バリアのない街 介護とロボット

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遙矢当(@Hayato_barrier)
 「よく噛んで食べましょう」―5歳児のような声で周囲の人に声をかけるのは、今話題の介護ロボットだ。私は、その介護ロボットを企業の福祉機器展で見た時、ふと「最後に自分のそばにいて欲しいのは誰なんだろう」と思った。
 介護現場は人手不足で、その人手不足を補うためのアイディアは出尽くした感がある。端的に言えば、介護保険制度を見直し、職員の待遇を改善するのが最重要ということになっている。しかし、国および厚生労働省は、制度見直しに付け焼刃に対応するだけで、抜本的な見直しを嫌う。そこで、人手不足解消のために提示してきた案は、2つある。1つは「外国人介護士の登用」であり、もう1つが「介護ロボット」の活用だ。
 介護現場で話題をさらう「介護ロボット」は、大別すると3つになる。1つは介護職員が自分の身体に装着し、利用者の介助時の身体的苦痛や体力不足を補助する「スーツ型」のものである。介護職員、特に女性の介護職員が、体力不足などが原因で、ケガを生じやすい。スーツ型ロボットを装着することで、筋力のない職員でも大柄な利用者の介助に当たることができる、というものだ。早急に普及すべきかもしれないが、介護職員を増やす予算すらない厚労省が助成金を付けて購入を支援しても、ロボット開発業者の利権にされてしまうことなど、問題も多い。
 2つ目は、冒頭に出てきた、利用者がコミュニケーション相手として活用するロボットである。例えば、ソフトバンク社のロボット「ペッパー」もこれに当たる。人手不足となった介護現場が真っ先に行き当たるのが、日々のコミュニケーション不足が原因である疎外感だ。この疎外感に対し、ロボットはプログラミングされた内容に沿い、適宜利用者への声かけを可能にする。しかし、利用者全員がロボットとのコミュニケーションを受け入れるか、疑問だ。利用者個々の判断もあろう。
 3つ目は、バーチャルリアリティ(仮想空間)を現出し、ロボットを利用して学生や介護職員に介護教育を提供するシュミレーターだ。最近では、介護事業を自ら経営する下河原忠道氏が設計した、若年者が高齢者として認知症を体験するプログラムが話題を呼んでいる。

「群れ」的存在の私たち

 私が介護の世界に関わり始めて、20年になる。ロボットの活用については、その頃から言われていたが、当時は遠い未来の話だと思っていた。しかし、介護現場の深刻な人手不足を背景に、思った以上に業界のイノベーションは早く、今やロボットの存在なくして、この国の介護は語れなくなっている。
 ロボットが登場する著作で有名なSF作家のアイザック・アシモフは、晩年、ロボットが人類を支配する未来を否定しなかった。しかし、さすがのアシモフも、介護現場でロボットが登場し、ロボットの力を借りて、人類が延命を試みようとしている現代は想像できなかっただろう。
 クローン人間の研究が進めば、人類の誕生も「死」のとらえ方も変わってくるかもしれない。しかし、人類はサルを起源とし、「群れる」ことで暮らしが成り立っている社会的動物だ。ここに立ち返るなら、人が死ぬその瞬間は、大小に関わらず人の群れのなかにいる。
 今あらためて私たちに問われているのは、どんな「群れ=コミュニティ」で日々を送り、誰と最後に過ごしてこの世を去るのか、だと思う。去る「瞬間」の充実のために、介護があるのではないか。そして本紙読者のあなた自身も、誰とどのように「群れ」ているのかも問われているのだろう。まだわからないことが多いロボットについては、今後も考え続けたい。

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