南アの政治危機と大衆抗議運動

縁故主義かネオリベかという選択を越えて

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パトリック・ボンド(ヨハネスバークのウィットウオータスランド大学政治経済学教授)/Zコミュニケーション、4月29日 翻訳・脇浜義明
 3月30日、ズマ大統領はゴーダン財務相とジョナス副財務相(2人とも左翼からネオリベラルに転向した人物)を含む20人の大臣・副大臣を入れ替えた。これに対し左翼政党=「経済的解放の闘士」(EFF)は、内閣改造がズプタス(縁故主義=ズマ大統領の血縁、ビジネス・パートナー、取り巻きなどのこと)の汚職の根だとして、大衆抗議デモを組織。またネオリベ系信用格付け会社2社は、南ア国債を「ジャンク」級に格下げた。近く予測される大統領弾劾は、8年間のズマ政権最大の危機となっている。
 追い出された閣僚は福祉支出に反対していたが、国家と資本が分離していないこと(縁故資本主義)を汚職の源泉だと批判した。主流メディアはこれらネオリベラリストに同情的で、ズマ政権を批判。南ア通貨ランドは1㌦=12・3ランドから14ランドに下落。10年もの国債の利子は急上昇した。
 これが中産階級の怒りに火をつけ、4月7日、6万人規模(圧倒的に白人が多かった)の抗議デモが数都市で起こった。ズマは、2013年のブラジルでルセフ大統領の運賃値上げなどの緊縮財政に対する抗議運動が政治危機に発展、やがてそれが右翼エリートに乗っ取られてルセフ弾劾決議(2016年)になったことを、西側による攻撃と見なし、欧米批判を行ってきた。また彼は、人種カードも使う。「レイシズム復活が見られる。白人の中には我々黒人を劣等人種と見ている者が多いことは明らかだ。時代が逆戻りしつつあるのは明らかだ。差別者は正体を隠そうともしなくなっている…」。
 確かにズマが指摘した「白人バックラッシュ」が存在することは事実だ。ズマ政権下の南アは、国民の60%(ほとんどが黒人)が貧困で、トップ1%だけが甘い汁を吸う格差社会だが、白人実業家が批判しているのは、ズマの縁故者(ズプタス)が半官半民的縁故資本主義から不正利得を得ている現実である。更迭されたゴーダン財務相は、南ア電力会社(ESKOM)とロシアの原子力発電に関する癒着と汚職に反対した。
 4月7日の最初の抗議の波「南アを救う運動」を指導したのは、シポ・ピトヤナだ。彼が会長を勤める鉱山会社=アングロゴールド・アシャンティは、アパルトヘイト時代に悪名を轟かせた会社であった。反ズマ抗議運動をピトヤナだけに任せておくのは危険であった。4月12日には5万人規模(ほとんど黒人)の大統領官邸へのデモと野党(左翼政党EFF、汎アフリカ主義政党、中道右派の民主連盟、その他小さな政党)とが合流する抗議行動があったので、私は安心した。
 来月上旬に野党は、大統領不信任案を提出する。憲法裁判所が野党の申し出を認めれば、次の不信任決議は秘密投票となるので、与党250議員のうち50人が反ズマに回る可能性が濃厚で、不信任が成立する。
 1994年の革命以来、最も政治紛争が激しく、すでに停滞している経済がいっそう停滞する。

