世界は今(3)英国 総選挙結果から学ぶべきこと

緊縮財政に反対し、前向きな社会建設ビジョンを明確に提示

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クレア・サンドバーグ『リアル・ニュース・ネットワーク』(6月14日)翻訳・脇浜義明
右傾化が顕著な世界で、メイ英国首相は、議会解散・総選挙という博打に出た。労働党・コービン党首は、内部からも「過激派」「テロ支援者」と石つぶてを投げられ、世論調査の大敗北予測をも覆し、大勝利した。
 ここには選挙政治に関して左派が学ぶべきことがある。米国大統領選でバニーサンダース選挙に関わり、英国労働党選挙ではコービン支援に出かけた女性活動家・サンドバーク女史のインタビューを紹介する。(編集部)

ジャイサル・ヌーア…米の共和党や民主党の一部からも支援を受けたメイ首相にとって、コービン労働党が、この60年間で最高の得票を得たのは大ショックでした。事情を説明してください。
クレア・サンドバーグ…当初、コービンの人気は非常に悪く、保守の地滑り的勝利をどの程度防ぐかが課題でした。ところが、あの逆転劇です。労働党が1945年以来最大の得票伸び率を獲得したのは、コービン労働党が新しい進歩的マニフェストを発表、前向きの社会建設ビジョンを明確に示したことが、民衆の心を捉えたからです。
 いいですか、英労働党内でも米民主党内でも、労働党惨敗、コービン党首交替が論議され、世論調査でもコービン敗北が圧倒的だったのです。そのうえ、米民主党員でオバマ大統領補佐官だったジム・メッシーナが、メイ首相応援にやってきたのです。選挙戦終盤のメイは、「テロ撲滅のために人権なんか窓外へ投げ捨てよう」と演説。緊縮財政と公共部門の予算大幅削減を主張しました。建前にせよ公平、平等、自由というリベラル価値観を唱えるメッシーナのような人物が、なぜ自由権侵害、インターネット検閲、企業の横暴を擁護するメイを支援したのか、理解できません。
ヌーア…あなたは「コービン・マニフェスト」が、民衆の心に訴えたと言いました。たしかにそれは、従来とは大変異なっています。もうひとつの転機は、マンチェスターとロンドンで起こったテロです。普通テロ事件は、テロに厳しい姿勢を取る保守や右翼に有利に働くものです。しかし、コービンはテロ事件と真正面から向き合い、英仏米を中心とする西洋の中東政策と介入、とりわけ反動的サウジアラビアとの関係について語り、それがテロの源泉であり輸出であることを説明。これまでの西洋の中東政策との決別を訴えました。彼は、テロ事件にいわば「倍掛け」したのです。驚いたことに、英国民衆は彼の新しい外交政策に興味を示したようです。この点について話してください。
サンドバーグ…2週間で2つのテロ、2017年に入って3度目のテロ事件にもかかわらず、右翼政党=イギリス独立党(UKIP)に投票した人々が、労働党に投票したのです。これは注目すべき現象です。西洋の介入主義的外交政策が英仏にテロというバックラッシュを生み出している、というコービンの説明を理解したのです。リビアからの移民がテロへ走るのは、リビアで英仏が破壊行為をやって社会と国家を潰した結果だ、と考えるようになったのです。
 またコービンは、メイが緊縮財政のために警察官2万人を減らしたことを指摘。財源と人的不足のために監視の目が届かず、警戒も十分でなかったと批判しました。
 右派は、コービンがIRAの政治部門であるシンフェイン党と対話したことなどを引き合いに出して、「テロに甘い」と批判しました。しかし、テロが日常的脅威となっている英国民は、対話にせよ監視・警戒にせよ、現実的な取り組みを要求、オープンで率直な議論を望んだのです。

守旧路線にうんざりしている民衆

ヌーア…米国への影響について質問されたオバマ元大統領は「米民主党の政策は事実と現実に基づいているから、心配していない」と答えました。オバマは、米の覇権維持と米民主党が奉仕する多国籍企業の権益を守るために、中東の社会と人々を犠牲にし、テロの温床を作ったことへの認識がないようです。
サンドバーグ…英労働党も米民主党もほぼ同じスタンスでしたが、コービンがそのスタンスを変えたから、勝利したのです。オバマはそれを認識すべきです。
 民衆は、どんどん減る賃金や諸手当、生活と未来への不安、社会保障制度の喪失など、不満を抱えて生活していました。若者は希望が持てず、雇用不安と環境悪化ばかり見ています。保守にしろ革新にしろ、守旧路線にはうんざりしています。
 米民主党は、消滅したくなければ自己変革すべきです。コービン労働党は、新綱領に鉄道国有化復活と公的事業の民営化反対を謳っていますが、米民主党は過去30年間、行われた民営化を元に戻そうと言っていません。
ヌーア…米の大統領選挙後、多くの人々が民主党に失望、別の党を作るか、民衆の必要に応える組織に作り変えるかを検討しています。バルチモアでは、進歩的市議会が、15㌦最低賃金制を可決しました(市長が拒否権行使)。こういう進歩派政治家は、新党を作る方がよいか、民主党の内部から改革する方がよいか、どちらがよいと思いますか。
サンドバーグ…比例代表制であれば、スペインのポデモスのように新党を結成し、新しい路線を打ち出す方がずっと楽でしょう。しかし米国は、二大政党制です。英国選挙の場合、進歩的諸政党が候補者をおろしてコービン労働党支援に回ったので、左派の票割れが起こりませんでした。
 正しい政策だけでは選挙に勝てません。それを支える広範な社会的コンセンサスを獲得するには、既成の基盤を活用せざるを得ません。私たちの思想・イデオロギーが正しいことを理解してもらうための社会的基盤が必要です。その基盤を通じて、テロの原因、貧困と格差の原因、地球温暖化の原因、社会断片化の原因を民衆に説明するのです。そして、その原因に対する根源的な闘いと未来社会ビジョンを提示することが重要です。

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