「朝鮮危機」をあおり権力の私物化進める安倍政治

6・25大阪 「戦争の危機の時代を問う」西谷修講演集会

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6月25日、『「戦争の危機の時代」を問う』と題して、立教大学特任教授で、安保法制反対運動などで発言してきた西谷修氏の講演会が行われた。大阪市立中央会館には約210名が結集した。以下に講演を要約・紹介する。(編集部)

政府のプロパガンダとしての「危機」

 行き詰まる世界の支配構造と安倍政治についてお話しします。世界統治構造―グローバル秩序の破綻により、安倍政権、および日本はどうなっているのでしょうか。
 世界史的に転換点にさしかかり、日本は迷走していますが、「戦争の危機」自体が政治のためにプロパガンダとして利用されているのではないでしょうか。
 まず、「戦争の危機」は実際にあるのでしょうか?
 ことあるごとに「朝鮮危機」が叫ばれています。政府は、朝鮮がミサイルを飛ばすごとに、御用メディアを使い大々的に発表し、騒ぎ立てています。これは、「国家体制の変革、私物化を目論んで指導者層が市民を煽っているのではないか」と思っています。
 例えば、市民煽動を背景にトランプはシリア・アレッポに60発近いミサイルを撃ち込み、子どもを含む市民の大量虐殺に及びました。何がそれを可能としたのでしょうか。政府のプロパガンダ(フェイクニュースやポストトゥルースといわれる類のものですが)に煽られた世論です。
 アメリカ政府は、シリアで毒ガスを撒いた犯人が誰か根拠がないまま、アサド政権のテロ行為と決めつけ、テロの危機を煽り、自らの蛮行を正当化したのです。

シリアを朝鮮にすり替える安倍

 これに対する日本政府の反応はどうでしょうか。国際法を無視した攻撃であるにもかかわらず、4月7日、世界のなかでいち早く支持を表明したのです。安倍首相は「(アサド政権のテロとされる)化学兵器の使用を許さない、との米国政府の決意を、日本政府は支持する」と発表し、軍事攻撃についても「事態の深刻化を防ぐための措置だ」と擁護しました。
 さらに「東アジアでも朝鮮の大量破壊兵器の脅威は深刻さを増している」、「トランプ大統領の強いコミットメントを高く評価する」、「朝鮮に対してもメッセージになる」とのコメントを発表させました。
 なぜ急に朝鮮に話題を移すのでしょうか? そもそも現在進行で大量に破壊・虐殺を行っているのはアメリカではないでしょうか。化学兵器を許さないが、自らは空爆をする。空爆では幼い子どもたちも死にます。アメリカの空爆、この巨大な爆発が、アサド政権と、それに付随する兵士だけを狙えますか?
 日本政府は徹底糾弾すべき残虐行為を棚に上げ、朝鮮に対しては大騒ぎする。行った事実ではなく、その国がどこかによって対応を変えているのです。
 朝鮮に対して騒いでいるのは、日本政府だけです。政府に協力的な団体の間では防御訓練を始めていますが、それは建物に隠れて座布団を被るというものです。70年前の空襲対策と同じ杜撰な訓練です。政府の狙いはミサイル訓練にはないのです。「朝鮮がミサイルを撃つと、こんなに危険で日本には大きな危機がある」と「国民」に刷り込むためです。
 市民に危機感さえ植え付けられればことたりる、いや、それこそが目的なのです。仮想敵国をつくり、強力な中央集権国家体制、戦時国家体制形成を、市民に自ら求めさせるのです。さらに、無関心な人々にも危機を体感させ、朝鮮への憎悪を植え付けるために、東京の地下鉄を止めました。止めたメトロの重役には天下りがいたのです。つまり、政府の御用鉄道です。「朝鮮のせいで地下鉄が止まった。通勤が混雑してみんな迷惑した」―そう宣伝させました。おかしいと思いませんか?止めたのは日本政府です。

