原子力機構大洗事業所でのプルトニウム被曝事故

作業員の入院1カ月以上続く楽観できない病状を示唆

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市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司

事故の経緯と原因作業員は再々入院中

 日本原子力研究開発機構(以下機構)の大洗研究開発センターで作業員5人の重大な被曝事故が起こってから1カ月半が過ぎた。7月19日現在、被曝した5人の作業員のうち3人の入院は続いている。詳しい病状も実測されたプルトニウムなどの数値も、「個人情報」を盾に公表されていない。マスコミもいつも間にか続報を報道しなくなっている。これは何を意味するのだろうか?
 6月6日11時15分頃、作業員がプルトニウムの入った容器の蓋を開けたところ、内部のビニール袋が膨らんで破裂し、プルトニウムを含む微粉塵が室内に飛散した。作業員は、顔の半面を覆う防護マスクしか着用しておらず、プルトニウムやアメリシウムなどの放射性微粒子を吸い込んで内部被曝した。しかも、機構側の事故対応の遅れから、作業員は汚染された室内で3時間以上留め置かれた。
 神戸大学の山内知也教授によれば、噴出した気体は大部分が水素であった可能性が高く、引火・爆発すると部屋が吹き飛ばされ、放射性物質が広く飛散する危険もあったという。
 事故の原因は単純である。本来、施設の密封された設備で行うべき作業を、開放された簡易作業台で行ったことである。だが、その基礎には、原子力機構の、ほとんど無きに等しいほどずさんな安全管理と、それがまかり通る腐りきった組織体質がある。
 機構は、当初、作業員の鼻腔内から最大でα線24ベクレル(Bq)、肺モニターによる測定で、肺内被曝量が最大でプルトニウム2万2000Bq、アメリシウム220Bqだったと発表した。全身被曝量は最大で36万Bq、1年間で1・2シーベルト(Sv)、50年間で12Svの被曝量に相当する、と推計した。
 作業員は、事故の翌日、放射線医学総合研究所(放医研)に入院、あらためて体内放射能の検査と、プルトニウムなどの体外排出を促すキレート剤(Ca─DTPA)の投与を受けた。
 その後、機構は、被曝の評価を180度転換。放医研での「再測定」の結果、肺内でプルトニウムは「検出されなかった」とした。「体の表面に付着した放射性物質を誤検出」して「内部被ばく量を大幅に過大評価していた」というのだ(9日)。放医研の明石真言執行役も、「肺からプルトニウムを検出できなかった」と発表した(12日)。
 本来これは、肺モニターの「検出限界以下」すなわち「5000~1万Bq以下」とすべきものだ。それを「不検出」すなわち「ない」かのように「印象操作」したことになる。
 明石氏は、アメリシウムは「検出された」が、その数値や発見された作業員の数は「個人情報のため答えられない」とした。つまり、アメリシウムからプルトニウムの内部被曝量を推定される(100倍して)ことを避けたわけだ。その後、入院していた作業員は全員退院(13日)。読売新聞は、勝ち誇ったように、「無用な不安を煽る」人々を批判した(14日付社説)。
 ところが19日、事態は再び一転した。5人の作業員は、尿から「ごく微量のプルトニウムなど」が検出されたとして、放医研に再入院。放医研の明石執行役は、「薬の効果」でプルトニウムが排出されているが、「ごく微量」で「健康にすぐに影響が出るものではない」と述べた。26日、作業員5人は再退院。だが7月3日、うち3人は再々入院。その後、退院の公式報道はない。

プルトニウム内部被曝の考えられる病状

  作業員の健康状態についての機構・放医研側の説明が本当なら、断続的にであれ入院が1カ月も続くはずはない。
 重大な問題は、作業員へのキレート剤の初期投与が遅れたことだ。キレート剤の投与は一刻を争う。放医研によれば、「1~30分後」ならプルトニウムの体外排出率は66~72%だが、2時間30分後だと56%、1日後だと50%とされる。いったん肺、骨、肝臓などに沈着してしまうと、ほとんど排出されない。
 今回投与が開始されたのは、被曝事故発生から11時間も経った22時5分。体内に入ったプルトニウムの半分程度は、体内に残留する可能性が高い(肺洗浄という手段もあるが行われなかったようだ)。
 プルトニウムの内部被曝によって、どのような症状が現れる可能性があるだろうか。
 肺炎。放射線治療では、1~6カ月後、照射部位に肺炎が生じることがある。プルトニウム微粒子は、付着した周辺の細胞に強力なα線を集中的に高線量で照射するので、同じように肺炎が考えられる。炎症から繊維化し、呼吸困難などを引き起こすリスクがある。
 免疫力低下。プルトニウムは骨に蓄積しやすく、骨髄の造血機能を低下させ、貧血はもちろん、免疫機能の低下をもたらす。感染症が重篤化する危険もある。『日刊ゲンダイ』紙上では「免疫力低下による多臓器不全」の懸念が指摘されている(6月8日号)。
 眼の炎症や白内障。半面マスクでは眼は保護されておらず、結膜や角膜などへのプルトニウム微粒子の沈着による眼の炎症や障害が考えられる。
 骨髄関連のがん。最短潜伏期間が短い白血病や多発性骨髄腫などの危険性も高い。
 脳梗塞や脳出血。血管や循環器官の障害による疾患のリスクも高い。福島事故原発の吉田所長の症例(食道がんに脳出血を併発)を想起するべきだろう。
 肺がんなど固形がん。肺などに極めて高い確率でがんが発症すると考えられる。動物実験では、プルトニウム微粒子7400Bqが肺内にあれば、ビーグル犬にがんが発症したとの報告がある。仮に肺モニターの検出下限値の5000~1万Bqとしても、十分この水準である。
 ほとんどあらゆる種類の病気や健康障害。内部被曝が生みだす酸化ストレスによって、さまざまな病気のリスク全体が高まると考えるべきだ。

政府が隠蔽しても被曝の影響は進む

 当初発表された推計通り1年間に1・2Svも被曝すれば、1~10%致死量である。数年で半数致死量3~5Svに達する。50年で12Svというのは、90~100%致死量である。すべてICRPが「致死量」と規定しているレベルだ。仮に肺内プルトニウム量を検出下限の5000~1万Bq程度としても、上記の1年が2・2~4・4年になるだけだ。
 政府や推進勢力がいかに作業員の被曝状況や病状を隠蔽しても、被曝の影響はそれ自体の客観的な法則に従って必然的に貫徹していくほかない。

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