野党支援の茨木・高槻・川西市議と本紙編集部
解散総選挙が与党勝利で終わり、「野党共闘」の総括や憲法改悪への対抗が求められている。関西各地で野党を支援した市議と本紙関係者に参加いただき、座談会を行った。前半の今号は現場の闘いを振り返り、野党共闘が機能した場所は勝利したことが明確になった。改憲国民投票は、危機とチャンスが両面あると話された。
そして全体結果は今の政治構造を反映しており、無関心・無党派の人々とつながり直すことが最重要だと話された。後半の次号ではそのための具体的な運動作りについての議論を掲載する。(編集部)
──まず、突然の解散総選挙で現場は大変だったと思います。その振り返りからお願いします。
山下:茨木市など大阪9区の野党統一候補、服部良一選挙の選対に関わりました。もともと来年の選挙を想定していたので、選挙事務所を構えたのも9月。バタバタと事務所開き。野党共闘の象徴的な候補者なので、野党各党や市民が大勢応援に来ました。
また服部さんはロックアクション」という運動で、秘密法・戦争法・共謀罪との闘いの中心にいたので、そこからも支援者が来て、市民が来やすい選挙になったと思います。バタバタしながらも、みんな「来て良かった、楽しい選挙だった」という声を聞きました。組織が全部取り仕切るのではなく、市民が自分のやりたいことをしながら全体では協働し、街頭に出ていく選挙でした。
ただ、反応は良いけど、自民候補は2世議員、維新も土着の人間なので、地域地盤が堅い。有権者は「自民が嫌なら維新に入れる、またはその逆」となってしまう。小選挙区で一人しか選べないことがしんどかったですね。
高木:去年「市民連合高槻・島本」を立ち上げ活動してきました。市民連合では辻元さん一本で行くことは暗黙の了解みたいになっており、共産党も早々と候補を降ろしました。なので、比較的準備はスムーズでした。ただし、活動の主体は市民連合で、辻元さんの応援部隊ではないことははっきりさせていました。
選挙戦はおのおのが自分のできる範囲でやる感じです。票も辻元さんの基礎票と共産党の票を合わせた数になりました。そして立憲民主党に風が吹いたので、以前の選挙戦と比べても飛び抜けて反応が良かったとのことです。また、名前が売れていることは特に国政では大きな武器なのだなと思いました。
北上:兵庫は昨年の参院選以前から野党共闘を求める「連帯兵庫ミナセン」が作られ、若手弁護士・医者や退職新聞記者などを含めて、熱心な働きかけがありました。昨年の参院選では改憲勢力が3議席独占という結果になったので、反省を踏まえて粘り強く取り組まれていました。兵庫6区は小池百合子の地盤でしたが、小池氏の元秘書が早々と希望の党の公認を得て、民進党候補者はどこから出るのか迫られましたが、立憲民主党を選んで闘いました。
結果、6区は兵庫県で唯一野党共闘候補が勝ちました。4月の宝塚市長選勝利の積み重ねがあったし、いろいろな市民運動の人々が選挙に関わることに対して前向きな意識がありました。共産党と連合系の壁も越えて一緒に街宣できる状況もできました。共産が候補を降ろした効果は大きく、市民も候補を献身的に支えていました。「皆で一緒にやる」ことを市民が押し切ったと思います。手応えはありました。
大きな勢力関係は変わっていない 半数の無関心層を左へ組織する
津田:私は、この結果も受けて私たちがどんな運動や政治を目指すべきなのかを話します。10月26日の『朝日新聞』に小熊英二氏の「今の政治状況は全体を10として右が3割、左が2割、無関心層は5割、が基本である。今回の選挙結果もほぼ同じ構造になった。だから希望の党が大勝ちするという予測はマスコミのミスリーク」という主張が掲載されていました。
今の政治で「風」と呼ばれるものは、無党派・無関心な5割をどう自分たちに引き寄せるかという話です。結果から見れば、立憲民主党は、左の票を引き寄せたという意味では風が吹いたかも知れないけど、日本の大きな政治構造全体を見ると「風」は基本的に吹いていない。
つまり、風は吹いても止まるわけだし、「5割の国民が選挙に関心を持てない」という日本の政治の貧困状況を変えない限り根本は変わらない。これを「右3、左3、無関心4」にどう変えるかを一番考えなければならないと思います。一度や二度の選挙では変わらないでしょうが、それを本当に作り出せば、いろんな政治課題をめぐる現状を変えていくことができます。この課題を基軸に長期的に何ができるかを考えないといけないというのが、今回の総選挙で一番感じたことです。
「政治が自分には関係ない」と思っている人たちを政治的に組織することです。右は右でその力が劣化しています。昔の自民党は幅も深みもあったのですが、今は目先の己の利益しか考えられない議員が多くいて、信頼を失っています。
左も、自分たちの方に組織する日常活動は作られていない。それは日本の戦後の「左」の最大の敗北だと思います。戦後共産党から始まり、社会党、私たちも含めて、左が2割しか人々を組織できなかったのです。何とかしないと、左の側も「風を吹かせよう」と考える人ばかり増えたら、人々はますます政治を信用しなくなります。
「地道さ」と「風」
──安倍首相の今回の解散の仕方があまりに突然すぎて、混乱を強めた面もありますか?
