言わせて聞いて

共謀罪法案―私の体験から

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国会前制服警官に呼び止められて

 東京・奈良本

 先月、国会前の歩道を歩いていると制服警官に呼び止められました。「どこへ行きますか?」「憲政記念館へ」、「何のためですか?」「そんなこと言う必要があるのですか」、「誰に会うのですか?」「言う必要ないでしょう」―警官は、次の信号までついてきて、同じ質問。私は「ノーコメント」と繰り返しました。私がナップザックにぶら下げていたタグ「原発やめよう」を見とがめたようです。
 今度は10日程前の国会前。朝鮮半島危機の平和的解決を求める集会の後、歩道を歩いていると、「今、茶色のバッグを背負った人が、そちらへ行きました」と警官が無線連絡していました。通りがかりの人が「あなたのことらしい」と教えてくれました。私が、「米朝講和条約で戦争を終わらせることこそ必要」と短いスピーチをしたので、眼をつけられたのでしょうか。75歳の退職教員の私までマークされている? あまり気持ちのいいものではありません。
 しかし、「共謀罪」(テロ等組織犯罪準備罪)法案が、もし可決成立したら、どうなるのでしょうか。私服警官が、国会前ではなく、自宅に訪ねてきて、「誰に会いましたか」「何を話しましたか」などと訊いてくるでしょう。「そんなことをいう必要ないでしょう」と返せば、「先日の会合で、集団座り込みをしようという話が出たという情報があります。これは組織的威力業務妨害の共謀の疑いがあります」と私服が答えるかもしれません。「知りません」と言えば、私服は「ちょっと本署まで来てください」と「任意同行」を求めてきます。警察署へ行ったが最後、とことん油を搾られ、ふらふらになって帰宅する。こんなことがいつか日常化する。そんな気がします。
 例えば、原発被害の補償を求めて、電力会社や政府官庁に集団で交渉を申し込む。相手が門前払いを食らわせるなら、「責任者が出てくるまで玄関前に座り込もう」と相談。あるいは近隣の住民の反対を無視して迷惑工事が始まる。「よし、工事道路にピケを張ろう」と相談する。こうしたことが、「共謀」になるかもしれません。

『ちょっと本署まで来てください』

 建前は、東京五輪に備えての「テロ」防止。「テロ」と聞けば、殺人、傷害、爆破などを連想しますが、「共謀罪法案」で取り締まりの対象としているのは、277もの「犯罪」なのです。組織的強要とか、組織的虚偽風説流布、公正証書原版不実記載など、これらがどのように、どの人々に適用されるか、素人にはおよそ想像もつかない「犯罪」の「共謀」と「準備行為」の疑いで、捜査官が私たちのプライバシーを侵し、場合によっては、逮捕や家宅捜索が行われるのです。
 逆説にように聞こえますが、議事録や録音テープといった物証がなければどうするか。(1)盗聴器を仕掛ける。(2)捜査官が市民運動のメンバーを装って会合に潜入し、こっそり録音。(3)運動グループの中に内通者をつくり、情報を取る。あるいは、(4)嘘の自白を強要すること(多くの冤罪事件はこうしてつくられました)。
 (1)~(3)は、これまでにも「内偵」として、密かに行われていました。それが、「共謀罪」の捜査の名目で大手を振ってまかり通るようになる。
 捜査当局は、疑いをかけた市民を必ずしも、逮捕、起訴、有罪にする必要はないのです。「ちょっと本署まで来てください」を断ったとき、何が待っているか、それを想像するだけで、普通の市民の多くは、「やっかいな運動にかかわりたくない」と思うでしょう。それこそ、民主主義の「死」だと思います。
 「共謀罪法案」は、法体系を根底から掘り崩し、「民主主義」の基礎を破壊するものです。あらゆる手段をつくして、葬り去るほかないと思います。

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