外国人労働者が抱える問題を積極的に支援している神奈川シティユニオン。立ち上げ当初は「サンド(海辺での砂の土台のように波ですぐに崩れる)労働組合」といわれたが、30年以上にわたって活動し、組合員約700人を抱える歴戦の労働組合だ。当初から活動の中心を担う村山敏さんは学生運動や三里塚闘争を経て現場仕事に入り、通算5000人以上の外国人から労働相談を受けている。村山さん自身当初は外国人労働者の加入は意図しなかった。
「一人でも、誰でも入れる」の謳い文句に、オーバーステイ(不法残留)状態にあった韓国人やフィリピン人や在留資格のあるペルーやブラジルなどの日系人労働者の加入が相次ぎ、2008~9年のリーマンショックでは相談件数が年間500件と激増した。社会の様相も、2016年に外国人労働者の数は100万人を超え、日本は移民社会となっている。これを踏まえ、(1)外国人労働相談の現状、(2)就労世代になった子どもたちの困難と解決策、(3)今後について、を村山さんにインタビューした。(編集部・ラボルテ)
派遣労働者に払わない法廷福利費が企業のもうけに
―神奈川シティユニオンの労働相談・争議について近年の象徴的な事例と背景を教えてください。
労災や解雇を発端として、社会保険の未加入や有給休暇が取れないなど、問題があふれています。
日系労働者は自動車・電気・食品加工業で働いていますが、多くが大手製造業の末端に雇用されています。例えばセブンイレブンの下請け企業や、トヨタやホンダの部品メーカーへの派遣です。
問題の軸には、元請・派遣先企業が下請・派遣元企業にまともな派遣額や請負額が支払われていないことにあります。社会保険は1時間単価で210円、年次有給休暇は50~100円かかってきます。計260円が、事業主の法定福利費負担です。
下請や派遣元企業が労働者1人当たり1時間1500円で契約した場合、時給1000円の雇用で利ざやを得られます。
法定福利費を払わない原因は、元請や派遣先企業が適切な請負・派遣費用を払っていないことにあります。もらえていないから払えない、という構造的な問題です。
―どのようにして追及するのですか?
使用者責任を拡大し、社会保険未加入や年次有給休暇未交付の問題は元請や派遣先企業に問題がある、と追求します。例えば、労働者派遣法で派遣額を開示する責任があります。「この派遣額じゃ派遣元企業は法定福利費を払えない」と派遣先企業を問うのです。
また、元請や派遣先企業のコンプライアンス(法令遵守)を引用することもあります。例えば、イオンは法令遵守の通達を出し、日経新聞にも報道されています。取引先まで範囲が及ぶので、親会社に対しては法令遵守を求めます。加えて、社会保険未加入や有給休暇未交付と同時に、労基署への開示請求で割増賃金が支払われていないことがわかるケースもあります。
労働相談の7割は、他県からきています。取引先や派遣先は東京に集中しています。使用者責任や法令遵守の追及は、遠方でもできます。
労働相談は、年200件以上あるため、団体交渉は基本的に1回に限定。その場で話がまとまらない場合は、即座に争議化し、労働委員会を積極的に活用しています。神奈川県労働委員会での調停の半数~7割は当ユニオンで占めています。
外国人労働者の相談が200件即座に国体交渋し解決していく
―ユニオンに加入した外国人・日系労働者のその後は?
多くは継続した活動が難しいのですが、外国人たちは、日系人社会やフィリピン社会とのつながりをもっています。
元当該の経験が情報発信源となり、新たな相談を呼び込みます。
日系人労働者やニューカマー労働者は、90年代からきています。彼らの子どもたちは、いま20代~30代の就労世代。フィリピンでいえば、90年代は33万人のオーバーステイ、うち10万人以上が日本人配偶者と暮らしています。イランやパキスタン・バングラディシュ人を親にもつ子は、約10万人います。
彼らは、日本人と同等の扱いを期待しています。しかし、日本社会が、日系人やニューカマーに求めているのは、単純労働です。
また、親の所得による問題や、いじめ、不登校などの経験を負っています。
10歳以上で日本に連れて来られた人たちは、言語的にも文化的にも大きな課題を抱えます。差別と格差の問題の両方を抱えているわけです。
その多くが、単純労働者としての受け入れしか用意されておらず、矛盾を感じ、憤りを覚えるわけですね。
日系社会やコミュニティのなかで共有されている労働問題が、当ユニオンの情報に結びつきます。また、解雇や労災被害を受けた人たちの組織化をする意図もあります。
当ユニオンでは、フィリピンシフトをつくって、体制を整えています。中国・韓国・フィリピン・ブラジル・ペルーの在日外国人が在籍しています。件数としても多いのです。フィリピン人からの労働相談にも対応できるよう、裁判所通訳ができるレベルのフィリピン人スタッフを配置しています。
フィリピン人たちは、日系労働者と同じような働き方をしています。私たちは、日系人やフィリピン人労働相談・組合加入の体制を整えています。
自分たちにしかできないこと「外国人相談」をやりたい
―就労世代となった外国ルーツの子どもたち自身を労働運動のオルガナイザーにしたい、ということもあるのでしょうか?
あります。過去にオーバーステイ(不法残留)状態にあるフィリピン人だけの労働組合をつくりました。事務所をもち、大会で方針を決め、10年続きましたが、オーバーステイ状態にある人の減少とともに力を失っていきました。「オーバーステイ労働者だけ」の壁です。不安定さを抱え、持続性に欠けてしまいます。一時的に集会で500人を集めても、財政と場所を確保し続けること、組合費を払い、関わり続けることは、困難でした。幼少期から日本社会で育った第2世代は、日本語の壁が比較的低いので、労働法を学んで使っていくことは可能でしょう。
―今後について
自分の歳からいってあと5~10年しかできない。外国人相談をやりたいって気迫であふれています。日本人の相談に対しては、他のユニオンと差はありません。解決金額ベースでいえば、日本人の労働相談での解決金額と外国人のそれを比較すると90%以上が外国人労働者の労働相談です。外国人の相談では、当ユニオンだからこそできることが多いのです。外国人労働者の人権拡大と自立にエネルギーを割きたい。
もう一つは、シティユニオンの労働相談スタッフの平均年齢が70歳を越えていることから、労働相談体制の次世代を形成していくことに、財政と時間を割きたいと思っています。