共謀罪 うかつなことが言えない窮屈な時代になる

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京都府在住・元教員 田中啓輔
 先日、近所の主婦たちに「円高になっているのでヨーロッパ旅行してくるか」と冗談交じりに話すと、即座に「止めとき、殺されんで」と言われた。「テロに巻きこまれるかもしれないから」だという。 しかし、どうして世界各地でテロが横行するようになったのか?という話には向かわない。何故か? あれこれ考えるのがメンドクサイからだ。感情を共有することでご近所関係が維持できるから、突っ込んだ話はしない。
 だから、政府が「世界各地でテロが続発するなか、東京五輪・パラリンピックを控え、テロ対策に万全を期することは開催国の責務だ」といい、「国際組織犯罪防止条約の批准」(マフィア対策)のために必要だということで、「組織的犯罪処罰改正法案」が衆院法務委員会で審議入りすると、「改正案」に反対するのはテロリストに味方するのと同じだと世論の心情に訴え、説得することに躍起になっている。
 とにかくテロは怖い、最近では北朝鮮による日本の米軍基地攻撃をちらつかせる挑発により、マスコミの危機感を煽る報道も盛んとなる。政府は、国民の不安にこたえるために、国民保護ポータルサイトで武力攻撃やテロなどから身を守るための有事に対する対応マニュアルを発表するなどしている。こうなると「戦争だ、軍事増強だ、アメリカからオスプレイ購入だ、軍艦購入だ」と、後先もなく政府の言いなりの後押しが始まる。安倍首相のトランプ外交は成功、トランプ大統領も喜ぶ。
 それにしても、新聞、雑誌、テレビを見るにつけ、処罰法改正法案の「共謀罪」について疑問点が挙げられているが、法案の中身についてほとんど知る機会がなく、某新聞に組織的犯罪処罰法の「対象の法律と罪名一覧」(処罰法の対象の犯罪は277)と「共謀罪に関する条文(抜粋)」とが掲載されていたのを読んで、びっくりした。
 「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画」に関する第6条の2に「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金または物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を軽減し、または免除す」云々とある。この処罰法によって治安を維持するために、警察の事前捜査が正当化されるとしても、たいていの人は自分には関係ないと思い込んでいる。だから、世間を脅かす輩を駆除することは良いことだ、といった風潮が広がっている。しかし、テロに係わりのないことであっても、政府を批判したら、テロを計画していると疑われ警察に連行されることもあり得るのだ。裁判は、政府に有利な判決が目立ち、司法の自律性が危うい昨今、冤罪が増えるのを危惧する。

この危機感のなさは何なのか!

 ところで、デモに行っても、集会に行っても、市民講座に行っても参加者や聴講者が圧倒的に60~70代のご年配であるのが、不思議な感じがする。この国の中年族、青年たちは、一体何処に埋もれているのだろうか。デモに参加するのがばれたら就職や出世に影響するという話がささやかれ、高校生が事前に学校に届け出ることを義務付けた高校もあった。だから、若者は政治に距離をおくし、在学時代も、明治以降の歴史をろくに教わっていないそうだ。だから「戦前の治安維持法に戻っている」と言っても、理解できない。「共謀罪」がどんなに恐ろしい法律かが、ピンとくるわけがない。
 トランプ大統領に媚びをうる日本の安倍首相は、「世論調査で50%以上の支持率を得ている」といきまき、言いたい放題やりたい放題、国会での法案は強行採決続き、安保法制、武器輸出、「国連平和維持活動」(PKO)の新任務に「駆けつけ警護」を付与するなど、戦争のできる国家へと着々と歩みを進めている。あとは憲法改正が実現できれば政治家として最高というところだろう。
 それにしても、野党の存在感がまるでない。街頭で「組織的犯罪処罰法改正」について世論に訴えるでもなく、国会審議でも、主張が国民を注目させるほどのものでなく、全く危機感が伝わってこない。
 安倍首相がかかげる「積極的平和主義」については理解不能だが、首相にとって特定秘密保護法案は、アメリカとの同盟を重視する政府が、アメリカからもらった情報を守るために自国民を罪に問う法であり、私たちにとっては知る権利の阻害になりかねない法律である。
 日本中の関心を集めて連日報道のトップを占めた「森友問題」でも、籠池氏の国会証人喚問で自民党は、籠池氏が首相を侮辱したという理由で国会証人喚問を認めた。ことの本質はそっちのけで、籠池氏の不正追及に終始し、偽証罪に持っていくことに躍起となり、結局うやむやに。
 金沢市の市民団体「石川県憲法を守る会」が、5月3日の憲法記念日に市庁舎前広場で開こうとした護憲集会の申請を、市が不許可にしたという。理由は「政府批判が含まれるから」だという。
 風力発電施設建設予定地で、自然破壊や健康被害を懸念する住民の勉強会が始まったことを問題視した岐阜県警大垣署が、住民らの個人情報を収集し電力会社の子会社に提供していたという。
 時の権力に対して抗議デモ、集会、政府批判等々民主主義の主張が否定される歴史が再度始まる。思っていることを誰かと話すことが難しい時代になるのでは、と思う次第である。本気で「共謀罪」を潰さなければ、この国に未来はないと思う。

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