府立学校条例から5年 「教育改革」で教員が悲鳴

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現職・公立高校教員インタビュー

しきりに叫ばれる教育改革。大阪では「維新」による「府立学校条例」(2012年)によって、3年連続定員割れの府立高校を「再編整備の対象とする」ことなど、学校統廃合までもが競争原理の範疇におかれ、教育予算削減や民間校長による独自改革が進められていることは、記憶に新しい。結果、教員の業務量が増大し、現場は悲鳴をあげている。大阪府の公立高校現職教員に、匿名で実態を聞いた。(編集部・ラボルテ)

──教職志望学生の「大阪離れ」が言われています。
 大阪での教員志望者は減少し続けていますし、現職教員でも他府県へ行こうと考えている人が増えているのが実情です。これらの背景には、大学のキャリアセンターでも「いったん受かりやすい大阪を選んで、その後に他府県を受けてみたら?」という指導が横行している現状があります。それぐらい、教員は大阪を避けていますね。 
 この理由としては、後述しますが、大阪の学校現場がしんどいのです。また、新任教員が多く配属され、若い教員が多いのが実態です。それゆえにノウハウも少なく、必死に生徒を指導しています。
 「勉強のできる子」と「できない子」の二極化が進んでいますが、うちには、九九の計算ができない、小学生低学年で学ぶ漢字がわからない、あるいは不登校状態が小中学校のどこかの段階にあった子たちの多くが入学する傾向にあります。
 中退率は高く、卒業時には生徒数が半分まで減ってしまう状態がありますが、進級・卒業要件に3分の2以上の出席要件があるので、不登校状態が改善されないと卒業が難しくなります。「これを個別に対応できるか?」といえば、相当難しいのです。理由は以下の通りです。
 大阪は学区制を廃止したので、片道1時間半以上、市を2つ3つまたいだ地域からも通う子がいます。「しんどい子の家に家庭訪問しよう」と考えても、クラスの半分が不登校状態ですから、量的にも物理的な距離としても、教員1人で対応できる範囲を超えています。
 また、学校への提出書類にしても、大学・専門学校進学に必要な入学金手続きにしても、教員がアナウンスを繰りかえしても「期日通りに提出しない」ということもあり、ギリギリになってお金がないことを打ち明けるなど、本来の業務と離れたところでかなりの力を割かれています。
 生徒たちの下校後に個々の家庭に電話をかけますが、保護者も出てくれません。「おかけになった電話番号は現在使われていません」の自動音声が流れることもあれば、知らぬ間に引っ越してしまった、という事例もあります。加えて、入学する生徒も多様化していて、外国ルーツの子どもたちのなかには「日本語がわからない」といった事情を抱えている子もいます。
 よくいわれることですが、「子ども自身にしんどさがある」というよりも、そもそも「家庭環境にしんどさがある」のです。これはかなり一般的で、どの生徒にも共通しています。

業務量として超過労働は不可避

──先生自身の仕事量に変化はありましたか?
 膨大な数の個別対応のほか、部活動があり、会議が週に4回あり、府教委から降りてくる意味のわからないアンケート調査協力などの事務仕事もあります。
 一番力を割いているのは、やはり授業そのものです。「簡単なことを教えているのだから、簡単なのでは?」と誤解されがちですが、生徒たちに「黒板に書いたことをノートに書き取る」技術がなく、「どうすれば理解してもらえるか」と、生徒の動向を把握し、丹念に授業を作り込まなければいけません。一般の教科書をそのまま使うこともできず、1コマずつにプリントを作成しています。この準備に数時間かけています。となると、超過勤務は避けられません。
 これに府教委が打ち出した改革は、「1週間に1回はノークラブデーを作って19時までに帰らせる」ことです。学校現場では、4~5年前にタイムカードが導入され、超過勤務実態が必然的にわかる状態です。そのことを受けて、「ノークラブデー導入」といわれても、仕事そのものは減っていないので、結局別の日にしわ寄せがいきます。
 教育の本質論からみれば、教員側にゆとりがないといけません。教員が生徒が抱える背景や問題を学ばなければいけない、ということがありますが、余裕がないんです。例えば、スクールカウンセラーなどを招いて行うケース会議は、準備が大変で、それに解決策を話し合っても、実行するための時間も人手もないのです。

教育の本質を乖離させる「評価育成システム」

──いま学校では、さまざまな「改革」が行われているそうですが
 前提として、底辺校は、PTAやOBなどとの結びつきが弱い学校です。廃校が多いなどを含めて、上からの改革で何をされても反発が出にくい状況です。教員から反発があっても、聞いてくれませんからね。これが意味することは、制度改革の実験台として真っ先に利用されるということです。
 制度改革の実験を底辺校で行い、それを「○○高校で実施されているのだから」と他校へ広げていくのが、府教委の常套手段になっています。これには自校生徒自身も、「有名な進学校ではやらへんやろ」と気づいているんですね。「子どもの自尊心を育む」と公言する府教委自身が、生徒から自尊心を奪っています。

──「民間校長」についてはどうですか?
 とにかく外の目を気にします。わかりやすい例として、ある南部の民間人校長は、いつも奇をてらったような授業を行い、マスコミ受けを狙っています。教育の本質からはずれた視聴率狙いの打ち出しによって、しわ寄せがくるのは先生です。飽和状態の業務量に追い打ちをかけていますね。

──大阪府政を維新が牛耳るようになって、8年が経ちました。どんな変化が?
 あらゆるところに「評価育成システム」という数値目標が課せられるようになりました。当初は「賃金に反映しない、あくまでも教員の授業力向上を目指す」といわれていました。ところがいまでは、年度の初めに自己申告表で目標を書かされ、年度末に達成率が何%であるかを評価され、翌年のボーナス査定に影響します。「自由に考えていい」といわれていますが、当たり前のように管理職の指導が入ります。管理職や校長自身にも組織としての数値目標が課せられていますから、実際は上意下達ですよね。
 書かされる目標について、現場の先生でいえば、「小テストの正答率を80%にする」などですが、ある意味、どうとでもできますよね。裏返せば、小テストを簡単にすればいい話です。となると、教育の本質からズレたことがここでも起きていきます。
 私自身は管理職といつも衝突していて、数字の目標ではなく、「生徒たち全員を卒業させるのが目標だ」と話しています。帰ってくる言葉は「卒業率100%を目指すのか?」と、またもや数字をいわれるんですね。
 ほかにもたちが悪いのは、生徒たちからの授業アンケートによって評価され、賃金を下げられてしまうということです。「こんなことをやっても教育実態は改善されない」ことは、管理職や校長自身も気づいています。

──他の教員の待遇面はどうなっていますか?
 細かい話でいえば、修学旅行の経費は宿泊費・交通費のみで、食事は個人負担となり、あとで請求書がきます。「民間並みに」といわれますが、民間以上の負担を強いられています。
 それに今年度から、人事院勧告で、給与の比較対象が係長クラス基準から主任クラス基準に下げられました。人事院は「遡及はしない」といっているのに、府知事の発言によって、給料を年度初めから遡及して天引きされます。知事は「遡及が基本だ」と話していますが、数年前にプラス勧告だった際には渋っていました。こんな嫌がらせをしておいて、教員が大阪に集まるはずがありません。

──最後に。
 教育の本質は「生徒ができなかったことをできるようにする」ことです。しかし、いまの現状でいえば、「こちらの設けた数字にどれだけ生徒をあわせるか」という話になっています。そこが最大のしんどいところです。「制度を現場にあわせるのではなく、現場を制度にあわせる」という真逆の現象が起きています。

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