談しやすいと思います」と性の情報から遮断するのではなく、リテラシーを身につける方が大切という考えを示した。

人権・性を語れない大人

 一方、大人向けのワークショップでは、以下のような問題を感じるそうだ。

 「DVやAV出演強要などについて話した時に感じることなのですが、全然驚かない人と、『すごいね、今時の子どもは』と他人事として驚く人が少なくないです。自分の日常と性被害が直結していないんですね」

 人権という概念を理解できていない大人も少なくない。「人権尊重・人権侵害とは何か、明確な答えを持たない大人が多いです。さらに、大人として子どもと性の話を避ける人もいます」。

危うい子どもの意識

 そのような社会で育った子どもたちは、性についてどのように考えるのか。遠矢さんは、「女性の性が商品化されていることを『需要と供給』ととらえ、問題だと思わない」傾向を感じている。女性が男性によって性的に扱われることを「武器だと思う」ととらえる子どもも少なくなく、授業を始めた2002年からその傾向は強くなっているという。

 授業に際してアンケートを始めた2006年には「雑誌や広告に、女性のヌードや水着姿がたくさんのっていることについてどのように思いますか?」という問いに対し、「嫌な気持ちになる」と答えた中学女子は36・8%、中学男子は24・9%だったが、現在では否定的な意見を持つのは5~10%にとどまる。
(注)「人として強くやさしく」―子どもたちを被害者にも加害者にもしないために―2007年3月 SEAN発行 2006年中学4校(大阪府・福井県・兵庫県)・高校1校(大阪府)を対象

 また、授業の中での会話から、性犯罪被害者にも問題があると考える子どもが多いとも感じている。

 「アイドルグループTOKIOの山口メンバーが女子高生にキスを強要した事件については、『部屋に行った子が悪い』と言う子どもがたくさんいました。子どもたちは『ハニートラップ』『枕営業』などの言葉を多く知っています」。

 さらに、性犯罪の被害者になりかねない「生真面目」な労働観も。

 「『仕事イコールお金もらったのだから、ちゃんとやらないといけない』という真面目さが、子どもを追い詰めています。SEANではポルノ出演強要被害の相談も行っていますが、契約書にサインして、たった2万円くらいのお金でも受け取ったら、性被害にあっても性被害だと思わず文句も言えないと思いこんでいる子が多い」。

 現代の子どもの多くは「無茶苦茶マジメ」と遠矢さんは言う。「学校は3分前着席当たり前、授業は静かに聞いて当たり前。教師は従順で言うことを聞く子たちを量産している印象。親もそうでしょうね。だから授業では『あなたの気持ちがザワついて不快になり、嫌だと感じた時は、何かとんでもない侵害が起こっている時かもしれない』と伝えています」。

年齢や関心に合わせた啓発活動

 女性の性の商品化に馴染み、人や自分を追い詰める価値観を持ちがちな子どもたち。SEANでは18歳までの子どもに、年齢に応じた内容と方法で自分も相手も尊重できるよう啓発している。啓発プログラムは幼稚園・保育所の子ども向けから、小学生、中・高・大学生向けまである。

 「幼稚園・保育所から小学校低学年までは、じっとしているのが難しいので、絵人形を使ったパネルシアターや、表情が描かれた感情サイコロなどを使い『面白く楽しく』を意識しています。『うれしい』『嫌だ』などという気持ちを言葉にできるよう訓練し、自分の権利を守れるよう促します」

 思春期以降の子どもには、自分で考え、選択させる機会を設ける。

 「中・高・大学生の授業では、事前にとった性に関する意識調査アンケートをパワーポイントで示しながら考え方の整理をします」。

 正しい知識を教え込むより、自分の権利を奪われている状態に気づき、権利を回復するための選択肢から自分で選べるよう促すという。

 学校からはデートDVについて啓発してほしいとの依頼が多いが、子どもの恋愛への興味や恋愛経験によって関心の差が大きい。

 「どんな子どもでも関心が持てる授業にするため、友だち同士のイジメ、親子間の虐待、先生からのセクハラなど、さまざまな人間関係を対応させる切口にし、落ちこぼしなく今後の人生で学んだことを活かせるようにしています」

 性に関する意識は成長とともに従来の男女観に染まっていくが、授業で改善できる手ごたえも感じている。

 「ある中学校の授業で、そこは小学校2校から上がってくるのですが、うち1校で授業を行っていた場合、その小学校を卒業した女子生徒は女性の性の商品化についての質問で30%くらいが『嫌な気持ちになる』と答え、授業をしていない学校の子どもよりも割合が大きかった。まいた種は確実に育っています」。

問われる大人の責任

 最後に、子どもに接する大人には何ができるか尋ねた。
 「子どもの権利条約(ユニセフ)には、『参加する権利』―自由に意見を表したり、団体を作ったりできること―があり、大人はそれを保障しなければいけません。

 しかし、大人が『こうでしょ』と子どもたちに答えを押しつけることが多いです。何かを決める時には多様な選択肢があって、子どもはその中から自分で選び、選んだ結果が自分に返ってくる。失敗しながら学び、成長していくのです」

 子どもの権利を、大人の押しつけが奪っている現状がある。

 「学びの機会がなかったら、世の中や親を恨むだけとか、自分はダメだという思いに潰されてしまう。選択の結果、起こると想定できることを伝えても、自分で考えさせ、選ぶ時間を持たせるのがいいと思います。子どもがこの先の人生で、選択した結果、生きづらさやしんどさを感じた時、大人はもう一度選び直すというチャンスがあることを伝えられたらいいですね」

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