国連科学委員会のデータから5基の年間稼働で最大7000件の発がん・1700人のがん死の可能性

原発の通常運転が生み出す健康被害を推計する~放出される放射性トリチウムの危険性

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市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
 九州電力の川内1・2号機、四国電力の伊方3号機に続いて、関西電力は高浜3・4号機の再稼働を行った。裁判所もまた、住民の安全を全く無視する福島事故以前の「原発安全神話」の無批判な追認姿勢に戻ってしまった。あたかも、第二第三の福島原発事故を引き起こすリスクに向かって自殺的に突き進んでいるかのようである。
 だが、ここで問題が生じる。事故を起こさなければ、原発は健康被害をもたらさないのだろうか?―それに答えるのに困難はない。通常運転の健康リスクは、(1)国連科学委員会の放出量・集団線量推計を基に、(2)国際放射線防護委員会(ICRP)のリスクモデルを使い、(3)欧州放射線リスク委員会(ECRR)の過小評価割合で補正するという方法で、大雑把な概数ではあるが、容易に推計することができる。その結果は驚くべきものだ。

規制なく放出される放射性トリチウム

 国連科学委1993年報告によれば、通常運転によって放出されている放射性物質の主なものは表(1)の通り、トリチウム(三重水素)と希ガスだ。これらは、放射性物質であるにもかかわらず、危険性が少ないとして、総量規制なしに無際限に環境中に廃棄されている。問題なのは、原発の定期検査と燃料棒の交換の際に、原子炉を減圧し上蓋を開けるのだが、それと同時に莫大な量のトリチウム(水蒸気や気体)や希ガスが、一挙に「スパイク」として、通常時の500倍以上も環境中に放出されていることだ。1次冷却水が交換される際にも、トリチウム水が大量に排出される。
 現在政府が再稼働を進めようとしている加圧水型(PWR)原発は、核反応の制御にホウ素とリチウムを使用するので、トリチウムの発生量が沸騰水型(BWR)原発に比較して、桁違いに大きい。

 

 国連科学委1993年報告は、通常運転による放射性物質の放出量(トリチウム140ペタベクレル)と局地的・地域的な集団線量(0・37万人・シーベルト)との対照表を掲げている。そこから、同じ比率で平均的に各核種が放出されたと仮定すると、トリチウム放出量から集団線量を概算することができる。さらに、ICRPのリスクモデル(1万人・Svあたり1800人の発がんと450人のがん死)を使って、通常運転による健康被害想定を大雑把に計算することが可能である。もちろん二重に過小評価されたものであるが、今は「可能だ」という点が重要である。つまり政府・推進側は「知っている」わけだ。

倍加されるトリチウムの危険性

トリチウムは、化学的には水素と同じ働きをし、ベータ線(電子)を出して、ヘリウムに変わる。水素と同じ性質をもつトリチウムは、水(トリチウム水)として、また有機化合物と結合して、生体のどこにでも入り込む。とくに、細胞分裂時のDNA複製の際に、その材料となる物質に組み込まれると、DNAの中心構造である水素結合に侵入し、DNAを中枢から破壊することになる。その際、水素として機能してきたトリチウムは不活性なヘリウムに壊変するので、水素結合が切断され、その箇所でDNA2本鎖が共有結合により架橋したり、メチル基やアルキル基、アミノ基など他の化合物とランダムに結合して非常に複雑な、修復が難しいDNA損傷が起きる。
 つまり、トリチウムの崩壊は、ベータ線照射による直接の破壊とそれにより生成される活性酸素種による間接的な破壊に加えて、水素結合の切断とというさらに追加的な破壊を伴う。つまり、トリチウムは何倍にも倍加された危険性をもつ。ECRRは、その危険性の度合いを10~30倍としている。 

トリチウム放出推計から被害を推計すると…

 原子炉通常運転によるトリチウムの放出量の推計は、すでに政府の旧原子力安全委員会によって行われている(「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の線量当量評価について」)。これは1989年に行われた推計であるが、2014年の経産省文書(「トリチウムに係わる規制基準」)で再確認されており、現在も有効と考えられている。われわれもこれを使うことにする(A)。
 詳しい説明は省略するが、計算過程は表(2)の通りである。
 ECRR補正以前でも、つまり政府の認めているデータだけでも、通常運転による健康被害は決してゼロとはならない(G)。5基稼働している現在、毎年の稼働で生涯期間で7人程度の発がんと2人程度の追加的ながん死が予測される。
 ECRRは、ドイツの環境省と連邦放射線防護庁が行った「運転されている原子力発電所周辺5㎞圏内で小児白血病、小児がんがそれぞれ2・2倍、1・6倍の高率で発症している」という内容の調査研究(KiKK研究)をベースに、大きな過小評価補正係数(H)を採っている(×200~×1000)。
 ECRRの過小評価補正後では(J)、5基稼働により約1360~6800人の発がんと約310~1700人のがん死が引き起こされている可能性が指摘できる。
 関西電力の3原発が、福島原発事故以前の10年間に放出したトリチウム量から計算すると(K)、およそ7000~3万5000人の発がんと約1700~8700人のがん死がこの10年の被曝により生じた可能性が明らかになる。

さらに大きくなる被害想定

 国連科学委の推計は、原発周辺の人口密度や水源の状況などを考慮しておらず、関西など原発周辺の人口密度が高く、原発に近い琵琶湖水系を広範な住民の上水道として使用しているなどの条件を考慮すれば、被害想定はさらに大きくなる可能性が高い。
 これらから、原発の通常運転は、事故がなくても、住民と国民全体の大量発がんと大量死を生みだしていることが示される。原発再稼働にひた走る電力会社や政府は、重大事故リスクだけでなく、通常運転がもたらす被害リスクの点からも、「殺人企業」「殺人政府」と呼ばれても仕方がないのである。

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