生活基盤をも動員した世論形成

 また、中学校の体育に銃剣道を取り入れました。銃剣とは、射程距離が詰まったときに銃の先についた剣で敵を打倒する武器と言われていますが、戦場では弾がなくなったときに特攻手段として使われました。実に一億玉砕精神を具現化する象徴的武器です。塚本幼稚園では、園児に「教育に関する勅語」を暗誦させ素地を形成しました。あからさまな戦時国家体制を形成する攻撃です。
 では、同じく戦時国家体制形成に突き進む朝鮮の支配層の目的は何でしょうか。
 結論からいえば、金体制の永続です。核保有国になれば、存在が国際的に認知され、国民に対しても「わが国家体制は世界に認められている」と言えるのです。グローバル世界秩序の重鎮であるアメリカに、たとえ敵国としてであろうが、国家の存在を認めさせることを叶えたいがために、軍事行為を行っているのです。日本を攻めるでしょうか?日本など眼中にないのです。アメリカに相手国として認めてもらうだけで、金体制は続くのです。
 では、トランプは朝鮮を攻めるつもりがあるのでしょうか? 朝鮮は資源をもたない経済的には価値のない国です。アメリカが中東戦争に力を入れたのは、石油や天然ガスの産地だったからです。つまり、何もない朝鮮を攻めてもメリットがないのです。
 朝鮮が軍事行動をとるとき、直接の相手は韓国です。同じ民族で殺しあうことになります。金体制は国家存亡をかけ暴発状態で侵攻します。ですから、当事者となる韓国は軍事行動に踏み切れません。戦争となれば、多くの難民がうまれます。受け入れる準備は、アメリカにもありません。朝鮮を暴発に追い込むことは、どこにもできないのです。
 日本で地下鉄を止めたり、防空訓練をすると、韓国は被害をこうむります。部外者である日本の敵対煽動で、朝鮮半島の軍事情勢は悪化するのです。

「戦時国家体制」による国家権力の私物化こそ目的

 戦争は稀有の非常時です。平時は禁止されている殺人が承認されます。殺す相手が国家の指定した「敵」であると、誉められるのです。「敵だから撃て」と言われる。「誰の敵だ。私の敵ではないはずだ」―そんな個としての存在も意思も意味を奪われるのです。
 戦時国家体制形成に突き進むと、どうなるでしょうか。
国家があらゆる個人に先立ち、市民一人一人の存在が意味を持たなくなります。モノを言うのは、自らを「全体」に昇華した国家支配層です。
 6月15日には、共謀罪(テロ等準備罪)を強行採決し、新設に踏み切りました。採決から1カ月もたたない7月11日に施行予定と発表されています。「共謀罪」をオリンピックに向けたテロ対策だと宣伝していますが、実際は権力に楯突く市民を牽制するためです。犯罪の事実がなくても、権力の采配で逮捕できるようになったのです。
 また、2020年の憲法9条改悪を明言しています。自衛隊を憲法に載せ、武装派兵できるようになります。これで、実際に戦争をやらなくても、「するぞ」という体制にはできた、と言えます。架空の「戦時」危機を煽ることで、本来の目的である「戦時国家体制」形成を成就したのです。
 安倍首相は、「個人の権利」と「国家権力」の区別がつかない人物です。国家運営と私的な願望を同一化し、森友・加計学園をはじめとして、本来使ってはならないものに公権力で投資しています。権力の私物化にほかならない。
 森友・加計のように、権力者が国民も国家も自由に動かせるようにしたい。これこそが、戦時国家体制を取り戻すことに全体重をかけて突き進む安倍首相の意図するところです。安倍政治とは、戦争の危機を作ることによって行われる政治です。
 ただ、緊張を煽り準戦時状態を作るだけで、国を思うようにできるのです。起こらなくても(戦争とは起こるものではなく起こすものですが)起こったのと同じ政治が進行しているのです。

残された手段は実力行使のみ

 最後に、何が安倍の登場を許したのでしょうか?
 原発に違憲判決をくだした裁判官が左遷されました。安倍の側近によるレイプ事件は揉み消されました。森友加計学園の真実を明かそうとした前川前次官に対しては、記者会見で人格否定をし、御用メディア読売新聞を使い、彼を貶めるためのでっち上げ記事を書かせました。さらに、共謀罪の審議の国会中継はテレビで流させませんでした。閉会後は、記者会見と称して広報メディアのみを集め、一方的に台本を読むだけで切り上げました。
 現在、安倍政治を糾弾する機関、メディアはないのです。全部安倍が抑えている。司法も最高裁の人事すらも、です。
 だから、安倍の戦時国家体制攻撃には、もはや私たち自身の「力」を持って直接対決していくしかありません!
西谷 修(にしたに おさむ)
 1950年生まれ。立教大学特任教授。20世紀フランス現代思想の研究をベースに、世界戦争以後の人間の生存条件、グローバル化によって引き起こされた諸問題について研究。戦争論、世界史論、クレオール論、共生論、破局論、医療思想史など。立憲デモクラシーの会、安全保障関連法に反対する学者の会の呼びかけ人。著書に「アメリカ 偉業の制度空間」(講談社選書メチエ)、「戦争とは何だろうか」(ちくまプリマー新書)、「夜の鼓動にふれる:戦争論講義」(ちくま学芸文庫)、「戦争論」(講談社学術文庫)など。

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