ダール・ジャメール(Truihoutスタッフ記者)翻訳・脇浜義明
元原子力産業副社長だったアニー・ガンダーセンは、日本政府と原子力産業が、2020年東京オリンピックまでに避難者を全員帰郷させようとしていることに、驚き、怒りを表明した。
今年3月、政府は避難命令により他都府県に移っていた避難民への補償金の打ち切りを発表。多くの人々が生活苦から、放射能汚染地へ戻らざるを得ない状況に追い込まれた。国際オリンピック委員会も、野球やソフトボール競技を福島県で開く計画である。 「フクシマはもう『収束した』という印象を演出しているのだ。東京オリンピックで国民の目を原子炉メルトダウンから逸そうとしている。銀行、電気会社、エネルギー会社、行政は、国民の健康より企業利益を優先している。私は2016年に、東京の街角で高濃度の放射性ゴミを発見した。もし私の2人の孫が福島県で暮らしていたら、一家あげて福島県を出て、二度とそこへ戻るなと言うでしょう。フクシマの汚染は、一世紀間以上続くことは間違いない。しかも、他の原発もいつ事故を起こすかわからない。フクシマ、チェルノブイリ、スリーマイルの事故は、原子力発電が社会を破壊するテクノロジーだという教訓を残した。真摯に受け止めるべきだ」と、ガンダーセンは指摘する。
災禍は収束していないし、もはや居住できる状態ではない。崩れた発電所からの放射能漏れは、今も続いている。彼は、2012年の一回目の訪日のとき、汚染除去には2500億ドル(約26兆円)かかると言ったが、そのとき東電はせせら笑った。しかし、今年になって東電はそれだけの金が必要であることを認めた。その間の甘い観測に基づく怠惰の結果、太平洋、山脈、近隣都県が放射能で取り返しがつかないほど汚染してしまった。
安倍政権は、地下に「氷壁」を作って放射能に汚染された地下水を止める計画を採用した。しかしガンダーセンは、「多額の金を使って核燃料の塊を迂回させるだけで、必ず失敗する」と批判した。別の方法として、水が原子炉床に落ち、地中に流れ込むのを防ぐ技術はあるのだが、日本政府は採用しない。彼は、「原子力発電所全体を石棺で覆い、100年待って、解体工事に着手するしかない」と提案する。石棺に納めても放射能漏れはなくならないが、汚染レベルは低下、労働者、住民、環境への影響を軽減することができる。山脈、森林、草木、土壌の汚染が地下水や谷川を通じて海へ流れ込んでいるので、徹底的な除染が必要だが、そんな大事業はとうてい成功しないだろう、と語っている。
事故と癌の因果関係認めない政府
今年6月、政府は、新たに7人が甲状腺癌になり、事故以来福島県で発生した甲状腺癌患者の数は190人になった、と発表した。しかし、甲状腺癌が放射性ヨウ素被曝から生じることが医学的に証明されているにもかかわらず、原発事故との因果関係を否定している。
世界保健機構は、事故後、核燃料メルトダウンの結果生じる健康被害の筆頭に癌を挙げている。2015年の疫病学会誌の論文でも、フクシマの影響で子どもの甲状腺癌が成人以上に多く発生する、と事故との因果関係を予測していた。
2011年の福島原発事故で3310平方マイルが居住不可能となって、16万人が避難した。しかし、今年4月、政府は避難民に帰郷を奨励した。これに対し、ある町役場は、避難命令が取り消しになっても帰郷しないと意志表示した町民が半数以上だ、と発表した。
今年2月、東電では、原子炉の一つでメルトダウンした核燃料の塊が行方不明になっている。発電所内の放射能濃度が上昇、その影響でロボットが故障するほどであった。
福島付近の市町村でも、子どもたちの間で癌が増え続けている。放射能は、収束するどころか、大きくなっている。今年初め、原子炉の付近の大気中の放射能が1時間530㏜を記録し、事故以来最大となった。以前の最高値は2012年の1時間73㏜だった。
1㏜の放射能を一度浴びるだけでも、吐き気を催す。5㏜を浴びると1年以内に死亡することもあり、10㏜だと数週間で死ぬこともあり得る。
明治大学の勝田忠宏准教授(原子力規制委員会の原子炉安全専門審査会および核燃料安全専門審査会の審査委員)は、政府のフクシマ対応について、「一番危険に思っているのは、政府が国民の生命より国家の権威と電力会社の保護を優先していることだ。事故の記憶を消すために政府は避難命令を解除したのだ。補助金は1人あたり10万円程度で、10年続けても、人間の命からみれば、大した額ではない」とコメントした。
被害隠蔽のため医者に圧力
ガンダーセンの妻マギーは、原子力発電などエネルギーの調査を行う NGO「フェアウインズ・エネルギー教育」の創設者だ。彼女は、「フクシマ、チェルノブイリ、スリーマイルに共通しているのは、政府が放射能漏れを低く見積もり、主流メデイアが政府方針に従う報道をしたことだ。パニックや混乱を防ぐためだという口実があるかもしれないが、メルトダウン隠蔽は『人命、人権、環境の破壊』だ。安倍内閣と東京電力は、人間の健康を企業利益や政治家の野心のための取引商品のごとく扱っている。健康被害を隠すため、放射線症を診断する医者に、医院経営許可取消しの圧力をかけている」と語った。
実際、国が言う「心理的ストレス」を否定し、正直に放射線症と診断したために、クリニックを失った医師がいる。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学M・V・ラマナも安倍政権のフクシマ対応を批判。
「人々の生活や健康への関心が薄く、世論の大反対を押し切って原発企業の利益を優先する安倍政権には期待できない。大災害が国民を殺しているのに、オリンピックや観光客誘致に躍起になって、日本のイメージを高めようとする。それが本当の国益だろうか。安倍首相は、フクシマを知らないし、知ろうともしない。本来は原子力エネルギー政策を推進した自民党を代表して謝罪する立場にあるのに。
16万人の避難民に支給していた住宅補助金の打ち切りは、無神経だ。被災地の放射能が安全レベルになったと言う政府は嘘つきで、少なくとも震災前のレベルよりはるかに高い。山や森林の除染は手付かずのまま。町村除染には手を付けたものの、除染ゴミの袋が積み上げられたままだ」
4者とも、東京オリンピックは「フクシマ隠し」だという点で一致する。現に被災者たちは「オリンピックのために私たちのことが忘れ去られる」と、不安を募らせている。放射性粒子が飛び交う中でオリンピックをやるのは、人々を病原菌の中に招致するようなもので、犯罪行為だろう。