1.21大阪 トランプ当選後の東アジアはどうなる?

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新自由主義に対する魅力的な対案を提起しグローバルな反ファシスト運動を

 

講演 ウォルデン・ベロー フィリピン の政治学者

1月21日、エルおおさか(大阪市)で講演「トランプ当選後の東アジアはどうなる?」(主催・ストップ! TPP緊急行動・関西)が開催された。登壇者はウォルデン・ベローさんで、左派政党選出のフィリピン元下院議員として活躍し、現在は京都大学東南アジア研究所の客員研究員として務めている。ベローさんの講演から、(1)TPPの基本的課題、(2)トランプ当選の経緯、(3)いま・これからのアジアと世界の情勢、について紹介する。問題意識を共有したい。(編集部・ラボルテ)

労働者階級から見放された民主党

 TPPの基本的な問題は、ISDS条項を使って国家の基本的主権を奪っていくことです。特に発展途上国においては知的所有権の問題があります。したがってTPPは、関税を下げるといった自由貿易に目的があるのではなく、知的所有権を独占することで先進国の力を強める、投資によってグローバル企業の力を強めることにあります。TPPについてもうひとつ指摘したいのは、TPPが通常の経済協定ではなく、世界第一位の経済大国である米国と、第三位の経済大国である日本が、第2位の経済大国である中国を封じ込めるという、地政学的に重要な意味を持っていることです。
 TPPが昨年締結された時点では、日米ともに順調にいくと思われていました。去年の中ごろには日米ともに抵抗が小さくなっていきましたが、トランプによるサプライズがありました。米国で貧困層が増大している地域が共和党を支持し、ペンシルバニア州やウィスコンシン州など選挙人の数でいえば64人が民主党を見放しました。
 つまり、民主党が推進してきた新自由主義政策やオバマ政権が貧困や失業などの問題に対して取り組めなかったことに失望を表明したということです。労働者にとって、民主党は希望を何も示さず、むしろオバマがTPPを推進してきたことを通して、問題を生み出すことを感じて反対してきました。
 そうしたなかでヒラリー候補は、「TPP反対」を言い始めましたが、選挙後にはTPP推進に回るだろうと思っていました。アメリカ中西部の労働者階級は、オバマを二度にわたって勝利させましたが、「オバマで何も良くならかった」として民主党を見放しました。
 大統領選挙でトランプが主張したのは、日本その他の同盟国の防衛負担について、マフィアがショバ代を取り立てるのと同じように費用を取り立てるということです。トランプは、日本をはじめとした国々の二国間・多国間の安全保障について、まったく意義を認めていません。また、経済政策については、中国と日本を意識して、(1)為替操作を止めさせること、(2)不当な貿易について関税を大きく掛けると表明し、保護主義的な内容になっています。
 トランプは、自分の政策を現実に合わせるのではなく、現実を自分の政策に合わせようとしています。大統領選挙でのトランプ勝利は、ほとんどの人々が予想していなかったことでした。これが、トランプに確信を持たせています。トランプが「TPPを終わりにする」と言ったいじょう、本気だと考えるべきだし、トランプの取り巻きの人々が、TPPの重要性を説いても、彼は無視するでしょう。
 残念なことは、TPPがいかに危険で問題が多いのかを指摘し、追い詰めてきたのは我々左派ですが、その成果をもっていったのはトランプだということです。これは世界的にもいえることで、例えばMAIやWTOなどの新自由主義グローバリゼーションと闘ってきたのは左派だけれども、その成果を手にしているのは極右だということです。
トランプ大統領就任で私たちが覚悟しておくべきことは、アメリカが明らかに自国の利益を優先する保護主義に向かうことです。さらに、トランプが出てきたことで、「同盟国と組んで世界を支配する」ではなく、単独で何かをすることを覚悟すべきです。これは経済問題にも軍事問題にも共通しており、1930年代の孤立主義を彷彿させます。

リベラル民主主義への怒りの表明

 最後に触れたいのは、「第二次世界大戦後といわれる時代の終わり」を迎えていることです。大戦後の世界は、アメリカが自由主義国家を守り、世界を支配するために自らの資源を世界各地に配備するという戦略でした。しかし今、アメリカ国内で中産階級や労働者階級の大部分は「我々はこれまで外国のためにやってきたが、これからは国内のことに集中する」という考え方が急速に広まり、世界中で極右やファシスト的な流れが拡大しています。
 極右の台頭は、アメリカでは「ティーパーティ」がトランプを当選に導いた主要勢力ですが、フランスではルペン(国民戦線)の大統領就任が今年のフランス選挙で有力視されています。一方、リベラル民主主義は、アメリカ、ドイツ、イギリスなどにおいて明らかに後退しています。特徴は伝統的な保守勢力、アメリカでいえば共和党、イギリスでいえば保守党が、さらに右傾化する流れに飲み込まれていきます。人々は「リベラル民主主義が自分たちにひどいことをしてきた」と考えており、そうした怒りの表現でもあります。
 私は身近なところで経験しています。フィリピンのドュテルテ大統領は薬物依存症者に対して「お前たちに人権はない」と公言して、就任半年で法的手続きなしで6000名以上を処刑しました。国民の8割以上がドュテルテを支持しているのは、「リベラル民主主義に裏切られた」という表れです。世界的に同じ力学が働いています。国家を超えて、インターネット世界で人権や法手続きを支持すれば、「薬物依存症者に人権はない」「お前は人権を食いモノにしている」との批判が殺到する状態です。
 いま起きている事態は、反グローバリゼーションが軸になっています。反グローバリゼーションは左派が始めて、極右が成果を手にしています。トランプやドュテルテの台頭は偶然ではなく、イギリス・EU離脱、フランス・ルペン台頭も偶然ではないと私は思います。世界各地で、リベラル民主主義や新自由主義への怒りが、表現されているのです。
 我々の課題は、大衆運動をもう一度作り直すしか選択肢がなく、人々の必要としていることや関心に対応した運動を進めなければいけません。新自由主義グローバリゼーションに対する魅力的な対案を人々に提起し、グローバルな反ファシスト運動を推し進めなければいけません。
 20世紀のファシストの経験―日本でもそうですが、スペインでは39年、カンボジアでは40年間、ファシスト政権が持続しました。我々は、ファシストが権力を手にする前に何としてでも阻止しなければならないのです。

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