民衆の利益に立った根本的変革へ

 ズマは、時期遅れの「革新的経済改革」を提案した。しかしそれは、黒人資本家を政府調達に参入させることと、政治と資本の分離を説くゴーダン財務相をマルシ・ギガバに入れ替えることであった。ギガバは、2010~14年の国家事業担当相時代、ズマと同じような偽りの経済変革計画で国民を失望させた。彼が提起した派手な計画は、以下のとおり。
(1)電力公社の汚職から生まれたメデュピ火力発電所とクレシ火力発電所の拡張。およびロシアのロスアトム原子力会社から1兆ランドの原子力発電購入契約(第三者を排除するために事前契約された)。
(2)180億㌧の石炭を輸出するための鉄道網を570億㌦かけて建設。また、ダーバン港まで鉄道を建設する180億㌦の事業。
(3)国有石油会社のムトンボ製油所建設に57億㌦。
(4)ワールドカップ競技場建設。2022年開催予定の英連邦総合競技大会用会場の建設に4億5千万㌦(これは、更迭直前のゴーダン財務相が拒否した)。
 他にも、南ア道路公社のETC化、南ア航空の「ターンアラウンド」(着陸から再出発までのプロセス)なども、「ジャンク」級格下げの理由となっている。
 ズマには内閣改造を元に戻す気はないし、縁故・贔屓人事を止める気もない。「今度ジャンク級格下げになれば、100億㌦が海外流出する」と言われている。南ア準備銀行は、利率を引き上げて資金流出を防ごうとするだろう。1998年に2週間で1㌦=7ランドから10ランドに下落したとき、利子率を7%に上げたが、その後も通貨価値の大変動が起きている。
 捕食者金融機関の活動を止め、利子率を低める余裕を得るためには、為替管理を徹底するしかない。外国人投資家は移り気である。利子率が高いと金融市場は投機的「ホットマネー」が集まり、一時的に現実離れに加熱上昇する。しかし、2014年以降、民間部門も公的部門も固定投資を大幅に減少させている。格付け低下に対応してやっと財務省は「投資のために外国のマネーに依存することを減らす」必要を学習したようだ。
 外国債務が異常に高いので、外国金融機関依存という脆弱性を減らすことが急務である。しかし、ズマ政権の利権主義と汚職の経歴を考えると、ズマ新内閣が緊縮財政を止めて公的支出を増やした場合でも、資金が賢明な形で使われることはないだろう。いずれにせよギガバは、緊縮財政継続、2019年度予算の赤字を対GDP2・6%にまで引き下げる、と公言した。しかし、それが意味するのは、貧者への僅かな社会保障や福祉予算の削減である。ズマ政権は、民政に役立つ形で公的支出を増やし、通貨を守り、南ア経済を再生させる方向へ向かうことはない。公的支出を増やせば、再び国の借金を増やして縁故企業に無用な仕事をまわして、汚職と癒着を再生産するだけだろう。
 4月21~23日、新しい左翼勢力がこの政治騒動に参加した。南ア労働組合連盟(SAFTU)らで、その中には強力な反ズマ組合南ア全国金属位労組(NUMSA)もいる。有名な労働運動指導者スエリンジマ・ヴァヴィが指導するこの新勢力は、既成の南ア労働組合会議(COSATU)にとって大きい脅威である。SAFTUが市民社会で主要な力となり、左翼政党EFFと組めば、民衆の選択の幅が広まる。ズプタスかネオリベラルかというエリート間の選択ではなく、民衆全体の利益を視野に入れた道へ進むチャンスが生まれるかもしれない。

壁のない世界を! 移民と難民の権利に関するグローバル人民サミット

フェデリーコ・フエンテス(Zコミュニケーションズ・デーリー・コメンタリー、4月4日)翻訳・脇浜義明
 ボリビア政府と社会運動組織は、移民と難民の権利に関するグローバル人民サミットを開催することを発表した。6月20~21日、世界中から移民や難民問題の研究者や活動家などが参加する「壁なき世界及び普遍的市民権を求める人民会議」だ。
 エボ・モラレス大統領は、「グローバルな格差の深化と軍事干渉が世界の難民危機を作り出す犯人だ」と指摘。「現在の国際的現象を見るとき、このような集会開催の必要を痛感し、世界に呼びかける」と語った。彼は、「移民、ラティーノ、難民に壁があり、軍事介入と他国の天然資源略奪に壁がないという状態は、絶対に認めることができない。難民や移民に関してグローバルな議論を徹底的に行う必要がある」と言った。
 地方教員組合全国連盟の指導者フレディ・ママーニは、呼びかけ文を読み上げ、「歴史には災害、戦争、軍事政権、民族浄化などを逃れて移民せざるを得なかった多く例があり、移民は国境で取り締まる対象ではなく、固有の人権として認めるべきだ」と訴えた。特にトランプ米大統領が3百万人の移民追放を意図していることと、08年に「不法滞在」移民を追放する目的でEUが導入した送還命令に憂慮を表明した。
 「我々は国家安全保障や国境を超える犯罪との闘いを口実にして、移民と家族の基本的人権を攻撃したり、外国人嫌悪症的な差別の対象にしてはならない」「世界のすべての人々と国家に対し、普遍的市民権の実現と国境の消滅を呼びかける。…そのために世界人民会議を開催し、新しい世界の創造を呼びかける」としている。
 人民会議では3つの作業部会が設けられ、(1)普遍的市民権、(2)移民・難民とその家族の人権擁護、(3)普遍的市民権実現と帝国主義国による軍事介入に反対する世界人民宣言起草を検討する。
 社会運動との調整副大臣アルフレード・ラダは、3月12日、人民サミットは「人民を組織化するばかりでなく、各国政府の理解と協力を求めるもので、移民に対する壁でなく、市民の自由な移動を妨害する外国人排除、外国人差別政策に壁を設けることめざす」と語った。サミット宣言は国連へ持ち込まれ、国連宣言にしたいという。
 人民サミットは、アメリカ州人民ボリバル同盟(ALBA)に加入している国の大統領たちから歓迎されている。もともとこの提案は、ベネズエラ、キューバ、ボリビア、エクアドール、その他ラテン・アメリカとカリブ海沿岸7カ国など反帝国主義ブロックの会議で提起されたものであった。ALBA首脳会議は、米国内のラテン・アメリカ人やカリブ海人の移民を法的・資金的に支援するための基金の再生も決定した。
 人民サミットは3度目である。前の2つは、2010年と14年にそれぞれ気象変動と母なる地球擁護のためにボリビア政府と社会運動体によって開催された。それは世界の地球温暖化阻止運動を活気付ける重要な役割を果たした。 

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