高浜原発クレーン倒壊事故─関電に安全意識はあるのか?

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現場を支配する安全無視の慣行その中で再稼働する恐るべき危険性

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司
 2017年1月20日午後9時50分頃、関西電力高浜原子力発電所において工事用大型クレーンが倒壊する事故があった。クレーンは2号機の核燃料プール建屋の上に倒れ、状況によっては大事故につながりかねない深刻な性格の事故であった。関電の安全管理体制の全般的な危機的状況、安全意識の退廃と安全規律の紊乱を再度明るみに出す、象徴的な出来事となった。

事故の経緯

 関電は、翌21日、事故の事実関係の簡単な発表(プレスリリース「高浜発電所構内でのクレーンブームの損傷について」)を行っただけで、事故の詳しい経緯や状況、原因などの発表はまだない(2月1日現在)。各種報道などをまとめると、事故の経緯は概ね以下の通り。
 高浜原発1号機および2号機は、昨年(2016年)6月、原子力規制委員会から40年を超える運転期間延長を認められ、関西電力はそのための「安全」対策の一環として格納容器の補強工事を行っていた。工事は、大成建設を元請けに、下請け業者が4台の移動式大型クレーンを使っていた。倒壊したクレーンは、長さが113メートル、高さ105メートル、総重量270㌧あった。
 1月20日午後4時42分、福井県地方には強風が吹いており、気象台は福井県下に暴風警報を発令した。警報は、福井県庁の危機対策・防災課により、メールやツイッターその他で広く拡散された。関電や工事業者も、暴風警報発令を同日の作業終了時以前に当然認識していたはずである。関電発表も、暴風警報発令の事実を認めている。高浜原発構内に2カ所ある風力計でも秒速14~15メートルの風を記録していた。気象庁の暴風警報は、陸上での平均風速20メートル以上を予測するもので、実際小浜市での観測では、事故発生とほぼ同じ時刻の午後9時50分、秒速25・8メートルの最大瞬間風速を観測している。
 同日夕刻(時刻不詳)、作業終了時の処理として、「日中の作業を終えたクレーンは通常、アーム先端から垂らしたワイヤに重りを付けて接地させ、安定した状態にする」ので、この日も、5㌧の重りを垂らした「通常」通りの処置を行って作業を終了した。「強風で倒れる恐れがある場合や年末年始などの長期休業時は、アームを折りたたんだり一部解体したりして、より安全な策をとる」が、このような強風時対応はとらなかった(以上、高島昌和・高浜発電所運営統括長らの記者会見報道、中日新聞)。
 20日午後9時49分、「構内で大きな音がしたため、現場を点検したところ、1、2号機格納容器上部遮蔽設置工事用の大型クレーン4台のうち1台のクレーンブームが2号機原子炉補助建屋ならびに燃料取扱建屋へもたれかかっていることを確認した」(関電発表)。クレーンは、風に煽られる形で仰向けに倒れており、台車の一方が少し浮き上がっていた。関電によれば、原子炉補助建屋には原子炉の冷却装置が格納されており、燃料取扱建屋には259体の核燃料が保管されていた。「2号機原子炉補助建屋ならびに燃料取扱建屋の屋根が一部変形していること」が確認されたという。破損の詳細は未公表。
 事故発生の後(時刻不詳)、「事故を受け、別の3台のクレーンは二つ折りの状態に戻した。二つ折りにすると『先端が接地するのでより安全』(関電担当者)なのだという」(中日新聞)。つまり、やろうと思えば、クレーンの倒壊を予防する手段はあったし、容易に実行可能であった。中日新聞は「それなら、なぜ最初からこの安全策をとらなかったのか」と問うているが、全くその通りである。

労働安全衛生法の安全規則に違反

 関電担当者は、記者会見で、強風対応をとらなかった理由として「元請けの大成建設やクレーンメーカーの調査で、この重り(5㌧)で毎秒42メートルの風に耐えられると評価されていた」からであると説明した。
 記者側が、「(関電、元請けの大成建設、下請け業者などのうち)だれが、アームを折りたたむという転倒防止策を講じないという決定をしたのか」と問うと、関電は「分からない」として回答しなかった(中日新聞、福井新聞)。
 つまり、関電は、この措置の決定者が関電自身であった可能性を否定しなかった。工事を急ぐために、関電側が要請して、翌日の作業にすぐに取りかかれるよう、本来は必要であった転倒防止策をとらないように促した可能性を、関電は否定しなかった。
 関電の上の説明の通りとしても、暴風警報が発令されている状況下で、(クレーンの高度約100メートルについて)風速42メートルを超える風が吹くことは「ない」という判断を事前に一方的に行うことは、工事の安全性の完全な無視以外の何物でもない。
 労働安全衛生法に基づいて制定された厚生労働省令「クレーン等安全規則」において、クレーンの「強風時における転倒防止」措置が義務づけられている(74条の4)。その際の「強風時」とは「10分間の平均風速が秒速10メートル以上の風」である(日本クレーン協会ホームページ)。決して「42メートル」ではない。
 しかも日本クレーン協会は、強風時の注意点として、「関係者は、この位の風では大丈夫と安易に判断せず、強風が予想されたら早めの対策を講じる必要がある」と強調している。
 関電の「(強風時対応をとらなかったのは、通常対応でも)42メートルの風に耐えられるから」という言い訳は、成り立たない。暴風警報が発令され、原発構内で風速14~15メートルの風が観測されていたにもかかわらず、本来義務づけられた転倒防止措置を怠ったことは、労働安全衛生法「クレーン等安全規則」にたいする公然たる違反行為である。労働基準監督局がすぐに調査に入ったことは当然である。

事故に現れた関電の安全意識の全般的退廃

 われわれは、高浜をはじめ原発再稼働時の多数のトラブルの危険性を強調してきた(上表)。今回の事故が再度示したように、関電の安全管理体制の全般的危機と、安全意識の退廃や安全規律の乱れは恐るべきレベルに進んでいる。政府や関電は、裁判所に対して影響力を行使し、運転停止の仮処分を撤回させて、何としても高浜原発を再稼働しようと策動している。原発の再稼働は、上に見たような労働現場での恐るべき安全無視体制の下で強行されようとしているのである。

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