1986年の税制改革以来最大規模の税制見直しが行われている。トランプがたくさん吹いたラッパの中で唯一実現しそうなのが、これである。減税法案を直訳すると、「減税と雇用に関する法律」で、安倍の庶民から金持ちへの所得移転税制、労働者を詐取強化する働き方改革と同質のもの、以下『レイバー・ノーツ』(2018年1月9日号)に依拠して紹介する。
減税に浴するのは高額所得層
より困窮する低所得世帯
昨年末、トランプと共和党は税制改革案を議会通過させた。税政策センターによると、2018年度は、所得100万ドル以上の納税者は平均6万9660ドルの減税、所得7万5千ドル以下の納税者は358ドルの減税。しかし、2027年までには減税分の81%が前者の懐に入り、後者の税金が上昇する仕組みになっている。税率を39・6%から37%に下げ、これによって一番得をするのは所得42万6700ドル以上の富裕層だ。
1969年に高額所得者の税金逃れを阻止するために導入された代替ミニマム税(AMT)に対する控除を、大幅拡大。この恩恵に浴するのは、所得20万ドル以上の納税者、上位10%の高額所得層だけであるが、相続税控除額を倍増の1120万ドルにした。
連邦所得税から控除できる州税や地方税の上限を1万ドルとした。この影響を受けるのは税金が高い州に住む比較的裕福な納税者で、一般に民主党支持派である。
企業利益への課税率を35%から21%へ引き下げた。浮いた余剰金は従業員ではなく資本家の懐に収まると、観測筋が見ている。
中小企業救済の名目で、パススルー企業(有限責任会社で、大半の中小企業や法律・会計事務所など。法人税はないが、出資者個人が所得税を支払う)があげる最初の31万5千ドルの利益の5分の1を所得税の対象から外す、としている。この措置で大きな利益を受けるのは、500以上のパススルー企業を所有するトランプ一家など、納税者上位5%である。
庶民納税者にはそれほど親切ではない。確かに低―中所得者がよく利用する定額控除額を独身者1万2千ドル、夫婦世帯2万4千ドルと2倍に引き上げたが、同時に扶養家族も含めた1人当たり4500ドル控除制度を廃止した。そうすると、子どもが多い家族の場合、定額控除倍増は帳消しになってしまう。
また、同法案は扶養子ども1人当たりの控除額も倍増し、1人につき2千ドルにしている。しかし、この控除は納税額に応じた部分払い戻し制なので、子ども2人で所得2万4千ドルの世帯は子ども1人につき1400ドルの控除になるが、低所得世帯はもっと少なく、子ども1人につき75ドルになるケースが多い。
さらに、同法案は、組合費など雇用上必要経費となる項目別控除をすべて廃止している。そのうえ、医療費負担適正化法(ACA)に基づく健康保険加入義務および非加入者への罰金制度を廃止した。これによって、無保険者の人数が1300万人増えると予測されている。
企業減税は内部留保され、
雇用・賃金増加に結びつかない
この金持ち減税は経済成長をもたらし、その結果雇用が増え、国民みんなが豊かになると、お定まりの論理で宣伝されている。オバマの政策ですでに証明されたように、富者減税が経済成長の動力にならないことは、歴史的に証明済みである。1960年代最高所得税率が91%だった頃、経済成長率は平均4%だったが、最近15年間、最高所得税率が39・6%と低いのに、成長率は低いままである。
反対に、金持ちへの課税が高いほど税収が増え、政府は経済成長のための有効需要を作り出すことができる。1950年代と60年代の政府の投資総額はGDPの6%以上だったのに対し、2010~16年のそれは3・7%であった。
企業利益への減税が貧しい人々へも富をもたらすというトリクルダウンになるというのは、嘘である。税引き後の企業利益は、今でも対GDP比最高の高さである。何しろ米税制は抜け穴だらけで、企業は法文通りの税金よりもずっと低い税金を払っている。そうして浮かせた剰余金は、経済成長、雇用増加、賃金増加に結び付く投資へ向かうことはない。2016年の現金および流動資産の形の企業内部留保は、国内だけでも8000億ドルあった。
さらに、米国拠点企業が海外で蓄積している2兆6千億ドルに対し、本国送還すれば割引税率を適用するとしているが、多分うまくいかないであろう。
2004年、ブッシュ政権は海外利益の本国送還に対し5・25%という低い税率を適用したが、米国に持ち込むのに成功したのは3000億ドルであった。
しかも、米国に持ち込まれた海外利益は国内投資、雇用、研究、開発に回されなかった。本国送還金1ドルに対してほぼ1ドルの株主配当が生まれただけであった。
減税による余剰金増加に気を良くした企業の中には、従業員にボーナスを支給するところもある。ウォルマートは、従業員1人あたりに1000ドルのボーナスを支給すると発表した。しかし、対象となる従業員は勤続年数20年以上の正社員だけで、ウォルマートがそれに費やす金額は減税で浮く180億ドルの2・2%にすぎない。その発表をした数日後、ウォルマートは同社の会員制スーパーマーケット「サムズ・クラブ」の60店舗の閉鎖と、従業員数千人の解雇を発表したのである。
なお、この減税で連邦政府の赤字は1兆8千ドル増加する。共和党議員たちは、赤字を少しでも減らすために、社会保障費、メディケア(高齢者向け医療保障)、公共サービスなどの予算削除を検討している。安倍が生活保護費を削除して金持ち減税するのと同じ手口である。 (編集部・脇浜)