津田:それは以前からそうです。安倍氏も小池氏も元祖維新の橋下氏も共通しています。自分の損得を考えて、マスコミを動員して「風」を引きつけるのが「政治」だと思っています。ただ、維新は退潮傾向で、無関心層を取り込めなくなっています。そうなると自民党と基礎票で争わざるを得なくなるので、自民党が勝つわけです。
山下:維新の大阪都構想が破たんし、「身を切る改革」も陳腐化しました。維新そのものが既成政党化し、はなはだしい言行不一致も有権者にわかり、新鮮さがなくなったわけです。
北上:兵庫も全然です。
津田:ただ大阪府知事と大阪市長が維新なので、大阪では一定の力はありますが、全国政党としての力はもう取り戻せないでしょう。
北上:維新も小池氏も、マーケティング手法を基本にしています。有権者はお客さんだというんです。だから左が「3」を目指す時に同じ手法を使ってはダメだと思います。
山下:私の意見は違います。従来の運動をやりつつ、新しい風を起こし、新しい風の一部分を定着させる、その繰り返しで左部分を膨らませていくことは必要だと思います。そうでないと、右側が常に風を起こし定着させていく今の日本の政治状況には、対応できません。
北上:若者の自民党支持率が高いと言われます。事実は、安倍の経済政策で労働環境は痛めつけられているのに。「若者の貧困」を解決する抜本的な政策を私たちが出さなければいけないのに、悔しく思います。
社民党が小さくなるのは「いつまでも護憲、護憲しか言わないからだ」と言われますが、私は違うと思います。念仏のように言っているだけではダメで、現実の生活は健康で文化的な生活が保障されていないし、幸福追求権もない、憲法違反の状態です。これを変えるために若者と一緒に闘わなければ響かない。
「どぶ板政治」と言いますが、有権者にとって憲法より自分の家の道がへこんでないかどうかが大事で、地域の課題などを一緒に取り組んで信頼を勝ち取った上で初めて聞く耳を持ってもらえると思います。
国民投票は与党にとっても大博打 「現憲法を活かす」前向きな発信を
──与党勝利で改憲の国民投票が現実化しています。どう闘いますか?
津田:投票が本当に実現するか、まだまだ不確定ですが、安倍が強行するなら、ある意味チャンスと捉えるべきです。改憲派も絶対勝てると思わなければ国民投票をやれません。危機感だけで押し込まれるより、積極的に僕らの関係を拡げたり深めたりする手段として憲法を論議すればいいと思います。
高木:そういう雰囲気を今から作れれば、安倍首相も簡単にはやれないと思います。
山下:私は凄く危機感があり、このままでは改憲されると思っています。だからこそ簡単にはやらせない。私は今年で4年目の「ピースアクション」ビラの発行を続けています。茨木市で市民から賛同金500円を募り、賛同人を名簿に載せて市内で全戸配布するという運動です。
国民投票は物凄くずるいやり方でやると思います。○×以外は全部賛成票にカウントしてしまうとか。また、改憲案を全部一括で投票させようとするのではないか。条項ごとに賛否を問うなら議論ができますが、一緒くたでは議論が成り立たない。あいつらは何をするか分からない。「国民投票は全て×にしよう」と言わざるを得ません。
もう一つは、2019年の政治的山場です。4月に統一地方選、夏に参院選があります。これに向けてどう運動を蓄積できるか。
今出ているアイデアは、(維新や希望を除く)野党を一つの政治ブロックとしてまとめる構想です。どの政党に所属しているかは関係なく、この枠の中の候補者という選挙戦です。服部選挙には共産、社民、自由、無所属などの人々がみんな関わっていましたが、昔はそれは共産党をのぞけば社会党の党員であってもおかしくない人たちです。こうした現実に即して、選挙に勝つためのブロックを作りながら、地域でも闘いたいのです。
地域を変える具体的行動
北上:首相は「9条に第3項を加える」と言っていますが、それは2項の死滅を意味します。しかし、一方で自衛隊加憲を否決されたら、政権にも自衛隊にも大ダメージなので、必ず通る状況を作ってからやると思います。朝鮮民主主義人民共和国とのとんでもない緊張状態を作り出して改憲策動をする可能性もあります。世論も悪い方向へぶれるからです。
「憲法を活かす」とはどういうことか、前向きなメッセージを発信することが必要です。立憲民主党の「解散権を縛るために憲法改正」には疑問があります。今回の解散も憲法違反の「解散権の濫用」なのだから、憲法に基づく法律を作ればいいだけだからです。
山下:11月3日も中之島公園で「総がかり行動」の憲法施行日の大集会がありますが、近畿一円から自分たちに共感する人々を集めて大集会をするだけでなく、無関心層や迷っている人たちへの働きかけを丁寧にやることが重要です。
いつも同じ人が集まる都心部の大集会だけでなく、自分たちの住む自治体で何カ所街頭宣伝などをやれるかも大事だと思います。大集会は強い危機感もあるのでしょうが、内実が伴っていない。地域の中での総がかり行動は少ない。それをしないと国民投票には勝てないと思います。
──ありがとうございます。選挙運動の過程や結果の総括から、改憲への向き合い方を語ってもらいました。後半では、選挙にとどまらない社会変革に向けた私たちの運動の課題と作り方をお聞きしたいと思います。(次号に続く)