【特集衆議院】敗北から教訓を汲み取り、安倍政治と全面対峙する左派の戦略構想を

【全体総括】与党勝利は消極的支持の結果 だからこそ侮れない

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 相手の不意を突き、どさくさに紛れて獲物をつかむという、安倍首相の詐欺師的解散は、見事に奏功した。衆院で与党が3分の2を占め、希望・維新など野党側改憲勢力を合わせると、「改憲」国民投票は、極めて現実的だ。
 オーストリア下院選挙(15日投開票)でも、移民排斥を主張したクルツ氏率いる国民党が第1党に。チェコ下院選でも、「チェコのトランプ」と呼ばれるバビシュ氏が首相となる可能性が濃厚だ。右傾化は、世界的傾向となっている。
 しかし一方で、英労働党党首・コービン氏が主張する「21世紀の左派のマニフェスト」が強い支持を獲得してもいる。新自由主義による不平等の拡大・貧困化という現実にどう向き合うか? 左派の戦略と行動が問われている。(編集部)

地域・アソシエーション研究所 山口 協

 衆院総選挙は、自民・公明の与党が全議席の3分の2を上回る313議席を獲得した。前回選挙に比べて議席を減らしたが、与党の勝利と言えるだろう。すでに、選挙戦序盤に行われた各種の世論調査でも同様の結果が示されていた。
 数の力による強引な議会運営、相次ぐ閣僚の失言、「森友・加計」にまつわる疑惑など、安倍内閣・与党に対する批判は徐々に高まっていた。それなのに、なぜこんな結果になったのか。
 要因の一つは、野党側の対応の混乱だ。とくに希望の党の登場、民進党の身売りによって、昨年の参院選からどうにか保たれていた与野党二極対決の構図が崩れてしまったことが大きい。今回も北海道や新潟など与野党二極の構図が維持された選挙区では、野党側の勝利や善戦がもたらされている。逆に、三極以上の対決構図では、野党票が分散し、与党側がほぼ成果をさらっている。
 そもそも都議会選挙における都民ファーストの躍進は、公明党の協力なしにはあり得なかったにもかかわらず、それを「風」と勘違いした点で、小池も前原も状況を見誤っていたのだ。加えて、選挙目当ての離合集散、「踏み絵」による候補者「排除」、思いつきの公約乱発など、あまりの劇場型政治に世間の関心は急降下、選挙の本来の争点だった安倍政治の是非は後景に追いやられた。
 そんな中、希望の「踏み絵」を拒否して設立された立憲民主党は、選挙前の3倍の議席を獲得し、野党第一党に躍り出た。民進党時代の政治方針を堅持し、名称どおり現行憲法の価値を重視する点で、与党や希望の党に批判的ながら共産党にもなじめない層にとっては、最適の受け皿となった。今後想定される第4次安倍内閣の改憲攻勢に対抗する上で、結集軸となるだろう。
 とはいえ残念ながら、立憲民主の躍進は与党勢力を切り崩した結果ではなく、むしろ野党内での票の食い合いという面も強い。すでに参院議席の3分の2は与党に握られており、今回の衆院選でも3分の2を崩すことはできなかった。改憲攻勢への対抗は、さらに厳しい局面を迎えた。
 もっとも、今回の結果は安倍政治の全面的な信任を意味するわけではない。たとえば先に触れた各種の世論調査、読売の調査では、安倍首相の憲法9条自衛隊明記案について「反対」が「賛成」を上回り、内閣支持率でも「不支持」が「支持」を10ポイント以上超過している。
 毎日の調査でも、「安倍首相が衆院選後も首相を続けた方がよいと思うか」との質問に、「よいとは思わない」は「よいと思う」よりもやはり10ポイント多い。要するに、積極的に支持されているとは言い難い。
 ところが、それに代わる受け皿がない。もちろん野党は複数ある。平和や福祉などでは信頼もできる点もある。だが、総体として政権を託せるかと言えば、そうではない。それなら、個々に不満はあっても、ある程度行状の分かっている自民に入れるしかない。実際、民主党政権の時に比べれば、景気はマシになっている。また同じ失敗をしたくない――。与党に票を投じた最大公約数は、たぶんこんなところだろう。消極的な支持とはいえ、これを覆すのは容易ではない。いずれにせよ、敗北からできるだけ多くの教訓をくみ取るしかない。

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