オルグのための学習 学習のためのオルグ

集団的にスキルや意味を伝え合う人民教育

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4月3日 「レーバーノーツ」 翻訳・脇浜義明
ドキュメンタリー映画「ユー・ガット・ヒア」(1988年)で紹介されたハイランダー・センターは、社会運動や労働運動の人材を育てる労働学校のようなもので、1930年代に産業別組合(CIO)所属労組の活動家教育機関となった。米南部の労働者は人種の壁を超えて参加、識字学習、指導者養成ワークショップ、公民権に関する学習などを経て、黒人の公民権運動の土台を作った。モンゴメリー・バス・ボイコット運動や学生非暴力調整委員会は、このハイランダー・センターから生まれ、あの「ウィ・シャル・オーヴァーカム」が公民権運動の歌となった。
 「レーバー・ノーツ」のクリス・ブルックスが、ハイランダー・センターで28年間教育者として働いてきたスーザン・ウィリアムズにインタビューした。(訳者)

ブルックス…人民教育とは?また、オルグ活動とどうつながっているのですか?
ウィリアムズ…人民教育とオルグは一つのプロセスです。人々が集まり、どうするか?をいっしょに考え、必要な学習をし、話し合い、行動して、評価と内省を行い、次に何をするか?を考えるのです。自然なプロセスです。
 人民教育とは、集団的にスキルや意味を伝え合うことです。「人民は自分で思っている以上のことができる」―この信念が人民教育の基礎にあります。優れたオルグは、人々に共同学習と成長する力を提供します。オルグと学習は一体なのです。
ブルックス…伝統的な教育との違いは?
ウィリアムズ…伝統的教育は、ブラジルの教育学者パウロ・フレイレのいう銀行型教育(知識を貯めこんだ専門家がその知識を学習者の頭の中に注ぎ込み、学習者がそれを忠実に再生するプロセス)です。そんな教育を受けた人は、問題に直面すると、すぐに専門家に頼るのです。現代では、グーグルに直行するようですが、他者依存に変わりがない。自分の力で物事を変革することが奨励されないのです。
ブルックス…人民教育のスパイラル(螺旋的上昇)について話してください。
ウィリアムズ…人々の経験から出発し、経験の分析、変革のための戦略を構築する循環です。その過程で新情報を導入します。経験と情報を統合して、行動を考え、実行します。その経験を出発点にして、同じプロセスを繰り返します。このプロセスの中で学習者は批判的思考と戦略スキルを集団的に身につけます。
 一般的に「オルグ活動」とは、指導者が受動的民衆に働きかけることとみなされていますが、人民をさまざまなスキルと知識を持った人々の集団と見るのです。そのスキルと知識を共有化し集団化するのです。人民教育を考えないオルグ(例えば動員指令)は、間違いだし、変革につながらない教育は意味がありません。
ブルックス…実例を紹介してください。
ウィリアムズ…私がハイランダーへ入ったのは1980年代後半で、当時ハイランダーは、工場閉鎖問題で合同衣服繊維労働組合(ACTWU)に協力していました。南部の小さな繊維衣服工場が次々と閉鎖、労働者と地域住民が窮地に追い込まれていました。それで私たちは、「テネシー産業再生ネットワーク」という労働者・地域住民連合を立ち上げました。まず、工場閉鎖反対チームを結成、労働者と住民を組織しました。すでに工場閉鎖された労働者の未払い賃金獲得の闘いや、再就職のための職業訓練の実施を州政府に要求しました。
 閉鎖工場は、メキシコなどの低賃金国境地帯へ移転したのです。保守政治家は、トランプと同じように、メキシコ人が仕事を奪ったという外国人嫌悪思想を労働者や住民の間にばら撒きました。しかし工場移転は、資本の搾取政策がもたらしたもので、メキシコ労働者の責任ではありませんし、米国人労働者以上に過酷な搾取の被害者なのです。だから、米国人労働者とメキシコ人労働者の連帯を作り上げることが急務だと考えました。それでテネシー州の仕事を失った女性労働者を連れてメキシコへ行き、交流会を開きました。その交流会で米国人は、北米自由貿易協定(NAFTA)のことを知り、その協定が、低賃金、劣悪労働条件を増大させ、企業がボロ儲けしている事実を知りました。それで、テネシー州へ戻って、工場閉鎖と政府の貿易協定政策とがつながっており、メキシコ人労働者も被害者であることを説明するスライドを、みんなで作りました。
 みんなが先生であり生徒であるという人民教育は、強力です。活字ではなく体験を通じて学ぶからです。自分を捨てた工場がメキシコ人をもっと過酷な労働条件と低賃金でこき使っているのを見たのです。
 人々が情報源です。これらを統合して、広い視野で、集団的に分析することが私たちの方法論です。メキシコ人との交流によって米国中心的思考法から脱却し、貿易や経済の仕組みという視点から現象を見ようとするようになりました。ACTWUは、この交流を援助してくれました。

