山口さんと出会ったのは、いよいよ寒さを増してきた11月上旬。夜回りで訪れた長居公園の陸上競技場で、毛布もかぶらずに眠り込んでいたところでした。月曜日にオシテルヤに来てくださいね、と声をかけて別れました。
週が明けて水曜日、さつまいも倶楽部の野菜販売のためにオシテルヤに来ていたササやんが、「おっちゃん来てたで」と知らせてくれました。「今日は中桐さんおらんからな、また明日おいで」と伝えてくれたとのこと。翌14日(木)、ようやく山口さんと会えました。オシテルヤで話を聞いてから、東住吉区の福祉事務所に相談に行くことにしました。
生活保護を利用してアパートで暮らすことについて相談したのですが、検討した結果、宿泊施設(釜ヶ崎にある三徳寮ケアセンター、ケアセン)に一週間だけ宿泊することになりました。その間にアパートを探し、ケアセンター退所後に入居、同時に生活保護申請をする、という段取りです。
このやり方だと物件探しから入居直後の支援を一貫してオシテルヤで取り組めるので、オシテルヤとの信頼関係づくりに適しているという長所があります。
野宿状態の人がアパートに入居しようと希望する場合、いくつかのハードルがあります。
たとえば、保証人を立てられないことや、身分証明書がないこと、連絡先がないことなどが挙げられます。もちろん、敷金礼金は言うまでもなく、前家賃や手数料などの初期費用を支払うことが困難な場合がほとんどです(生活保護を利用できる場合にはこの点はクリアできます)。
オシテルヤでは、保証会社に緊急連絡先として登録することや、戸籍を本籍地から取り寄せるなどの支援に取り組んでいます。
引っ越しの手伝いとささやかなトラブル
数日後、保証会社の審査も無事に通り、オシテルヤからほど近いアパートに入居できました。布団や炊飯器、電子レンジ、テレビ、食器などは、オシテルヤに届けられている支援物資の中から受け取ってもらいました。みなさまから届けられた物資は、夜回り活動を通じて野宿の労働者に届けたり、こうした形で新生活の支援に活用したりしています。その日から新生活の準備です。まずはガスの開栓、電気水道の利用開始の連絡から始まって、住民票の移動をしたり、年金事務所に連絡をしたりと、書類を作ることが苦手な山口さんの引っ越しに伴う手続きに付き添いました。
数日後、山口さんが「テレビが映らん。壊れてるわ」とこぼしておられます。電源を入れても映らないとのこと。山口さんは「こんど、ジェイなんとかの人がみにきてくれるんやわ」と言います。「あかん、あかん!」ジェイコムの訪問販売員に乗せられて、不要不急のインターネット開設工事を押し売りされている人も多くいます。あわてて部屋に見に行きました。ジェイコムについては、「アパートのビルの共同設備の点検に来ます」というお知らせのチラシが入っていました。「みにきてくれる」というわけではなさそうです。
テレビが映らないわけもわかりました。壁付けのアンテナ端子とチューナーがつながれていません。「電気屋さんにこのチューナーを持って行って、端子とテレビをつなぐケーブルを買ってください」。後日、山口さんから喜びの報告がありました。「よう映るわ~」って。
ユニークで朗らかな山口さんのペースにお付き合いするのも、なかなか楽しいものです。将来的には何らかの福祉的な支援の枠組みを利用してもらうことも考えられますが、ゆるやかなつながりのなかで手伝ったり楽しませてもらったりしながら、のんびり付き合って行けたらいいのかな、と思っています。