「自分は何者か?」を知ることが重要

ブルックス…トランプ政権は、労働者階級を分裂させるために移民を利用しょうとしています。組合の中に移民労働者もいるので、緊張感が生じませんか。
ウィリアムズ…放っておけば、人種や移民への反発が組織を蝕むでしょう。トランプに投票した組合員もいるのですから。大切なことは、組合員が他者の話を聞く機会を設けることです。他者の立場を理解し、自分と結びつけることができるからです。みんながもともと移民なのですから、自分や家族の歴史を振り返ることが役立ちます。経済的圧迫に耐えかねて「不法」移民してくる人々と自分が同じだという認識に辿り着きます。「自分は何者か?」を知ることが重要で、組織的団結の基盤となります。
 制度や構造の勉強も大切です。この国で一般に行われている移民議論は、まったく無益です。NAFTAで苦しんでいるメキシコ人の話を聞く機会があれば人々の理解力が高まるのですが、政治もメディアも識者も、逆に壁を作っています。人種や移民問題は感情的テーマで、危険を招くことがあります。だからこそ、自分の隣にいる人のことを考えなければならないのです。運動指導部の中にさまざまなコミュニティ代表を入れなければならないのです。
ブルックス…どのように人民教育に組織するのですか。
ウィリアムズ…最初は「呼びかけ」です。職場内外で、声をかけ、話し込みます。一対一で対話し、人々の心配ごとを発見します。そして、人々が集まったとき何が大切か?を考えます。交通手段や使用言語などの条件を吟味し、方策を立てることが必要です。
 次に、出会った人々をその気にさせること。集会参加が必要であり、価値あることと感じてもらい、来てよかったと感じてもらうこと、つまり、その人の存在が私たちみんなにとって大切だと感じてもらうことです。経験と経験が交流され、人間関係が築かれるという意味です。それをやらない限り本当の信頼関係は生まれないし、困難で緊張した状況を克服して共に闘う方向へと向かうことはできません。共生とは共に闘うことであり、共に闘う組織の存続の源は人間関係です。
 教育や分析の生まれ方は多様です。少人数の会食のときに生じることもあれば、共同で歌を作っているときにも起こります。他人の話を聞いて「私と同じだ!」と感じたり、「同じ問題で悩んでいる」と思うこともあります。話を聞くことから、客観世界の分析が生じ、行動の指針が生まれます。その過程で、深い見識を備えた人間が関与すると、飛躍が起こることが多い。工場閉鎖問題のときも、経験豊富な人を招いたことがあります。彼の識見は人々の正しさを立証し、深く広く高め、次の跳躍台になりました。
 ハイランダーは、異種運動の交流ワークショップも開きます。全体状況をつかむためだけではなく、異なった種類の問題や視点を相互学習するのです。大いに役立ちます。私たちが求めているのは関係構築、分析、そして行動です。
ブルックス…それを実践しているわけですね。
ウィリアムズ…一つの行動で問題が解決するわけはない。人々を集め、考え方を出し合い、なすべきことを考え、分析を続けています。人々が定期的に集まるようになれば、民衆自身が、何を学び、何を考え、何をなすべきかを考え始めます。
 人間関係を深めることも大切です。会議をやる場合、その準備も共同で行い、のんびり会話できる時間や場所を設定します。人民教育は、プロセス全体で考えるべきです。オルグ活動も同じで、あらゆる関係性に基づいて行動を共にすること、みんなの力で成し遂げることが重要です。
ブルックス…歴史を重要視するのはなぜですか?
ウィリアムズ…未来への希望が大切だからです。「自分も何事かを成し得る」と思うことが大切です。メキシコからテネシーへきた労働者と米国人労働者を交流させたことがあります。メキシコ人はNAFTAについて語り、それと闘う組織作りのために、50年代のテネシー労働組合の闘いを知りたがりました。50年代の南部で労働組合を作るのは命がけの難行で、メキシコ人も同じ状況にあったのです。米国人の闘いの歴史から学ぼうとしたのです。
 歴史を知ることは、勇気を得ることです。歴史は、現在の私たちが先人の命がけの闘いの成果の上に立っていることを教えてくれます。ただし、公民権運動だって決して理想的にまとまった運動ではなく、内部対立、軋轢、抵抗、危険、死者も出ました。挫折や苦悩の歴史も大切で、それを伝えるべきです。真実の共有を通じた連携こそが、本当の連帯なのです。

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